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ライアン①~勇者の記憶~

 エメラルダの魔法で城門を崩して町の中へ侵入する。

 まあ侵入と言ってもコソコソ入るわけじゃなくて堂々と入るんだけども。

 めちゃくちゃでかい門だったけど、エメラルダの超伝導ナントカの魔術で簡単に崩れてしまった。

 なんだかズルをしてるようで申し訳ない気分になる。


 この世界に呼ばれた時に神様から色々なギフトやらチートやらをもらったわけだけど、エメラルダやらバーバリーやらウチの仲間達も大概チートなわけで、自分が特別な存在なんかじゃないって俺が一番わかってる。

 各メンバーと個別に話をした時に、それとなく「君も異世界?」とか「神様と会ったことある?」とか聞いたことはあるが、誰も俺と同じような経験をしたヤツはいなかった。

 逆に俺が頭おかしいみたいな反応されるんで、結局転生チートは俺だけなんだと今は思っている。


 俺には前世の記憶がある。

 と言ってもトラックに跳ねられたら転生してましたとかじゃなくて、あの世界のことを覚えているという感じで。

 自分がどんな人間だったか、男なのか女のか、若くして死んだのか天寿を全うしたのか、そういうのは覚えていない。

 ただの知識として知っているだけ。

 そしてあの世界から今の世界に呼ばれてくる時に神様らしき存在と少し話をして、「こっちの世界はマジでガチやばいから特殊能力やるわ」的なことを言われたのを覚えている。


 前世を思い出したのは10才になろうかという頃だったと思う。

 昨日見た夢の内容をふいに思い出すような、なんの特別感もない感じで「ああ俺、前世あるわー」と思い出したのだ。

 そして自分にはどうやら光の剣なるスキルがあること、瞬間的に体力その他をマシマシにできること、俺にしか使えない魔術がいくつかあることを知っていた。

 10才のガキがそんなこと思い出したらもう使うしかねーじゃんってことで、近所の悪友相手に色々やって俺ツエーしてたら親にこっぴどく怒られて、教会から領主、領主から王様に話が行って、あれよあれよという間に王都の学園に特待生で入ることになった。

 そこで最初の仲間であるアルカディアと出会った。


 アルカディアは特別な家柄の特別な運命を背負った令嬢で、生まれた時から聖女として育てられてきた生粋のお嬢様だった。

 学園に入る前に王城でアルカディアと引き合わされて、大事な役目があるから仲良くするようにと言われた。

 ごきげんようなんて村にいた頃には聞いたことなかったから、もしかして外国人なのかなとか思って聞いてみたけど、よくよく話をしてみれば俺が田舎者のアホなだけだった。

 アルカディアは俺の話をクスクス笑いながら聞いてくれて、前世があることまで喋っちゃったけどそれも笑って信じてくれた。


 なんだかんだお互い第一印象は未知との遭遇だったけど、不思議と会話のリズムが噛み合う感じですぐに仲良くなった。

 俺もアルカディアも同じ10才だったのも良かったのかもしれない。

 アルカディアは洗練された都会のお姉さん的な感じで格好良かったし、俺は俺でその頃には大人の騎士よりも強かったから、お互いに尊敬できる部分があって対等な気がしてた。


 なんやかんや学園に入学して、それなりに紆余曲折もあってつかず離れず成長して、俺たちは勇者パーティーとして国から認定された。

 留学生として転入してきたエメラルダやバーバリーと引き合わされて、エルフの族長のお願いを聞いてドラゴンを退治しに行ったら恩返しとしてミネアリアを押し付けられて、勇者パーティーといえばゾンビだろと謎の理屈をこねてハンニバルが強引に仲間になった。

