#12
それから、彼女からのメッセージは届かなくなった。
またね、と言った彼女の言葉は嘘だったのだろうか。
でも、僕から連絡する勇気はなくて、
そのまま彼女との連絡は途絶えた。
彼女との連絡が途絶えて2ヶ月ちょっと。
冬の日の朝に、いきなり彼女から電話がかかってきた。
もう来ないと思っていた彼女からの久々の連絡。
嬉しくなった僕は、直ぐに電話に出た。
「もしもし。」
けれど、電話の相手は彼女ではなかった。
「もしもし、いきなりの電話で申し訳ないです。こちら○○病院で看護師をしている者なんですけども、はるちゃんの知り合いであってますか?」
「・・・はい」
看護師さんから、病院に来るように言われた僕は、その日のうちに伺う旨を伝えた。
何が起こったのかが分からない。考えたくもない。
僕はぼんやりとした頭で、家を出た。
あの日彼女と別れた改札を通ると、正面に病院が見える。
道の両側には葉がまばらに寂しげにのびる、桜の木。
病院につくと、電話をくれた看護師さんが待っていた。
「いきなり呼び出してごめんね。これを渡したくて。」
看護師さんが手に持っていたのは、彼女の携帯電話だった。
「普段、看護師の私とも関わろうとしないはるちゃんの、数少ないお願いだったから。
"私がいなくなったら、この子に電話をかけて、携帯とこの手紙を渡してほしい"って。」
看護師さんが見せてくれた彼女の携帯の画面には
夏蜜柑くん
と書かれたLINEの通話履歴が表示されていた。
そして、彼女からの手紙は、4つ折りになっていた。
きっとこの紙を開いたら、僕は泣いてしまう。
だからその前に、看護師さんに聞いた。
「彼女は、いつ?」
看護師さんは、少し間を置いて、答えた。
「1週間前。静かに息を引き取ったよ。」
ナースコールの音に看護師さんが会釈をして去っていく。
病院を出た僕は、駅までの道中、人の少ない公園のベンチに座った。
そして、彼女からの手紙を開いた。
少しよれた不揃いな丸い字で書かれたメッセージ。
病床で書いたであろうその文字は、彼女が確かに生きていたことを示していた。
"君のスマホに仕掛けをした。いつか分かる。今は私のことを忘れてくれていい。だけど、その日がくるまでは、私のスマホを持っていてほしい。"
言葉足らずで、彼女らしい。
"私は、苦しくてもいいから、最期の時はひとりがいい、かな。誰かを傷つけたり、トラウマを作ったりはしたくない。むしろ幸せになって欲しい。けど1人でいいから、私のことを覚えていて欲しい。だから、私らしく最後まであがくかな。"
彼女はあの時、もう自分の最期を見据えていたのか。
なのに僕は、彼女のそばに居てあげられなかった。
僕に何も教えてくれずに、勝手にいなくなるなんて
「ずるいよ」
彼女はあまりに残酷だ。
でも、そんな彼女がどうしようもなく好きだった。
目の前に佇む桜の木についた、最後の葉が空を舞って、僕の目の前に落ちた。
その瞬間、堪えていた涙がこぼれ落ちる。
僕はぐちゃぐちゃの心を吐き出す様に、咽び泣いた。




