#9
彼女と会う日は、あっという間に訪れた。
彼女の希望で、学校の最寄り駅、登校の時とは逆側の改札で集合することになった。
同じ駅だというのに、改札が違うだけで違う場所の様に思えるから、不思議だ。
改札を出ると、いつも見慣れた並木道が目に映る。
ただ、桜並木以外の光景は、使い慣れた同じ駅とは思えないほど栄えていて。
少し先に見える、大学病院の窓が太陽光を反射してキラキラと輝いていたのが、やたらと印象に残っている。
改札を出てすぐの柱に寄りかかって彼女を待つ。
慣れない髪のセット、少し背伸びをして買った洋服。
少し張り切りすぎていないだろうか、彼女に引かれたらどうしよう。
今日という日のために、色々と考えすぎて緊張していた僕は、
目の前に迫る人影に気づくのが遅れた。
人の気配を感じて、ぱっ、と顔を上げると、
僕を覗き込む彼女の薄茶色の瞳が目に映る。
驚いたように丸くしてから、きゅっと細められる彼女の目。
彼女は、イタズラに成功した子供のような無邪気な顔で笑っていた。
あの日と同じ桜色のワンピースに、夏に似合わない長袖の白いカーディガン。
僕の目の前にいる彼女は、記憶の中の彼女よりも線が細く、透き通った白さをしていて、
今にも消えてしまいそうだった。
その儚さすらも、彼女の美しさの一欠片のように思えてきて。
僕は彼女を前に、時が止まったかの様な錯覚に陥っていた。
「待たせちゃった?ごめんごめん。て、おーい?きこえてるー?」
顔の前でブンブンと手を降る彼女の姿を見て、ようやく僕の時は動き出す。
「びっくりしすぎてフリーズしてたわw 心臓にわりぃ〜」
「気づいてくれないんだもん、仕方ないじゃん?」
「それは、すまん。」
彼女は、くるりと向こうを向いて
それから、こちらを振り返って僕に言う。
「そんな事は置いといて、早く行こ?」
軽快に歩き出した彼女の後を追いかける。
風になびく彼女の髪の毛は、太陽の光を吸収して、明るく輝いている。
手を伸ばせば届く距離にいる。
彼女の細い手を握りたい、その衝動をグッと抑える。
手を握るのは、きちんと彼女に想いを伝えてから。
僕は今日、彼女に告白する。