 他にもパーティーに入りそうなヤツは何人かいたけど、なんだかんだ実力やら信頼感やらでこの六人が魔王討伐のメンバーとして国から認定された。

 それからは学園に通いながら寝る間を惜しんで修行して、青春したり喧嘩したりしながら三年間みっちり実力をつけた。

 卒業する頃には俺とアルカディアも割と甘酸っぱい感じで、告白こそしないけど公認のナントカみたいな感じでずっと一緒だった。


 学園を卒業してしばらくしたら本格的に魔王が復活したらしくて、魔族による被害が増え始めた。

 魔王が復活しないと魔王城の場所が特定できなかったから、その段になっていよいよ俺達の旅が始まることになった。

 国を上げての出征式典で応援してもらって、父ちゃんや母ちゃんと久しぶりに再会して母ちゃんに泣かれたりして、魔族の住む暗黒大陸へと渡った。

 一回行ったところにはゲートを設置できるから、その都度王都に戻って報告やら作戦会議をして、また暗黒大陸の攻略を続ける。

 奥地に行くほど魔族や魔獣のランクも上がっていって、まあ楽に勝てる戦いは一度もなかった。


 そんなこんなで三年かけて勝ったり負けたりしながら魔王城を目指していたら、魔将軍とかいうクソ強い魔族が襲撃してくるようになった。


 獣将軍ゴレアス。

 魔人将軍サイラス。

 不死将軍ミザリー。

 機械将軍ロイド。


 このへんがよく現れて俺達の不意をつく形で苦戦を強いられた。

 他にも虫将軍とか木精将軍とかわけわかんないのがいたけど龍将軍にだけは最後まで手も足も出なかった。

 まあアンデッドになったら瞬殺に近かったけども。

 そいつら魔将軍が出てくるようになってからは格段に進捗が悪くなった。

 魔族の住む大陸の奥地で完全に不意を突かれる形で襲われるんで、毎回毎回死にそうな思いをして拠点を確保したり奪還されたりしながら進むしかなかった。


 そんなある日、アルカディアが王都から戻ってこなかった。

 戻ってくる予定の日を四日過ぎても戻らないアルカディアを心配して俺とミネアリアがゲートを使って王都へ戻ることになった。

 ところがゲートが使えなくなっていた。

 こっち側の術式は機能してるのに王都側の反応が全くない状態でどうしようもなかった。


 そんな時ゴレアスが攻めてきた。

 回復役のアルカディアがいない状況では打って出るのは危険だったから、俺達は拠点に篭って籠城戦をすることにした。

 籠城といっても拠点にはゲートがあるから、いつでも王都に撤退できるわけで、それほど物資も必要ではないんだけども。

 とにかく俺達は貝のように篭ってゴレアスの挑発をやり過ごしていた。


 ゴレアスが単騎で突撃を仕掛けてきた。

 砦の門をめちゃくちゃに攻撃して壊そうとしてくる。

 俺はこっそり背後に回ってゴレアスの背中を攻撃した。

 俺の攻撃を受けてゴレアスは城門を攻めるのをやめて俺と距離を取った。

 この隙に砦に逃げ込むつもりだったんだけど、ゴレアスが何かを言ってきた。

 その時はちゃんと理解できなかったんだけど、宰相マルヌスがどうとか国王はバカだとか色々言ってた。

 そして「オマエ達は見捨てられた」的なことを言って後方の部下に何か合図をした。

 羽の生えた魔族が何かを運んできて俺とゴレアスの間に落とした。

 それを見た時はまるで現実感がなかった。


 捨てられた人形のように投げ出された手足。

 長い髪が顔を隠していて誰かはわからない。

 けどその髪の色にも長さにも覚えがあった。

 服を着ていない状態で、前世で見たマネキンのようだと思ったけど、見えちゃいけない女の部分がやけに作り込まれていて、妙なリアルさがあった。

 動けない俺の代わりにゴレアスがマネキンに近寄っていって、その頭を掴んで持ち上げた。


 「聖女アルカディアは死んだ。俺が殺した」


 そう言ってゴレアスはマネキンを俺に向かって放り投げた。

 目の前に転がったマネキンを見て、ああこれアルカディアだわ、と理解した。

