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オサメの会遇

 剣を腰に提げている少女が俺に話しかける。

「あなたはなぜ、あんなとこで倒れてたんですか?」

 実は転生してきました! なんてさすがに言えない。なので俺は

「ちょっと腹が減って、そのまま気づいたら倒れてて………」

「そうなんですか! では、せっかくですので」

 少女が後ろに置いてあるバッグから鍋を取り出し

「私が久々に腕を振るいます!」

 勢いよく、その鍋を焚き火の中心に置いた。

「ありがとう、助かる」

「いえ、いいんです! 助け合いは私にとっての旅のモットーですから! あっ、水汲んできます」

 そう言って、鍋を焚き火から離し、川に持っていった。

 ……………。天然なのか、ただのアホなのか………。

 というか、推測で言ったが川なんてあるのか?

 それはさておき今、俺は倒れていた場所からほとんど離れていない、あの少女の一時的な生活場所のような所にいる。

 そこには、あの少女が準備したであろう、小さな焚き火を中心にして横にした丸太が二本、置かれていた。

 そして、その焚き火の少し離れた所にテントがある。

 二本ある丸太のうち一本に俺が今、座っている状態だ。

 ちろちろと小さく燃える火を眺めながら、俺は今後の予定をどうしようか、考える。

 と、思ったがやはりやめた。

 俺はよいしょと立ち上がり

「せっかくこんな不思議ワールドに来たんだ、迷惑にならない程度でちょっと探索してこよ」

 探索することにした。

 ここは山の高台なのか、辺りを見回しても見えるのは木の枝と葉ばかりだ。

 とりあえず、本格的に下に降りると確実に迷子になる未来が見えるから、この真っ平らな草原ゾーンからなるべく出ないよう探索する。

 だが、改めて見てみても、まったくもって何もない。

 あるのは大量に生えている草、そして遠くに見える山くらいだ。

 あとは、見上げると空いっぱいに広がる青空。

 あの少女がいないと、ただの自然豊かな場所だと錯覚する。

 だが、あの女神いわくここは異世界。

 まだ、なにが俺のいた世界と違うのかが、いまいちよく分からない。

 あと、これはただの勘違いかもしれないけど、なんか身体能力とか基礎的な運動能力が格段に上がっている気がする。

 なにせ、今までならこのくらい歩けば疲れたと感じるはずなのに、今は特になにも感じない。

 俺、今ならすごい戦える気がする!

 ……………。

 そろそろ戻ろ。なんかヤバい気がする。

 ちょっと木が近くなってきた。

 俺は草を踏みながら、来た道をまた戻る。

 てか、探索ってほど探索してないな。

 ……………そのうち、嫌なほどすることになるだろうし、ま、いっか。

 俺はてくてくと、戻っていく。

 そんな時、ある疑問が俺の脳裏をよぎった。

 この世界での、俺の目的。

 俺は今まで、医者を目指して日々を暮らしていた。

 だが、どれだけ勉学に励んでも俺の成績は一向に上がらず、しまいには教師に、君の夢はきっと叶わないのだからこの志望校はやめなさい、と言われる始末。

 俺はそれだけ、今でも頭が悪い。

 自分でも分かってた。

 どんなに努力しても、埋まらない差があることくらい。

 それでも、諦めきれなかった俺の夢。

 結局、叶わなかった俺の夢。

 こっちの世界でも、その夢を追い続けてもいいかもしれない。

 でも、一体この世界がまず全体的にどんな世界なのか分からない以上、自分の夢を語るのはまだ早いと思う。

 だからこそ、自分の夢とは別の、生きる目的。意味。

 まずは、この世界を知ることから? それとも、また医者を目指す? それとも

「あっ! お〜い、ここですよ〜!」

 そこで、少女の声が響く。

 やべ、戻らなきゃ。

「悪い! 今、戻る!」

 よく考えたら、今の俺そうとう失礼なことしてるじゃ…………。

 後で謝ろう。

 そう心の中で決め、あの少女の元へ戻る。

「ごめん、ちょっと歩いてた」

「ああっ、いえいえ! 大丈夫ですよ! そのくらい」

 でも、なんかすいません………。

 ………………。

 場に沈黙が流れる。

 俺は、気まずい雰囲気のなか、ちゃっかり丸太に座る。

 鍋に入っている、少女が汲んできたであろう水はまだ沸騰する様子を見せない。

「なあ、何か俺に手伝えることってないか?」

 さすがにずっと待ってるわけにはいかない。

 すると、少女は少し考える素振りを見せ

「あっ! じゃあ、ジャガイモの皮むしっといてください!」

 そう言って、バッグからジャガイモと果物ナイフのような小さめのナイフを俺に渡してくる。

「お願いします!」

「おう、任せろ!」

 俺はしっかりと受け取る。

 よし! これで俺も気まずい雰囲気に流されずに済む。

 俺は、渡されたナイフでジャガイモの皮だけを切っていく。

「そういえば、まだ名前言ってなかったですね、私、ファイルって言います!」

 へぇー、覚えておこう。きっと、大切だ。

 いや、絶対大切だ!

