翌朝、仮小屋二日目の朝
翌朝。
生まれてからいつもそうであったように、まだ暗いうちに、飢えと渇きと寒さで──いや、寒くはないし、それに昨日トモコが作ってくれたマスクのお蔭か、渇きもそれほどでない──目醒める。
暗い。
目の前には、手を伸ばせば届きそうなところに、焦がした丸太天井があるが、暗くてぼんやりしている。
なんとなく仄かに赤みを感じるので、そっと落ちないように気をつけながら下を覗けば、火の番なしで、皆で安眠してしまったので、いつの間にやら焚火の火も落ちて、埋火が微かに赤みを帯びて光っているのみ。
なんとなく、少し顔とか首筋とか、埃がついてる感じだ。
どうしても隙間から少しずつは土とか落ちて来るんだろうな……。
うっかりトヨエコの上に草の切れ端や埃も落とせないし、下に降りるとエコの簡易寝台の枠に足を下ろすしかなくて危ういので、じっとしている。
ぼくとトモコが寝ている上段の網の寝台は、それ自体はなかなか寝心地が良い。
しっかり紐を張って、きちんと網を編んでくれた皆のお蔭だ。
昨日の疲れが残っていて、またうつらうつらして、少しすると再び目が醒めた。
みんな、ごそごそしている。
外は、戸口の嵌め戸の隙間を見るに、薄明るくなってる気がした。
珍しくマサから最初に
「おはよう……」
とマスク越しの少し籠った声をかけてきたので、皆口々に朝の挨拶をして、やっと起き出してくれた。
コットから起き上がったマサが、頭上のトモのベッドから少し下がっている網に気をつけてしゃがみ込み、近くの炉に燃えさしを突っ込んで火を熾し直すと、室内が明るくなった。
マスク顔のトヨもコットの足元へずり下がって、頭上のぼくの網や丸太に気をつけて、やはりしゃがみ込んで、最奥の炉の火を焚きつけに移し、柴を足して、熾し直す。
充分に明るくなったので、下りたいが、
「トヨぉ、コット退かして~」
「あぁよ、わぁったよ」
ダルそうにトヨがコットを縦にしてぼくとトモの丸太の間の隙間の壁面に立てかけ……なんだか倒れそうなので、立て掛ける面を変えて、今度は安定する。
それを見ずに既にコットから降りて片づけようとしたエイコが、不注意で後頭部をぼくの網にぶつけそうになったので、わっと慌ててその場所からぼくが身体を退かすと、エコの頭が網に突っ込んで来る。
下からぐんと網を押し上げ、驚いたエコがえ゛っと声を出したので「気をつけて」と言うと、何事と皆がマスクを着けた顔を向ける。
「エコちゃん、二段ベッドになってるんだから、気をつけて」
「ん~……あいたっ」
マスクを着けたままのエイコは頭を抱えて唸っていたが、頭を下げようとして急に悲鳴を上げた。
「っ!?」
「どしたのっ?」
トモコが吃驚して、マスクを装着した顔で振り返る。
「あたま、痛っ、髪に引っ掛かった、たた……」
ぼくのベッドの網に髪の毛が絡んじゃったみたいだ。
「頭少し上げて」
よたついていたのをトヨに支えられて、エイコが頭を上げる。
すぐにぼくは網になってる紐を指先で探り、目を凝らして調べて、怪しいところを指先でごねごね探った。
トヨが下からエイコの髪伝いに指で網を押し上げた。
「ここ、ここ」
「わかった……そっちから引き抜ける?」
「おう……待って……ん-、そっちに出てない?」
「ちょっと待って、体重かかってるうちは、ちょっと……」
網から壁の凹みへ足を伸ばし、体重を網から抜く。
「お、いけた」
トヨが網からエイコの髪をすっと抜いたようだ。
ぼくはと言えば、急に左目にゴミが入ったみたいで、どうにかしようと焦っていて、他人の様子どころではなかった。
顔に掛かっていた土埃かもしれない。
厭だな。
「ありがとう~~……ごめんね」
「おう、いいってことよ」
「うん」
まだ頭を気にしているエイコは動かないので、顔から埃を払って、やっと降りたぼくがコットを退かした。
すぐに軸受けから頭側の丸太を外して、草ごと網を丸めてしまい、足側の丸太も外す。
畳んだ上段ベッドをエイコのコットの隣に立てかけると、すぐに戸口の閂を外して床の際に置き、嵌め板を動かして隙間から薄暗い外へ飛び出して、蜘蛛の張りかけていた巣へ突っ込んでしまうが、罵声をあげながら腕で剥がし取り、やっと我慢していた用を足す。
マスクを外して草露を舌先に味わいつつ、見上げれば、木々の間には薄明るい曇り空が見えた。
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曇り空で、風が少し寒い。
さて、今朝も無事に奥の小川で食事も終えてきたし、今日は濾過装置を実現しよう。
水の不安などは、今のうちにさっさと払拭しておきたい。
大した不安でもないんだけど。
「そういうわけで、また皆に頼みたいんだ」
「えぇ~……今日はお花摘みぃ……」
「ごめん、それはまた明日でお願い」
トモのフォロー。
「水の泥なんか、壺に暫く置いておけば沈むだろ」
しかしマサが尤もな事を指摘する。
「うん、そうだよ、いざとなればそうするけど、それだとすぐには飲めないだろ。それに水が濁ってる間に多量に水が必要になったら、どうしようもない」
「そんな時なんてあるぅ? 壺でいいよ~」
「壺の底に沈んだ泥を、毎回小川に誰が捨てに行くと思ってるンだよ? 流れが増水してる時に汲むンだって結構大変なンだぞ」
「ん~、いいよ、それじゃ」
「マサもいいか?」
「ああ」
「で、どういうのを造るの?」
「えっと、小川の傍にね……」
喋りながら現場へ向かい、身振り手振りで、これこれこうこう、と説明した。
拙作をお読み頂き、実に有難うございます。