トモコさんのマスクと松明
マスクをどうにかして作らねばならない。
が、何でもぼくが作らねばならないという物でもないので、それは女の子に任せることにした。
要するに、何か適当に口元に空間を残して被覆する形状の物を固定できれば良いのだ。
それより、飯だ。
マサとエイコは休ませておいて、トモトヨぼくの三人で今朝は食事の支度をする。
「今朝はどこで獲る?」
「この前、谷川へ行ったらかなり獲れたでしょ? また行かない?」
「あー、仕方ねえかー」
「まあ、たしかにその方が良いのかも。でもそれならちょっと一応杭を作っておきたいんだけど」
「よし、伐るぜ」
「じゃあ、あたしは松明準備しておくわね」
いきなりトモコが自信満々に言うので、驚いたぼくは、
「え、松明作れるの?」
「ええ、作れるわよ、多分」
「多分?」
「だって、まだ思いつきで、試してないんだもの」
「へえ~、思いついたんだ、いいなぁ、見せて見せて」
「おい、伐りに行くぞ」
「あ、ごめん、行く」
気になるが、あとの楽しみにしておこう。
思いつきってのが、上手くいくといいなあ──大抵、どこか穴があったりするもんなんだけど……。
まあ、いい。
とにかく今は道具の入った背負い籠をまた拾い上げて、背負って起伏を踏み越えて、もう早くも一本の若木に目をつけて撫でたり押したりしているトヨキの許まで急がないと。
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トヨキと一緒に、一本の若木を伐り倒し、枝葉を打ち落とす。
幹に適当な太さがなくなるところで切り捨て、必要な長い槍みたいな木の杭を、先端を石鑿で粗く削り落としてから、大き目の石の面で擦り磨いて、尖端にしておく。
打ち落とした端材を集めて、更に後で利用しやすいように一本一本の枝に分解して、きれいに処理してから物置き場に片づける。
削って出た木っ端を、焚きつけ用に集める。
濡らしたくないので、本当は何か籠とかに容れて木の下に吊るしたいけど、まだ籠が無いから仕方なく、吊るしてある草の束に判るように突き刺しておく。
それを見れば、あとで籠を作らなきゃいけないのを思い出すだろう。
杭を同様にしてもう一本作った。
トヨとぼく用だ。
悪い奴相手なら石斧とかナイフとか投石でいいんだが、野の獣相手だとリーチが無いといけないから、とりあえず木の槍を作った。
トヨキは良い木を選んでくれた。
この木なら丸太にせずとも、樹皮の握り心地もよい。
いい感じに硬いし、硬すぎずしなやかさもある。
堅い分、尖端を削るのが手間取ったが。
その後、
「じゃあ、行こうか。トモコー?」
とトヨが声を掛けると、トモコが松明だけでなく、マスクまで掛けて現れた。
仕事が早い、さすがトモコ-サン。
「お、見せて見せて」
「まだ一人分しか作れてないけどね、できたわ」
「やるじゃン……へえ~」
手頃な枝を石斧で割いて、細い枝の切れ端を突っ込んで裂け目を固定した処へ、松ぼっくりを挟んでる、ただそれだけだが、いい感じに燃えてる。
「だけど、これってすぐに燃え尽きちゃわない?」
「そう思って、ジャン♪」
「あ」
もう一本、後ろ手に隠しておいたのを取り出した。
松ぼっくりも一緒に持っている。
「ほら、消える前にこっちに火を移して、で、松ぼっくりが燃え尽きた方は、新しい松ぼっくりを挿むの、ね、簡単でしょ?」
「簡単、だな……そんな簡単で良いのか……そんな」
「でもさ、これ松ぼっくり一つでどのくらい保つんだ? あんまりすg」
「結構持ちそうよ、これ今火を点けたわけじゃないから」
「えっ、あ、そうなんだ」
「おおっ、じゃあ使えそうだなっ」
「だから、『できたわ』ってね」
「あー、そういう……参った、すごいや……」
「凄いでしょ」
得意気なトモコだが、実際凄い。
これならもうぼくはあんまり頑張らなくても……いや、他人任せはまずい、ぼくも負けてられないぞって思わなきゃ。
「でさ、そのマスクもなかなかいいじゃン」
「いいでしょ」
「それ、木の皮の裏皮だな?」
「うん。折り曲げて、それに草で耳掛けをつけただけ。曲げた形を留めるのが一番面倒だったけど、草で縛り付けたわ結局」
「いいね、オレも作ってみるわ、あとで」
「作ってあげてもいいわよ」
「おっ、頼む。有難うな」
「じゃ、行くぞ」
「おう」「行きましょ」
そこへ、エイコとマサがやってきた。
「なんだ、行けンの?」
「うん、もう行けるよ~」
「ぼくも、もう大丈夫だ」
ちょっと時間かけてる間に復活したらしい。
「じゃあ、ちょっと戸締りしてくるから待ってて」
「あ、してきたよ、ちゃんと」
「お、そか」
それで結局五人で行けることになったので、持ち帰りの手間が省けて良かった。
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道々、いつも通りエイコ先生の初級草花教室があったりするのだが、今や聞きなれて耳タコと云っても良い。
ぼくにも今では簡単な物なら見分けがついて、まず間違いなく採れる。
谷川の漁は、一か所の乱獲は拙いので、少し上流へポイントを探しに行って、遅い朝食となったが、まあいつも通り無事に済ませた。
松明のお蔭で、非常に楽に火が運べて、焚火も容易に準備できた。
例によって、燻し場もその場に即席で作り、衣類を燻した。
食後に駄弁りながら、色々と作りたいものを皆で挙げていった。
それがまた多いので、剥がした木の皮に、炭でメモしなくちゃならなかった。
食休みも終えて、マサの杭というか木の槍というか、それも一本作り、トモコやエイコの為に太い枝で、ぼくらのより小型の杭を作ってあげた。
その後、汚れた手足のみならず、全身も谷川の一際冷たい水で洗った。
「ひゃぁああーっ!」
村の冷水に少しは慣れてきていたが、同じくらい冷たい川の水に、やはり奇声が止められなかった。
服を燻し終わり、冷えた身体を温めると、焚火を処理して、撤収した。
拙作をお読み頂き、実に有難うございます。