オサメの特訓
「では、始めますよ!」
「はーい」
ファイルによる実戦訓練。
その最初の訓練は、ファイルの攻撃を防ぐことだった。
再び持たされた棒を手に、俺はファイルの前に立つ。
ファイルは、腰に提げていた剣を鞘ごと取り、構える。
さすがの俺も、痛い思いはもうしたくないので真剣に受けて立つ。
ファイルが、隙を伺うかのように数秒、俺をじっと見つめ
「そこです!」
ファイルが駆けてくる。
一歩一歩をしっかりと踏みしめ、力強い走り。
だが、分かる。
どこに攻撃してくるか、なんとなく分かる!
なぜなら………………何mも離れて走ってきたから!
その瞬間、俺の棒とファイルの剣が激しくぶつかり合う。
手が痺れるほどの衝撃。
っ………こいつ、やっぱり怪力だ。いや、怪力は今関係ないか。
「さすがに、防げましたか………っならっ!」
ファイルが剣を勢いよく引き、突きの姿勢を作る。
「ッ……!」
勢いよく剣を引かれたため、棒で剣を押し返していた時の勢いよくで、姿勢を崩す。
まずい!
だが、気づいたときには遅かった。
「まだまだ甘い………ですっ!」
俺の脇腹を的確にファイルが突く。
言葉にできないほどの強い衝撃が脇腹に来る。
「ぐおぉぉぉぉぉ!!!」
あまりの痛みに、俺はそこら辺をごろごろと転がり回る。
痛すぎる…………っ。
おかしいだろ、あいつ!
しかも、上手い具合に痛い所に当てられた。すごく痛い……。
そんな転がり回る俺を見ながら
「まぁ、最初にしては良いほうです」
なんて、ファイルが言ってくる。
うっ、良い方と褒められても、なんか喜べない。
「じゃあ、次はオサメさんが攻撃して来てください。私がその攻撃を防ぎます」
俺は、ようやく痛みが引いてきた脇腹を押さえながら
「それ、絶対やんなきゃダメか?」
「今後、死にたくないのなら、です」
つまり、死にたくなければ特訓は続けるべき、ということか。
………あまり、誰かを傷つけたくはない。でも
「よし、やるぞ」
俺は立ち上がり、地面に置いていた棒をもう一度手に取る。
俺は、もう死ぬわけにはいかない。
ようやく今、この特訓の重要さが身に沁みてわかった。
なんとなく、戦えるようにならなければいけない理由が分かった。
そもそも、こんな少女が一人でこんな所にいて、帯剣している時点で、ここはもう自分の知っている世界と違うということを、俺にとっての常識が通用しないことを、もっとしっかり自覚しておくべきだった。
だから、俺も戦えるようにならなければ………。
俺は特訓を再び開始するため、ファイルと距離を取る。
「準備、OKだ」
俺は棒を両手で握り、構える。
「分かりました。では、オサメさんのタイミングで始めてください」
ファイルも、俺とは多少異なるが、剣を両手で握っている。
…………。
風で揺れる草の音のみが、あたりに響く。
………………………………………今だッ!
俺は、ファイルに向かって走り出す。
全力で地面を踏みしめ、ときどき草がちぎれ、辺りに舞う。
ファイルとの距離が近くなり、俺は棒を振り上げる。
狙うは……………頭………っ!
ファイルが俺の狙いに気づいてか、剣を横にし、自らの頭を守るような位置に移動させる。
今だっ!!
