パトリック⑨~エピローグ~
オールドワーズ王国の終焉と新国家の樹立とは、なかなかに混沌としたものとなった。
まずはグールとなった貴族全員が死霊術師ハンニバルの命令によって過去の行いを洗いざらい告白させられた。
「獣将軍ゴレアスとの密約に関わった者は俺から見て右側に集まれ。反対した者は左側、中立だった者は真ん中にそれぞれ固まれ」
ハンニバルの言葉には逆らえない為、全員が己の行動に従ってグループ分けされていく。
密約に関わった者は共食いも最後まで許されず地下牢に詰め込まれ、最大限の飢餓感と渇きに苦しむことになるという。
いつか恩赦が与えられるまで発狂するほどの苦しみを味わうのだ。
驚くことに密約に関して中立だった者はほとんどおらず、貴族の三割ほどが密約には反対の立場だった。
それでも三割しかいないあたり、我が国がどれほど腐っていたのかがよくわかる。
その三割の貴族がリッチとなり、新たにリッチにされた各官僚の仕分けを行い上位と下位の序列をつける。
勇者への裏切りに加担あるいは賛同した者は下位リッチの身分を与えられ上位の官僚リッチの命令に従うこととなる。
上位の官僚リッチは勇者への裏切りに積極的でなかった者達だが、いかんせん数が少なかった。
下位の官僚リッチを処分してしまっては国が回らなくなるので、しばらくは下位として働かせ、第一世代の国民が育ってきたら改めてグールに堕として飢餓の苦しみを味わうという。
貴族リッチ、上位官僚リッチ、下位官僚リッチという序列ができて命令には絶対服従で国家運営を行う。
下位官僚リッチが王都内の各町長リッチに指示して民衆の選別を行っていく。
数か月かけて王都民全員の選別が終わったら、ゴレアス歓待の宴に参加した者はグールに、そうでない者と未成年はそのまま人間として生活することになる。
ほとんどの王都民はグールとなって働くことになるので、親を失った子供達の嘆きは何年も続くこととなった。
成人の中でも教育や医療や農業や職人などの人材はリッチとなって子供達の成長や町の運営に貢献することが強制される。
子供達が成長して第二世代・第三世代が生まれる頃には下位官僚リッチも全て処分され、獣将軍ゴレアスに媚びて勇者を裏切った王都民は全てグールになる予定だ。
単純労働は全てリッチやグールが行うため、子供達は成長することに全ての時間を費やすことができる。
ただ王都の外に出ることは認められていない為、数世代を経て人口が回復するまでは王都は広い監獄のような都となる。
数十万の納税者を失った王都は当然ながら財政的には滅茶苦茶な状態となる。
そして同じ数の消費者を失ったのだから周辺の諸領の経済も壊滅的な損害を被ることになる。
それらを無償奉仕で24時間働き続けるアンデッドを派遣して立て直しつつ、新たな国家のあり方を模索していくこととなった。
「次の世代には国民は働かずアンデッドが働く国家になる」と宣伝をして国外への民の流出を抑え、それでも国を離れる者に関しては自由にさせた。
アンデッドによる国家運営がうまく行くのか行かないのかは数十年単位で判断していかないといけないが、女王である妻も私も時間はほぼ無限にあるので長い目で見ていくことに納得している。
アンデッドによる新国家の樹立には、教皇をはじめとした教会への根回しを徹底的に行った結果、意外にもすんなりと諸外国に受け入れられることとなった。
誰も武力で勇者達を討伐できるとは思っていなかったのもあるが、アンデッドとなってまで魔王を討伐した勇者の側に立ってオールドワーズ王国を非難した手前、勇者達とすぐさま敵対という判断を下せなかったのが要因だろう。
女王エメラルダや聖女アルカディアが教会の信徒として神に恭順の意を示したことで教会の権威は高まり、勇者や弓術士が暗躍して教会内での教皇の地盤を確固たるものにしたことで、教会は神聖アルカディア王国をあっさりと承認した。
周辺諸国に関しても恐れられてはいるものの国交は無事に結ばれ、女王エメラルダの故国ウィンザー帝国とも強固な繋がりを確立したことで我が国『神聖アルカディア王国』は新国家とは言えそれなりの発言権を有することとなった。
さしずめ温和な魔王という立場の勇者パーティーはそれぞれ悠々自適に国内外で生活している。
頻繁にお互いを訪問しあって良好な関係を続けているので、夫であり奴隷でもある身としては妻に捨てられぬよう今日も全身全霊で愛を伝えて過ごしている。
妻は義理の母であるマーサともうまくやってくれているので、しばらくは平穏無事に過ごすことができるだろう。
~終わり~
これにて本編が終了。
宰相視点の滅亡過程とお気持ち表明をあらかた書き終わっているので、短編として日曜日くらいに投稿します。
誤字報告ありがとうございます。
とても助かっています。
よかったら評価ポチお願いします。
以下当初のノリ
↓
「うわ、めんどくさー」
「やっぱり全滅でよくない?」
「どうかお願いだ!子供達だけは!」
「じゃあ死霊術いっとく?」
「なになに?官僚をリッチにしてめんどくさいのやらせる?」
「それめっちゃいいね」
「それじゃあ国を乗っ取るだけじゃね?」
「全滅させないならそれしかないわな」
「めんどくさー、俺には無理だわ」
「じゃあ王太子にやらせるか」
「成人以上は全員アンデッドね。そんで王太子を頂点にしたアンデッド国家」
「女王エメラルダいいじゃん」
「それナイスー」
「子供達はどうすんの?」
「それが第一世代の国民ってことでいいんじゃない?」
「親達世代はアンデッドだから不眠不休で働くと」
「三世代も経ったらめちゃくちゃいい国になってそうだよね」
「おっ採用ぅー」
「国の名前考えないとね」
「神聖アルカディア王国よくない?」
「採用ぅー」
「だめです!何でわたくしの名前なのですか?」
「その方が教皇庁とも上手くやれるじゃん」
「神聖ってどうするの?」
「アンデッドだけど宗教ちゃんとしてるよって意思表示てきな?」
「もうわけわかんねえな」
「周りの国がそう思ってくれたらラッキーってことで」
「じゃあその方向で。とりあえず王太子をアンデッドにしちゃおうそうしよう」
「俺が一番大変なんだが」
「じゃあハンニバルが王様でいいよ」
「いやそれも困る。わかったよやるよ。やればいいんだろ?」