#3
夏が終わり、冬が過ぎ、高校2年生の開始を告げるかのように、桜が咲き始める。
新学期が始まる日
心機一転、皺の伸びた制服を着て、学校に向かう。
最寄駅から学校までの道は桜並木になっていて
生徒の他にも、パラパラと桜を見に来た人が携帯を掲げている。
変わらない春の光景。
その中で、僕は幻を見たかのような心持ちになった。
桜色のワンピースの裾が、茶色ががった背中まで伸びた髪の毛が、春の風に揺れている。
すらっと伸びた白い手足までも、全ての色彩が彼女のためにあるかのよう。
桜の花びらの舞う道で、彼女の後ろ姿だけが、鮮明に目に映った。
夢見心地の僕は、無意識に彼女に声をかけていた,
「あの、すみません」
振り返る彼女の瞳は薄茶色。
あの日の彼女がそこにはいた。
「なんですか?って…夏蜜柑の子??久しぶり!」
嬉しそうに弧を描く彼女の口。
細められる瞳。
彼女の声を聞き、そして今見ている光景が夢ではないことに我に帰った僕は、慌てた。
「あの、いや、その節はありがとう御座いました、、じゃなくて、ええとお久しぶりです?」
慌てる僕を見て、クスクスと笑う彼女。
「なんで慌ててるの?面白いね、君。てか、敬語いらないよ?」
「あ、はい、、じゃなくて、うん。」
動揺する僕を見て、ケラケラと笑う彼女。
一通り笑った彼女は、ポケットから携帯を取り出し、僕にその画面を見せる。
画面にはQRコードが表示されている。
「せっかくのご縁だから、はいこれ。急がないと、学校遅れちゃうでしょ?」
アワアワとしながらカバンから携帯を取り出す。
「えっと、、、」
焦りで混乱状態の僕。
見かねたのか、彼女は僕の手から携帯を奪い、QRコードを読み取った。
「これでよし!じゃ、早く学校行きな?ギリギリなんじゃない?」
彼女から返してもらった携帯の画面には、8時12分と表示されている。
「やば、走らないとだ。」
「ほら言ったでしょ? 私のことはいいから早く行きな?」
「はい...うん。じゃあ、また。」
「またね」
名残惜しさを感じながらも、僕は振り向くことなく、学校へと急いだ。