#10
楽しげな彼女が向かったのは水族館。
僕がどうしても連れていきたかった場所。
薄暗い館内で淡くライトアップされた色鮮やかな魚たち。
目を輝かせて水槽を眺める彼女が可愛くて、
彼女に気づかれないように、こっそりと彼女の横顔を写真に撮った。
一通りブースを回りきったところで、彼女が疲れた、と言い出した。
ついでだから、とイルカショーを見るための座席に座る。
ショーの開始まで10数分。
手に持ったジュースを飲んでいた彼女が、ふいに僕の方を向いて満面の笑みを浮かべる。
差し出された右手。
ドキッとしたのもつかの間、
僕が握っていたはずのスマホは、いつの間にか彼女に奪われていた。
彼女はそのスマホのカメラを、僕の方に向けて。
カシャ
「人の携帯取ってまで盗撮かよ。ハルのスマホで撮ればいいじゃん。」
「いいの、いいの」
フンフンと楽しそうに鼻歌を歌いながら彼女は僕のスマホをいじっている。
「何してるんだよ、それ僕のだから。返せよ」
「ちょっと待ってよ〜悪いことはしてないから!」
数分後に返されたスマホ、
彼女とのチャットに僕の顔写真が送られていること以外は、
変な操作をされた跡は見当たらなかった。
水族館を満喫して、昼ごはんを食べにレストランに入った。
僕はオシャレなところがいいと言ったのに、彼女は頑なにファミレスがいい、と譲らなかった。
驚くほどに彼女は少食だったが、それが気にならないほどに僕達はおしゃべりに花を咲かせていた。
話の流れで、将来の話になる。
彼女は僕にこう聞いた。
「ねえ、君はどんな最期を迎えたい?」
「え、うーん。苦しいのは嫌だな。出来れば老衰、とか? 家族に囲まれてポックリ、みたいな ?」
いきなりの質問にありきたりな答えを返した。
あまりにテンプレなそれが少し恥ずかしい気がして、彼女に聞き返す。
「ハルは?」
彼女は神妙な顔をして、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「私は、苦しくてもいいから、最期の時はひとりがいい、かな。誰かを傷つけたり、トラウマを作ったりはしたくない。むしろ幸せになって欲しい。けど1人でいいから、私のことを覚えていて欲しい。だから、私らしく最後まであがくかな。」
最後に寂しげにニコッと笑う彼女は、今すぐ消えてしまうのでは無いかとすら思えてしまう。
咄嗟に僕はこう返していた。
「君の最期には、僕が立ち会うよ。」
彼女は驚いた顔をして、そして笑ってこう言った。
「ありがと、さすが親友 ! じゃあ、私の介護もよろしくね。」
「そこまでは言ってないし。」
「ひどーい ! 私のこと見捨てるの??」
ケラケラと笑う彼女は、先程の神妙な顔をした彼女とは、まるで別人のようだった。




