#14
大学2年の夏
僕は、久々に祖母の家に泊まりに行き、帰りの電車に乗っていた。
真夏の電車に揺られて、ぼんやりと彼女のことを思い出す。
車窓から見える夏みかんは、太陽の光を吸収したかのように鮮やかな色をしている。
夏みかんを持った彼女と出会ったのも、こんな夏の日だった
彼女の姿は桜に重なるのに、彼女との思い出は夏が多い。
不思議なものだ。
友達の投稿を眺めながら時間を潰していると、記憶のない通知が僕の携帯に表示される。
"3年後の君へ"
通知をタップすると、カレンダーが表示された。
久しく開いていなかったアプリの片隅に、たった一つポツンと設定された予定。
”8月6日 3年後の君へ”
この通知を見る頃、君は私のことを覚えているのかな。
って今横にいるのに変な気分。
君が急かしてきてるから簡潔に
私の携帯のメモ帳
そこに未来の私は君にメッセージを書くだろう。
パスワードつけとくから、頑張って突破してね!
ヒント、、うーん思い出の日?
鈍感な君は気づけるかな?
イルカショーが楽しみな過去の私より
彼女の言う仕掛けとは、この事だったのか。
彼女らしい文面に少し笑みがこぼれる。
思い出の日、そう言われて僕が思いつくのはひとつだけだった。
家に帰りすぐに彼女の携帯を手に取る
あの日から触りもしていなかったそれに充電コードを繋ぎ電源を入れると
偶然か必然か、彼女の端末は時を刻み出した。
懐かしいホームボタンを押し、表示された画面の背景に僕は思わず笑いそうになる。
そこには、あの日彼女が撮った僕の姿がでかでかと映しだされていた。
明るい彼女らしい。
ひとり笑いながらも視界が曇る。
まだ泣いちゃダメだ。
そう言い聞かせて、メモ帳を開く。
彼女の言うとおり、そこには4桁のパスワードが設定されていた。
僕は、迷わずに4桁の数を打ち込む。
0806
彼女と出会った日
彼女と遊んだ思い出の日
彼女からの通知が届いた日
そして
彼女の名を示す数
当然の如く、ロックは解除された。
たった一つ、登録されたメモを
僕は静かに開いた。