俺は、棒を勢いよく振り下ろす。
ガキィッ! とファイルの剣と俺の棒が、ぶつかり合う。
そのまま数秒の間、鍔迫り合いをし、俺は思考を巡らせる。
ファイルに一撃与える方法を………。
だが…………俺には無理だ。ファイルを傷つけるなんて………。
バカみたいに平和ボケしている自覚はある。
それでも、いざという場面では、俺は誰かと殺し合うことはできる、そう思っていた。
これは訓練。いわば練習だ。
だから、誰かが死ぬ可能性はほとんどない。
それに、俺が今持っているのは刃物でもなんでもない。
ただの棒だ。
でもッ、それでも………ッ。
俺は、誰かに武器を向けるなんて…………出来ない……。
俺は自分でも気づかぬうちに戦意喪失し、棒に力を入れるのをやめていた。
その流れに沿って、ずるずると地面に膝をつく。
「えっ、ど、どうしたんですか!?」
ファイルが、俺の急な変化に戸惑う。
「………俺には、無理だ」
「へっ?」
もうこうなったら、全部洗いざらい話そう。
そうすれば、なにか別の道が見えてくるはずだ。
戦わなくても、いい道が。
「俺には、やっぱり無理だ。誰かを傷つけるなんて、誰かを目の前で苦しめるなんて…………。だから、俺にはもう、特訓は無理だ。戦うなんて、俺には無理だ」
「…………この世界で、戦わずに生きることができたのなら、私だってそうしたいですよ」
ファイルが真剣に、そして諭すように話す。
「それでも………」
ファイルが、大きく一拍あける。
そして、グイと俺の胸ぐらを掴み
「戦わなくちゃ、生きていけないんですよ! できることなら、私だって誰も殺したくない! でも、自分が殺される前に殺さなきゃいけないんですよ! 誰かを守る為に! 今を生きる為に! そして、自分が殺されない為に!」
「…………ッ」
「あなたは、戦ったことがない。正直、どうして今まで生きてこられたのか謎です! あなたの育った国は、戦わなくても生きていられる国だったのかもしれません! でも、あなたは今こうして、母国を出ています! そうしたらもう、自分で戦って、自分で自分の身を守らなきゃいけないんですよ! 分かりますか!」
…………俺は、転生ということ自体を甘く見すぎてしまっていたかもしれない。
まったく俺の知ってる世界とは違う世界、異世界。
俺にとっての常識や当たり前が通用しない世界。
それでも、心の底ではなんとでもなると、全部上手くいくと思っていた。
でも、現実はまったく違った。
今の感情をもし一言で表すとするなら、つらい。
戦いたくない。武器を持ちたくない。
でも、皆この世界では戦っている。
だから、俺も武器を持たなくちゃいけない。戦わなくてはいけない。
でなければ、死ぬ。
そんなこと言われたって、まだ俺にはそんな実感はない。
言葉だけじゃ通じないことだってある。
それでも……………。
俺は立ち上がる。
なんの因果なのか、俺は女神からも己を鍛えろと言われ、今俺も、自分自身を鍛えなければいけないと思った。
こうなったのなら、俺のすべきことは一つ。
「ファイル、俺に改めて稽古をつけてくれ」
ファイルは優しく微笑み、ほのかに嬉しさを顔に表しながら
「よくできました」
そう、言ってきた。
それから、本格的に俺の特訓が始まった。
毎朝、とんでもなく早い時間に起き、まずはランニング。
それから、腕立て伏せなどの筋トレメニューをして、実戦練習。
そういえば、俺は一つ勘違いをしており、この世界ではモンスターとかいう化け物が存在しており、それを倒すためにも、今後戦えるようにならなければいけないらしい。
ずっと、人を殺すと思って躊躇いがあった俺の心を返せ。
と言いたいが、さすがにこれは自分のミスなので、仕方がないと割り切る。
「オサメさん! 考え事をしていると、振りが甘くなりますよ!」
げっ、バレてた!
俺は改めて集中して素振りを始める。
シュッ、という風を切る音がよく聞こえる。
シュッ、シュッ、シュッ。
あと一回だ!
シュッ。
「うおおおっっしゃぁぁ!」
疲れた俺は指定されていた100回に達した瞬間、棒を放り投げ、地面に大の字に寝っ転がる。
俺の様子を見て、終わったと気づいたファイルが自分もやっていた素振りをやめ、こちらに近づいてくる。
「お疲れ様です」
「おう」
それにしても、単純なことほど疲れるというのは本当だな。素振り100回はとても疲れる。
いや、100回の時点で相当やばいか。
「では、オサメさん。休憩をとったら、実戦練習にしましょう」
実戦練習。
「そうだな、また頼むよ」
怖がってちゃ、いけないな。もう何回か練習でやってるわけだし。
あ〜あ。
俺は、青空を眺める。
そして、ふと考える。
社会に縛られない変わりに、力を持たなければならない。それがこの世界。
今の俺は、幸せなのだろうか。
特訓をすれば、自分自身は守れる。でも、それはただ、力で解決できることだけの話だ。
内面的なことは、守れない。
最近、こんな悩みばっかりだ。
俺はこれでいいのか、だとか。この世界で何を目的として生きるのか、だとか。
「考えることばっかだな」
そう呟き、そろそろ特訓に戻ろうと起き上がっ……。
そこで、俺は近くにいると気づかなかったファイルと目が合う。
「………………」
すごく気まずい。と、考えているのは俺だけかもしれない。
「特訓、お願いします」
ファイルはしばし逡巡する素振りを見せ
「………はい!」
よし、じゃあ早速始めましょう。
というわけで始まりました。特訓。
まず最初は攻撃を防ぐやつ。
ちなみに俺は、ここ数日で一気に成長した。
ファイルからの攻撃を上手い具合に防げるようになり、俺の攻撃もまぁまぁ通るようになった。
まぁ、通るようになるのは、なんだかんだ言ってまだ複雑な気持ちだ。
そして、今日は新しい実戦練習をするんだそうだ。
俺は、何が来るのかと心構えしながらファイルの準備が済むのを待つ。
…………。
それから、待つこと1分もせずしてファイルの準備が整う。
「オサメさん! 回避の練習です! 棒は使いません!」
「へっ?」
じゃあ、どうすんの?