 そこから先は全く覚えていない。

 気がついたら俺は二つ前の拠点に戻っていて、エメラルダから治癒の魔術をかけられていた。

 気がついた俺にエメラルダが「この馬鹿!」と怒鳴って、「あなたまで死ぬところでした!」と言って泣いた。

 見るとハンニバルもミネアリアも傷だらけで、横を見ると俺と同じようにバーバリーが寝かされていた。

 エメラルダは俺とバーバリーの二人に治癒の魔術を同時にかけていたらしい。


 体を起こすとバーバリーの隣に人の形に盛り上がった毛布があった。

 バーバリーを跨いで人の形の毛布に近寄る。

 毛布を捲ると、アルカディアの寝顔があった。

 さっき見たのと違って顔を拭かれて多少は綺麗になっていたけど、どう見ても死んでいた。

 相変わらず服は着てなくて、悪いと思ったけど毛布をずらして全身を見てみた。

 どれが致命傷だったのか知りたかったんだ。

 後でミネアリアにチクられてアルカディアからめちゃくちゃ怒られたんだけど、そのときは何も考えず淡々と傷跡を確認していた。

 結局どれが致命傷なのかわからなかった。

 まんべんなく傷つけられて、きっと全てが複合してアルカディアの命を奪ったんだと思う。


 ハンニバルからあの時のことを聞いた。

 なぜか王都にいるはずのアルカディアが殺されていて、ゴレアスが亡骸を運んできた。

 それにショックを受けた俺がパニックになって、ゴレアスにボコボコにやられていたらしい。

 砦にいた全員が飛び出してめちゃくちゃにゴレアスに攻撃して、バーバリーがアルカディアを担いで、ハンニバルが俺を担いで砦に撤退。

 そこにいるような幻術をかけてさらに二つ手前の拠点まで撤退して俺とバーバリーを治療していた。

 バーバリーはアルカディアの亡骸を回収する時に狙い撃ちされて重傷を負っていたそうだ。


 「アルカディアに死霊術を使う」


 ハンニバルが言った。


 「俺達だけではゴレアスを倒しても先がない。アルカディアの全体治癒と聖域展開は魔王討伐には必須だ」


 その言葉に俺はこの世の全てが俺に味方していると感じた。

 わけわからないだろうけど、その時のハンニバルの言葉を聞いて俺は自分もアンデッドになるって思いついたんだ。

 アルカディアだけをアンデッドにするつもりはなかった。

 それなら俺も、と思ったところでこの戦争の結末が見えた。

 アンデッドの強さは俺達が一番よく知っている。

 不死将軍ミザリーに散々手こずってきたから、どうやったらアンデッドの特性を最大限に活かせるかも分かってた。

 アンデッドの不死性と無尽蔵のエネルギーを自分に当てはめたなら、それもう余裕じゃんとしか思えなかった。


 俺は一も二もなくハンニバルに不死化の魔術を俺にもかけてくれるように頼んだ。

 みんな驚いていたけど、それが一番確実に魔王を討伐できるって納得してくれた。

 俺は生きたままアンデッドに、アルカディアは死後転生という形でアンデッドに。

 どちらのルートでも同じリッチになると聞いて安心した。

 傷だらけで申し訳なかったけどハンニバルにはすぐに不死化の魔術を準備してもらった。

 魔法陣の完成は深夜になるってことだったから、俺はアルカディアの亡骸を抱き抱えて夜まで過ごした。

 冷たくなったアルカディアの体に俺の体温がちょっとずつ移っていくのが嬉しかった。


 そうしながら俺は、ゴレアスが言っていたことを思い出していた。

 宰相マルヌスが率先して俺達を裏切った。

 国王も敗戦後の地位を約束したら簡単に頷いた。

 王都中の民がゴレアスを歓迎して俺達を負け犬と嘲笑っていた。

 三日間もぶっ続けで宴をして流石の俺様も腰が立たなくなった。

 それらの言葉を反芻しているうちに、魔王の次は王都をどうやって滅ぼすか考えていた。

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