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パトリック④~惨劇の後~

 謁見の間で告げられた勇者からの宣戦布告。

 そしてその直後に起きた惨劇によってすっかり心を折られてしまったのは私だけではなかった。

 宰相マルヌスはもとより各大臣や官僚達も皆、勇者パーティーになんとか謝罪を受け入れてもらえるよう努力すべしとの結論に至った。

 己の命はもう仕方ない。

 国民に国外脱出を促しつつ、勇者とその仲間達への最大限の礼を尽くそうということになった。


 派遣されるのは謝罪のための使節団。

 男爵の末路を思えば殺される可能性の方が高い決死隊。

 そんな使節団の団長には私自身が就くこととなった。

 国王代理たる私が任務に就くことに口先だけの反対を述べる者もいたが、国が滅んではどのみち王家も生きてはいられない。

 国を滅ぼした当事者達を、逃げ延びた国民が許すはずはないだろう。

 逃げ延びたところで袋叩きに遭い殺される末路は目に見えている。

 いずれにせよ国にとどまり、王家の責務として国に殉じる運命しか残されてはいない。

 ならばこそ私の最初で最後の公務として使節団を率いることを決めた。

 反抗期を脱せぬまま滅びる国の王となる馬鹿王子の悪あがきだと言えば、宰相も大臣達も力無く笑った。

 元凶であり、謁見の際に私を勇者に差し出した貴族達に言ってやりたいことは多かったが、すぐに彼らも後を追ってくるのだと思うと何も言う気にならなかった。


 ただひとり私のために泣いてくれたのは乳母であり私の心の母ともいえる侍女のマーサだった。

 何度促してもマーサは国外に脱出することを了承しなかった。

 最後まで王城に残り私の帰りを待つという。

 十年以上ぶりにマーサの腕に抱かれて互いのために泣いた。

 私はパトリック・オールドワーズ。

 オールドワーズ王国最後の王にして偉大なる母マーサ・ローレンスの不祥の息子である。

 母のために、国から出られぬ国民達のために、この命を使うと決めた。


 軍務大臣によると勇者パーティーは王都から馬で半日ほど離れた場所に野営しているらしい。

 偵察に向かった諜報員のことなど気にもとめずに仲間達と焚き火を囲んで談笑しているという。

 アンデッドであるためモンスターに襲撃されることもなく、実に気楽な調子で笑い合っているそうだ。

 謁見の間で見た硬い表情からは想像しにくい話だが、かつて見た人間であった頃の勇者は人当たりの良いお気楽な青年であった。

 それが勇者の本来の姿なのだ。

 仲間を大切にして屈託なく笑い合える気の良い男。

 単純に我が国が彼の仲間ではなくなったというだけの話。

 彼の側に理由があるわけではない。

 我が国が彼らを裏切り、彼の仲間を痛めつけ殺したという事実があるのみ。

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