なんとなく予想がつくが。
「私が剣で攻撃します! それを回避してください! では、早速始めますよ!」
そう言い、ファイルが駆けてくる。
「むずいだろ! この特訓!」
そう言いながらも俺は棒を後方に放り投げ、身構える。
もう見たくないほど見たファイルが剣を持ち駆けてくる姿。
さすがにもうッ……。
当たりたくない!
ファイルが俺の肩あたりを狙って、剣を横薙ぎに振ってくる。
それを俺はしゃがんで躱す。
シュッという風を切る音が頭上でする。
だが、まだ安心は出来ない。
ファイルが剣を振った時の勢いを利用し、一回転しようとしている。
そして、俺に対して背を向けた瞬間に……見えた!
剣を斜め下に傾ける動作が。
つまり次の狙いは、足元ッ!
ファイルの剣が俺に当たるギリギリで、俺はその場でジャンプする。
さすがのファイルも、もう攻撃が当たると思っていたのか、ほんの少し驚いている。
俺は、その間に着地する。
それと同時にファイルは剣の動きを止め、袈裟斬りにするように俺に向かって剣を振り上げてくる。
俺はそれを後退して避ける。
うおっ、剣が目の前を通った。すごい怖い。
その後も、ファイルはガンガン攻撃を仕掛けてくる。
その攻撃全てを、俺はしゃかんだり後退したり、または一回転するような動作で避ける。
……避けられる。
自分でも驚くくらい回避ができる。
剣で風を切る音も、なんだか綺麗な音に感じる。
今まであんなに怖いと思っていたのに。
それに、これまでの特訓の成果なのか、ファイルがどこを狙って攻撃しようとしているのかが、なんとなく分かる。
これなら、上手く戦えるようになってるんじゃ………!
そう考えた瞬間、頭に衝撃が走る。
「いてっ!」
気づけば、ファイルの剣が俺の頭に見事当たっていた。
「その油断で、世界が変わりますよ」
「いってぇ〜」
俺は頭を押さえながら、ファイルの言葉に耳を傾ける。
ちきしょう。俺は転生したんでもう世界変わってますよ。ファイルさん。
なんて考えつつ、痛みが引くのを待つ。
「それにしてもオサメさん、すごいですよ! 今日は今までで一番動けていましたよ!」
俺は痛む頭を押えながら
「……俺も、その自覚はある」
そう答えた。
なにせ、始めての特訓なのにも関わらず、今までの特訓と比べて格段に動けていたのだ。
まぁ、最後は…………油断したが。
「それで、急にこんな実戦練習させて目的は何なんだ?」
俺はそう尋ねる。急に回避の特訓をするわけが分からないのだ。
それを聞きファイルは
「急な状況変化にも対応できるのかなぁ、と思いまして」
「それだけ?」
「それだけです」
…………。
「これが最後の特訓ってことは?」
「ないです」
即答された。まだ俺は特訓に明け暮れる日々を過ごす必要があるらしい。
もう俺の体はボロボロだぞ! 毎日素振りさせるから!
「でも、そろそろ特訓も終わりですかね…………」
来たっ!
この時を待っていた! ついに終わる! 特訓の日々が……ッ!
ファイルが、う〜んと考える素振りを見せ
「では明日! 最後の試練を出します! それに合格できたら、旅に出ましょう」
「やったっっぁぁぁ!」
ついに、ついに明日頑張ればこの地獄とおさらばだ!
よし、本気でその試練に挑んで、合格を貰ってやる!
俺は勢いづき早速、放り投げていた棒を拾い自主練習を始める。
これまでのたった少しの経験を、ファイルに見せる為に。
気づけば、試練を出される当日になっていた。
この試練に合格すれば、思い出したくないがやっと落ち葉布団からも卒業できるかもしれない。
もうコリゴリだ。ファイルがテントの中で寝てるにも関わらず、俺が落ち葉布団の中で震えながら寝るのは。
そうゆう諸々の私情込みで、俺は試練を受ける。
試練の内容は頭にくっついている木の実を落とした方が負け。
という至極単純なものだ。
もちろん、落としてください、なんて言って勝たせてもらえる試練ではない。
俺は、持っていた棒を改めて強く握る。
視線の先には、剣を両手で握っているファイルがいる。
試練のスタートは、俺が一歩前に出ること。
そうファイルが言った。
………。
俺は集中する為、深く深呼吸する。
焦らなければ、絶対に勝てない戦いではない。
焦らず、慎重に。そして、これは俺の心の弱いところかもしれないが、なるべくファイルを傷つけないように。
よし…………行くぞッ!
