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#1
春の訪れを知らせるかのように、街には桜の花びらが舞い落ちる。
一気に美しい花を咲かせたと思ったら、1ヶ月持たずして儚く散る桜。
それでも、それだからこそ、その美しさは人々を魅了する。
儚く散るその様までもが、人の目には幻想的に映る。
桜の木を見る度に、桜並木の中でこちらに振り向く彼女の姿を思い出す。
風にゆえる髪の毛、少し微笑んだその口元、ふわりと空に舞うワンピースの裾
はっきりとは思い出せない、美しく儚い想い出
そんな都合の良い想い出になりかけている事が、
そんな自分が、許せない。
彼女は確かに僕と共にそこにいた。
彼女が誰よりも生きていた事を、僕は知っている。
彼女は確かに過去を生きていた。
桜の花びらの舞う空を見上げて、その幻想に目を細め足を留める人々。
その間を、鞄を手に早足で通り抜ける。
僕は桜が嫌いだ。
全てを幻想のように思わせてしまう、彼女のような桜が、嫌いだ。
何よりもそんな自分が、嫌いだ。