 そして、俺も忘れないうちに名乗る。

「俺は、オサメ」

「おおー、いい名前ですね!」

「そうか? 初めてそんなこと言われたよ」

 今更だけど、俺の挨拶必要最低限すぎたな…………。

「そうなんですか? でも、意外と名前って聞いても結構そうなんだ、で済ませちゃいますよね〜」

「とても共感する」

 実際、名前を聞いても5分後くらいには忘れちゃってること多いし。

「ですよね! あっ、話変わりますけど、ここまでどうやって来たんですか? しかも、武器なしで」

 ………………。それを聞いちゃあかん。まったく辻褄の合う理由が思いつかない。

 普通の山なら登ってきただけ、と答えればいいのだろうが、あの少女、ファイルが言った武器なしで。

 この言葉から考えるに、おそらくただ登るだけじゃここには来れないってことだと思う。

 ……………。どうしよう、言い訳が思いつかない。

 それにこのまま黙り込みを決め込んでいる訳にもいかにい。

 よし、こうなったらゴリ押しだ。

「登ってたら来れた」

「………さすがに嘘ですよね?」

 嘘です。大嘘です。

「……………」

 俺は黙り込む。

 こうゆう時は、結局黙るのが一番の手だ。

「………あの、えっ、な、なんで黙るんですか、えっ、ちょっ、なんか言ってください! あ、あの!」

 ファイルがジャガイモとナイフを置き、俺の肩を揺らしてくるが、それでも俺は

「やべー、皮切るのすげー大変だー、集中しなきゃ手を切っちまうー、話してる余裕はなさそうだー」

「本当になんなんですかー!?」



「どうぞ、ジャガイモです」

「ありがとうございます」

 痛い。ちきしょー。

 あの後、ずっと黙り込みをしていたら、教えてくれたっていいじゃないですか! ケチ! という言葉と共に一発、頭を殴られたため頭が痛い。

 というか、もうあれから10分くらい経つはずなのにまだ痛い。

 どんだけあいつ、かいり…………俺は配慮の効く男なので、これ以上は言わないでおく。

 てか、どうしよう。どう考えても怒ってる。

 やっぱり、それっぽい言い訳をしたほうがいいか? でもなぁ〜。

「な、なぁ」

 俺は、さっき受け取った茹でただけのジャガイモをかじりながら、話しかける。

「いえ、いいです、私も……ちょっと乱暴しすぎました………その、すいません」

「いや、俺もその……悪かった」

 けど、多少は仕方ないと思ってほしいです………。

「…………そういえば、オサメさんはどうしてここに?」

 げぇっ、またなんて言えばいいか悩む質問を…………。

 と、言いたい所だが、俺はさっきの探索(仮)でここのいいところを見つけている。

「自然豊かな景色を見たいから、だな」

「おー! 実は私もなんです! いいですよね〜ここから望むことが出来る景色」

 本当だよ。

 俺は改めて景色をみる。

 遠くをよく見れば、そこには山があり、鳥たちがその付近でパタパタと飛んでいる様子がうかがえる。

 言葉で表すと、たったそれだけ。けれども、俺が見ている景色は、とても壮大で迫力があった。

 きっと、転生してなかったらこんなに綺麗な景色を見ることもなかったんだろうな。

 そう思うと、転生しても悪いことばかりじゃないんだろうな、と感じられる。

「オサメさんは、この後どうする予定ですか?」

 正直に言うと、まだ何も決まってない。

 でも、この景色を見て思った。

「ちょっと、旅をしてみたいかな」

 紛れもない本心。それを伝えると、ファイルは見るからに嬉しそうな顔をし

「じゃあ、私と一緒に旅をしましょう!」

「おう! いいぞって、へぇ?」

「へ? 私、変なこと言いました?」

 いいえ、何も。

 俺は、ブンブンと首を横に振り、否定を示す。

 否定したのは、変なこと言いました? の発言についてであって、一緒に旅をしたくないというわけではないからな。

 ファイルは安心したように、ほぅと息を吐き

「良かった、実はここに来るまで、結構寂しくて……」

 仲間に勧誘したのって寂しかったからかよ。

 俺はどこか安堵しつつ、がっかりしつつで、ファイルに質問する。

「ちなみに、次行くとしたらどこに行くんだ?」

「そうですねー」

 しばしの間、ファイルが考える素振りを見せ

「次は商業が盛んな国、ディファレントに行こうと思ってます!」

 ディファレント………differentの間違いか? 