俺はファイルに向かって走る。
距離はおよそで10m程度。
その距離がだんだん縮める。
だが、ファイルは動かない。
おそらく、俺が攻撃を仕掛けてくるのを待つつもりだ。
最初の一手を俺に譲るということか?
きっとファイルなりの考えがあって、ファイルは動いていない。
だとしたら、ファイルは何を狙っているんだ。
ファイルは俺を特訓してくれた人だ。そのファイルだからこそ、分かることがあるってことか?
速く、速く考えろ。きっと、今までの中に何かヒントがあるはずだ。
まさか、俺の攻撃がどこを狙っているか……………ッ。
分かった。分かってしまった。
俺の脳裏に一番最初の実戦練習が思い浮かぶ。
あの時、俺はなんとなくどこに攻撃してくるか分かっていた。
そして、その時の状況は今とまったく変わらない。
違いがあるとすれば、俺とファイルの位置関係が違うだけだ。
つまり、俺の攻撃はなんとなく予測されているッ。
距離はおよそ4m。
予測されているのなら、予測出来ないような攻撃をすればいい。
だが、言うのは簡単でも実際に行うのは難しいというものだ。
それでも、何かいい攻撃はないものか。
絶対に予測出来ないような攻撃。
足元を狙う? それとも顔?
おそらく、どれも予測される。
なら、あえて攻撃しない?
…………。
俺は過去の特訓の日々を思い出す。
どれも、今の状況の最適解らしき行動をする為のヒントがない。
じゃあ、いったいどう攻撃すれば………ッ。
………いや、ならば逆の発想であえて攻撃をせずに接近すれば。
俺はその瞬間確信を持った。
つまり、俺がやるべきことは………。
俺はファイルに肉薄する。
ファイルは、剣を構えいつ攻撃が来てもいいように身構えている。
俺はファイルに対し攻撃………をするように見せかけ、ファイルの背後に回避するような移動で回り込む。
ファイルもこの行動は予測出来なかったのか、驚愕をあわらにしている。
いける!
俺は、ファイルの背後から頭にくっつけた木の実を狙って、棒を振る。
だが。
ガキィッ!
俺の棒をスレスレの位置でファイルが剣を使って防ぐ。
くっ、さすがに経験の差かッ。
最初の一撃は失敗したが、ここからは俺も得意だ。
なにせ、嫌になるほど特訓したからな!
ここからは、特訓の成果が存分に出るぞ。
俺は剣の軌道に気をつけながら棒を引き、ファイルの右手、かつ利き手を狙う。
俺は、素早く棒を振り上げる。
ファイルは後退して、俺の攻撃を素早く避ける。
そう来ると思っていた!
俺は、ファイルの動きに合わせて前進する。
そして、振り上げた棒を遠心力に任せ、右手でしっかり握ったまま一回転させる。
「くっ……!」
もう一度振り上げるようにして迫った棒は、見事ファイルの右手に当たり、その衝撃でファイルは剣を取り落とす。
俺はすかさず棒を後ろに引き、突きの姿勢を作る。
………ここだッ!
俺は棒で木の実を突く。
だが突けたと思ったその刹那、ファイルが体を反らすようにして、俺の攻撃を避ける。
そして、ファイルが俺の突き損ねた棒を握り、自分の方に寄せる。
まずいッ………!
俺も、棒と共にファイルの方に寄せられる。
隙をついたと思ったら、逆に俺の方が隙をつかれた!
気づけばファイルは体制を立て直し、ファイルの拳が頭上に迫っている。
このままだと、やられる……ッ!
俺は大急ぎでしゃがみ、ファイルの攻撃を避ける。
頭上で、シュッというファイルが空振った音が聞こえる。
……ッ、反撃の一手を………。
だが、俺が反撃をする前にファイルに蹴り飛ばされる。
その時、見事に俺は棒から手を離し、唯一の武器を失う。
「くそっ……」
蹴り飛ばされてから地面をゴロゴロと転がり、ある程度の距離を保ってから、俺は起き上がる。
息が荒い。けれど、休んでいる暇はない。
ファイルは俺から奪った棒を持ち、こちらに迫ってくる。
ファイルの剣は、ちょうどファイルの後方5mほどの場所にある。
………取りに、行けない。
……………くそッ、回避して避けるしか無い………!
