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黄昏時の怪

「うん、採集だけ一緒にやろうってこと」

「いいよ~」

「わかった、じゃあ、槍と籠持って行こう」

エコマサの二人とはすぐに話が決まり、準備して出かける。



黙って行っちゃうのも悪いし、途中に居る筈のトモトヨについでに声掛けておこう。

そろそろ姿が見えて来る辺りで声を掛ける。

「トモちゃーん」

「トヨー」

「おーい、出かけて来るよー」


「お、どしたー? 出かけンのかァ?」

見積もった場所から少しずれた、凸地の向う側からひょこっと首を出すトヨ。


「灌木とか生えてる辺りー」

「気をつけてなァ」

「おー」


--


前回とは別の灌木で採った。

とりあえず一枚だけ作る心算。

マサとエコは蔓や薪や草を採ってる。

今回は採集は早めに終わらせた。


手を洗って休んでるうちにトヨトモも帰って来る。

出来立ての二本の浄水筒を穴蔵の最奥の両隅に安置して、

「絶対に蹴とばすなよ?」

「いや、蹴とばすとしたらトヨだろ? 薪をくべててボコッ」

「ねえよ! 寝ぼけエコじゃあンめーし!」

と笑い、エイコが淹れてくれた摘みたてカミッレ茶で憩う。


その後、木陰で順調に製作は進み、日暮れの頃には各自の作業も終わった。


ぼくの作った盾はまだ粗削りだが、そこそこ使いやすい。

仕上げの段階で、あちこちに余した枝の端を石斧で断ち切るのだが、どうしてもバリは少し残るから、敵側にだけ出した。

把手を編み込むのは初めてだが、位置取りも編み込みも、無難に出来た。


下端には体重を乗せて踏みつける為の把手に似た突起も設けた。

二人以上で寄って体重を掛けて盾を構えれば、それほど大型でない猪の突進を防げるんじゃないかと考えてだ。

今日は一人分しかできなかったが、これで作る要領は確かめられたので、明日のうちにあと二つ作れるだろう。



すっかり日も暮れて、お花の香りが充満する穴蔵に戻ったが、


「あ、しまった」

と思わず声をあげてしまい、マサが

「ん、なに?」

「ゆうべ、顔に土埃が落ちてたんだけど、対策考えるの忘れてたんだ」

「いけない、あたしも忘れてた」

「うーん? とりあえず、ズボンでも顔に被る、とか?」

「仮小屋に居る間は、それで済ませるか……」


そうしているうちにまた一つ、寝起きの際のトラブル予防を思いつき、

「あ、ちょっと取って来る」

「ほーい」


戸口を閉めて、木の下の物資集積所へ。


外はすでに薄暗くなっているので、見分けづらい。


「紐は、どれだ……」

探しているのは、粗めの樹皮の紐なのだが、その束が見当たらず、草の束ばかりだ。

「おっかしいなあ……」

と首を傾げていたが、歩き回って一つ一つ触れてみて、やっと勘違いに気が付いた。

紐の束はさっきから視界に入っていたのだが、草の束と見間違えて、ずっとそう思い込んでいた。


無駄に時間食ってしまった。

黄昏時の暗さは増していた。

辺りには、ただの一人の仲間の姿も無い。

穴蔵の外に、今は一人だけ、ぽつん。


風が吹いて、ぞっと背筋が粟立った。

身を竦めて、息を調えながら、周りを神経質に見回して、何も居なそうだと見て、それでも薄暗がりに取り残される雰囲気に怯える。


紐は数本だけ取ればいい、そう思っていたのに、引き抜く為に紐の束だけ視て周囲が見えなくなるのが怖くて堪らない。


あまりそこだけ見ないように、常に周囲を見回しつつ、指先を紐束に触れさせて、数本をまとめて、しっかり抓んで、ぐっと引き抜こうとするが、束から引き抜けない。

幾ら引いても、出て来ない。

焦りが出て、身体の動きが限定されて厭だけど、両手を差し伸べて、視線は周囲を警戒しつつ、紐の束を探り、引き抜こうとするが、どうにもうまく引き抜けない。

仕方ないから、もう束ごと持って行こう、そう思って、ふと紐の束を見ると──



その向こう側には、死んだ男の首が、だらんとべろを口の端から垂らして、木の枝から逆さまにぶら下がっていた


首の切り口から、血が顔じゅうに細く垂れ、細く絡み合って顔を覆う幾つかの髪の毛の先から、地面へ糸を引いて滴り落ちている



~~~~~~ッ!!


声にならない悲鳴を挙げて、後ろに転げて尻もちをついた。

髪の毛が逆立った。


その時、ゴォーッっと山の森の頂で強い風が鳴り響いた。

ハッ、として木々の間の空を見上げ、それから怖いのに目がまたそこを見る──


さっきは、紐の束のうしろに吊り下がっていた草の束を、死者の首と見間違えただけだった。

ふぅ、と安堵しかけた──



うしろに、何かいる



背後の気配に、髪の毛が逆立ち、肌が粟立つ。


~~~~~~


「どうしたんだ?」


トヨだった。

「お、驚かせるなよ……」


大きく溜息を吐いて、振り返って見上げた所に居たのは、鼻の突き出た天狗様──


今度こそ、世界が廻りだして、暗くなっていく──


--


「おい、しっかりしろよ」

「……あれ……」

「オ、気がついた」

マスクを掛けたトヨだった。


「トヨか……」

「なんだってンだ?」


辺りに、さっきの異様な雰囲気は感じられない。


「いや……ちょっと疲れてるみたい」

「だろ、早く寝ろよ、オメ働きすぎなン」

渡された杖をつき、ヨタつきつつ穴蔵へ戻った。

紐を忘れたのに気がつき、更に暗い中、松明を持ったマサについて来てもらい、束ごと回収してきた。

最後に出入口の木枠に嵌め戸を宛がい、閂を掛けて戸締り。


「紐ならあたし持って来てたのに~」

「いや、そっちじゃなくて、この樹皮の紐でいいんだ。もったいないから」

「そう? 何に使うの?」

「今朝さ、エコが上に頭ひっかけてたじゃん? 防ごうって」

「ふ~ん、ありがと」


出口の地面に円座を敷いて坐り、小声でお喋りするうちに、平たい籠みたいなものを編み上げた。

「悪いけど、ちょっと退いてくれる? あ、隅のを蹴っ飛ばさないように気をつけてね」

「うん」

ぼくのベッドの紐網のすぐ下にあまり隙間をあけずにそれを吊るす。

緩い結びで、ちょっと引っ張るだけで取れる。

ぶつけても髪の毛は抜けずに済むって寸法だ。


そのうち、もうとっぷりと暮れて暗くなった中へ、松明を掲げて、みんなで連れ立って用を足しに行く。

一人きりだったさっきとは違い、さすがに今度は怖くない。

獣が居た場合に備えて、杭や作りたての盾も持って来たし。


かくて穴蔵二日目の晩も更けてゆく。

拙作をお読み頂き、実に有難うございます。

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