 ……………いや、さすがにそれはないか。

「あれ、もしかして知りませんか?」

 まったく知りません。

 俺が、その国について知らないと伝えると

「そんな! 誰もが行ってみたいと思う有名な国ですよ!?」

 そんなに有名なのか。ちょっと興味が湧いてきた。

「詳しく聞きたい、解説求む」

「本当に知らないんですか…………」

 悪かったな! 俺はこう見えても、自分のいた国の名前もろくに言えないし、覚えてない男だよ!

 自分で言ってて悲しいよ!

「では! 今から私が、ディファレントという国について解説いたしましょう!」

「お願いします」

 こうゆう時は礼儀を大事に、だ。

「先程も言った通り、ディファレントは商業の盛んな国です、世界各国から沢山の商品を取り寄せ、販売する、その中には時々、あまり市場に出回らない商品もあります、そして、それらの商品を求めて沢山の旅人や冒険者が集まる、そんな国です」

 ただただ商業が凄いだけの国じゃん。

 だが、裏を返せばその国で生活に必要な品を沢山買えるかもしれない。

「面白そうだし、行ってみたい! 行こう!」

「ええ! では、早速準備して行きましょう!」

「おう!」

 って、もう行くのかよ。

「今から行って時間とか平気なのか?」

 気になったので、聞いてみる。

「全然大丈夫です! だってまだ朝の7時ですよ?」

「じゃあ、大丈夫だ!」

 その後、ファイルのテントたたみを手伝い、焚き火を消して………。

 テントやバッグを入れ、パンパンになったリュックを背負ったファイルが先頭に立ち

「では、行きましょう! 行き先はディファレント!」

 の掛け声と共に俺達は歩き出す。

 と、俺は思った。

「ひとつだけ、大切な質問していいですか?」

「いいよ」

 俺は二つ返事で答える。

「これは旅人ならできて当然だし、そんなはずはないと思うんですけど、オサメさんって、戦えますか?」

「まったくもって戦えません」

「………………………………………へぇっ?」



 あの後、なんでなんですか! 旅人ですよね!? と散々怒られた。

 それほど、この世界において戦えるほどの力は大切らしい。

 そして朝8時、1時間前に片付けたばかりだと言うのに、あの時とまったく同じ状態になっており、俺はある物を持たされていた。

 長さ1mほどの棒。というか、ほぼ突っ張り棒。

 一体こんな物を持って、俺は今から何をすることになるんだ?

「武器を持っていないオサメさんの為に、それはあげます」

 先程、お叱りの言葉を貰ったときにリュックの中身を確認していたのは、こうゆうことだったのか。

 あと、その時に俺も何が入っているか見てみたが、とんでもなく分厚い本が入っていた。

 女神の奴、俺に何を思ってあんな物を持たせたんだ?  あの短時間で考えたが、未だに理由が分からない。

「いいですか! 今から私が、あなたを戦えるよう訓練します!」

 なにか、嫌な予感がする。

「まずは、基礎体力作りからです! 素振り100回!」

「ちょっと待った!!」

 さすがにそれは無理がある。

「なんですか! 言い訳は聞きませんよ」

「いや、素振り100回もする必要ある?」

 頼む、納得して素振りせずに済むようになれ。

「あります! 実際、私は毎日のようにやっていました」

 嘘だろ、まさか本当に素振り100回が必要だと言うのか?

 それに……

「はい、1! 2! 3!」

 俺は、言おうとした言葉を遮られ、強制的に素振りを100回もする羽目になった。



 その後、腕立て伏せだのなんだのと、他にも何種類ものトレーニングをした。しかも100回ずつ。

 そのせいで、今現在とても体中が痛い。

 大の字になって横になる俺のそばに、ファイルが近づいてくる。

「オサメさん、次は実戦的な訓練をします。ほら、速く立ってください」

 ……………………。

 今すぐここから逃げ出したい。

 このままじゃあ、戦う為の力を手に入れる前に息絶えてしまう。

 俺は、痛む体を起こし、辺りを確認する。

 地面に置いてあるリュックは、ファイルの後ろにある。

 よし、あのリュックは諦めよう。

 俺は回れ右をし、ファイルの目の前で逃げ出す。

 だが、2歩目を踏み出そうとした瞬間、襟首を掴まれる。

「大丈夫です、訓練で死ぬことはありません。なので、続きを始めましょう」

 人生で初めて、純粋という単語が怖くなった瞬間だった。

 

 

 

後書きって、意外と書くこと思いつかない。………それだけです。

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