パトリック⑦~再びの野営地~
再び勇者パーティーのいる野営地を遠望する。
懐には降伏の書簡と王印、そして貴族全員の連名による謝罪文が入っている。
勇者にとってはまるで意味のないものだろうが、これが我が国が滅んでいくにあたり用意した形式だった。
明日、勇者は王都を攻める。
私はもはや交渉しない。
粛々と滅びを受け入れる旨を伝え、勇者達に対して罪のない者と子供達だけは見逃してくれと懇願するのみだ。
「ふーん」
私の言葉を聞いた勇者が興味なさそうに答える。
「まっ、いいんじゃない?抵抗しようとしまいと俺らがやれば一日で終わるから」
それだけ言うと勇者はまたシッシッと手を振って私との会話を打ち切った。
明日の午後、南側から侵攻を開始するという勇者達を王都にて待つ。
勇者達を出迎えるために南側の城門前広場に整列して出迎えよう。
翌日、予定通りに南側の城門前広場にて私を筆頭に宰相や議長、他の貴族達が並ぶ。
どこぞの大帝国の皇帝を出迎える時にもしないような、国家を上げての出迎えである。
この場に父上がいないのは離宮にて侍女に殺害されていたからだ。
したたかに酒を飲んで酔い潰れたまま殺すようにと命令されていたらしい。
どこまでも臆病で卑怯な父上らしい最期といえる。
王だった者の威厳も責任もない、本当に何もない父親だった。
母上は気が触れた様子で、父上の亡骸を前に呆けているという。
妹は昨日の夜に王族のための脱出口から脱出を試みて、どこからともなく現れたグールに食われて死んだ。
「…………」
そろいもそろってクズしかいない。
私が一番マシなクズであることは果たして幸せだったのか。
今となってはわからない。
広場に集まった貴族。
それを遠巻きにしている王都民を見る。
この三日間暴れ続けたためか皆ボロボロの有様で疲れ切っている。
哀れな民衆であるが三日三晩にわたるゴレアス歓待の宴を催したのは国ではない。
我々も民も勇者を見限っていたのは変わらないのだ。
その判断はおそらく正しかった。
ただ勇者が我々の予想を超える決断をし、神の敵であるアンデッドとなってまで魔王を滅ぼすと予想できなかっただけだ。
最後の最後で読み間違えたのは国も民も変わらぬか。
そんなことを考えていたら城門に大きな亀裂が走った。
続いてビシッビシッと音がして亀裂が縦横に伸びていく。
そしてガラガラと音を立てて城門だったものは瓦礫の山に変わった。
切ったのか、魔法なのか、何をどうやったのかわからないが、三階建ての屋敷ほどもある巨大な石門はわずか数秒で瓦礫と化した。
どよめきが巻き起こる中で注目していると、瓦礫の山を乗り越えて勇者パーティーが現れた。
我が国は今日、滅亡する。