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桜に恋ゆ  作者: シン
12/16

#12

それから、彼女からのメッセージは届かなくなった。

またね、と言った彼女の言葉は嘘だったのだろうか。

でも、僕から連絡する勇気はなくて、

そのまま彼女との連絡は途絶えた。


彼女との連絡が途絶えて2ヶ月ちょっと。

冬の日の朝に、いきなり彼女から電話がかかってきた。

もう来ないと思っていた彼女からの久々の連絡。

嬉しくなった僕は、直ぐに電話に出た。


「もしもし。」


けれど、電話の相手は彼女ではなかった。


「もしもし、いきなりの電話で申し訳ないです。こちら○○病院で看護師をしている者なんですけども、はるちゃんの知り合いであってますか?」

「・・・はい」


看護師さんから、病院に来るように言われた僕は、その日のうちに伺う旨を伝えた。

何が起こったのかが分からない。考えたくもない。

僕はぼんやりとした頭で、家を出た。


あの日彼女と別れた改札を通ると、正面に病院が見える。

道の両側には葉がまばらに寂しげにのびる、桜の木。




病院につくと、電話をくれた看護師さんが待っていた。

「いきなり呼び出してごめんね。これを渡したくて。」

看護師さんが手に持っていたのは、彼女の携帯電話だった。

「普段、看護師の私とも関わろうとしないはるちゃんの、数少ないお願いだったから。

 "私がいなくなったら、この子に電話をかけて、携帯とこの手紙を渡してほしい"って。」


看護師さんが見せてくれた彼女の携帯の画面には


夏蜜柑くん


と書かれたLINEの通話履歴が表示されていた。


そして、彼女からの手紙は、4つ折りになっていた。

きっとこの紙を開いたら、僕は泣いてしまう。

だからその前に、看護師さんに聞いた。


「彼女は、いつ?」


看護師さんは、少し間を置いて、答えた。

「1週間前。静かに息を引き取ったよ。」



ナースコールの音に看護師さんが会釈をして去っていく。

病院を出た僕は、駅までの道中、人の少ない公園のベンチに座った。


そして、彼女からの手紙を開いた。

少しよれた不揃いな丸い字で書かれたメッセージ。

病床で書いたであろうその文字は、彼女が確かに生きていたことを示していた。


"君のスマホに仕掛けをした。いつか分かる。今は私のことを忘れてくれていい。だけど、その日がくるまでは、私のスマホを持っていてほしい。"


言葉足らずで、彼女らしい。


"私は、苦しくてもいいから、最期の時はひとりがいい、かな。誰かを傷つけたり、トラウマを作ったりはしたくない。むしろ幸せになって欲しい。けど1人でいいから、私のことを覚えていて欲しい。だから、私らしく最後まであがくかな。"


彼女はあの時、もう自分の最期を見据えていたのか。

なのに僕は、彼女のそばに居てあげられなかった。


僕に何も教えてくれずに、勝手にいなくなるなんて


「ずるいよ」


彼女はあまりに残酷だ。

でも、そんな彼女がどうしようもなく好きだった。




目の前に佇む桜の木についた、最後の葉が空を舞って、僕の目の前に落ちた。

その瞬間、堪えていた涙がこぼれ落ちる。

僕はぐちゃぐちゃの心を吐き出す様に、咽び泣いた。

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