ファイルの振るう棒が俺に迫る。
シュッ。
俺は後退してその攻撃を避ける。
それに追うようにして、続けてもう一撃。
俺はそれを当たるか当たらないかのギリギリの場所で避ける。
シュッ。
シュッ。
シュッ。
俺はファイルから棒が振るわれる度に幾度も回避をする。
これじゃあ、埒が明かない。どこかで隙を見つけて俺のターンに持ち込まないと、流石にキツイ。
俺は焦燥しだす。だが、ここで焦ってはいけない。集中しろ。必ず何処かに隙はある……ッ。
俺は回避しながらファイルの隙を探す。
足元、腕、ときどき頭をファイルは狙って攻撃してくる。
先程のファイルの反撃方法を見様見真似で使おうにも突きの攻撃でなければ、どう動けばいいか分からない。
いや……………だからこそ、やってやる。
いつまでも、知らないから出来ないなんて理由が通じるわけ、ないだろうしな!
俺はファイルの振るった棒をちょうど左腕に当たる直前に右手で押さえる。
バシィッ!
右手に強烈を痛みが走る。
……くそ痛ぇ。
……だが、ここで痛みに負けるわけにはいかない。
俺は、すかさず棒を握ったままファイルとの間合いを詰める。
その時に俺はちゃかり棒を握る手に右から左に変える。
さぁ、どう来る………ッ。
間合いを詰められたファイルは、左手で俺の顔を殴りに来る。
俺は右手でその攻撃を受け止め、それと同時に足払いを放つ。
「っ……!」
ファイルは俺の足払いで後ろに倒れる。
よしこれなら勝て
「ぐおっ………!」
互いに棒を離さなかった為、ファイルと共に俺も倒れる。
っ………! ここで完全に倒れたら、色んな意味で俺が不利だ。
左手は棒を握っているせいで自由ではないが、右手は気づかぬうちに自由になっている。
だったらここで、勝負をつける!
俺はファイルの頭についている木の実を右手で潰す。
そして、重力に従い俺も完全に倒れる。
……………。
「あ、あの…………」
やばい。ファイルの様子が。
「……………………はい」
俺はしぶしぶ返事をする。
次の言葉が怖い。
「ち、ちか、ち、へへ、へ、へん、こっ、殺します!!!」
「俺が悪かった!! 頼む許してくれ! 事故だ! 事故なんだ!!」
ちきしょう。痛い。
全身が痛い。
あの後、ファイルにボコボコになるほど叩かれた俺は、ファイルと向かい合って座っている。
ちなみに、中央にはまだ燃えている焚き火が置いてある。
「どうぞ、ジャガイモです」
「どうも」
俺はそう言って、放り投げられたジャガイモを受け取る。
相変わらず茹でただけのジャガイモだ。
それにこんな感じのシチュエーションも二回目だ。
さすがに3回目は来ないで欲しい。
俺はジャガイモをかじりながら
「これで旅に出られ」
「ます。あなたは強かった。でも、あれはないです。サイテーです」
そう言ってファイルは、ふんとそっぽを向いてしまう。
やべ、まだ怒ってた。
どうしよう。俺、まだこの世界についてよく分かってないからファイルがいないとまずい。
…………こうなったら、直接聞いてみよう。
「なぁ、ファイル。どうしたらお前は、俺を許してくれる?」
「私の願いを聞いてくれたら、考えてあげなくもないです」
「願いくらい、いくらでも聞いてやる」
「聞くだけじゃ、ダメですよ?」
いいさ、願いの一つくらい。俺にできるのなら叶えてやる。
「俺に出来るやつなら、叶えてやる」
ファイルは、ピクッと反応し、言うか言うまいか悩み
「私が危ない時、助けて欲しい。それが、私の願いです」
「そんなこと、言わなくったって助けてやる」
俺はファイルに助けられたんだ。俺だって、ファイルが危ない時には救いの手を差し伸べてやる。
それが、今の俺に出来る恩返しだからな。
ファイルはその言葉を聞き、微笑む。
そして
「あなたみたいな旅人、始めて会いました。すごく、すごく嬉しいです」
ファイルは立ち上がり、もう片付けて詰めていたバッグを背負う。
最後に鍋に入っていた水で焚き火を鎮火し
「それでは行きますか。ここからが、私達の旅の始まりですよ」
素振り(そぶり)と素振り(すぶり)は同じ漢字を使っていると始めて知った。漢字っておもろい。