冬越し用の食糧集めと、本拠家屋の暫定屋根の改修
休みを入れつつ、一か月ほどかけて、堀と土塁を造り上げた。
それよりかなり早く、作業小屋と住居の二棟を建て終わった。
とは言え、このままでは冬の到来とともに、雪の重みで薄い屋根が潰れ落ちるのは目に見えている。
まだ仮設状態だ。
ただ、もう秋が始まっていた。
「ここまでできたんなら、本当は堀切にまで持って行って、草を刈って、土均しをして、鳴子……」
「いいじゃン(笑)、別にもう」
「そうだよ、今はそれどころじゃないって」
そう、今日は完成した本拠に、残る荷物を搬入させるのに忙しい。
そしてその後は、待望の食糧採集だ。
秋だから。
空が高い。
再び冷え込みを感じるようになってきて、じきに訪れる冬に不安を覚える日々。
「どんぐり♪ いっぱい♪ 拾っちゃお♪」
「栗探そうぜ、栗っ」
「はあ~、腹が減るからやめろお」
食欲が昂進して、涎ばかり湧いて、凄く空腹になるのに、やってることは荷物運びなので、気分が悪くなってきた。
栗や胡桃の類は御馳走。
団栗も大量に拾って、水に晒して、冬の保存食にする。
その置き場所に困るから、仮設でいいから早急に建てる必要があった。
暫くは、食糧採集で猛烈に忙殺される日々が続く。
朝から晩まで、脇目も振らず。
ひたすら毎日、入り組んだ小川周辺や谷川、そして土塁と堀の先の森へ。
盾と木の槍と松明で武装して採集に歩き回る。
「あ、こんなところにスズメバチの巣がある!」
「危ないっ、下がれっ」
「刺されたら大変だよっ」
そんなこともある。
川には時として回遊魚が遡上してくるので、漁師の取り残しのそれを捉えて食べたり、燻して保存食にする。
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そんなわけで、既に住まいは塹壕の暫定拠点から、本拠に移していたのだが、まだ本拠が完成したというわけではなかった。
やがて食糧採集も一段落ついた或る日、
「それじゃ、そろそろちゃんとした屋根を架けたいと思います」
「そうね、もう遅いくらいよ」
「怖いこと言わないで~」
「しかたねェじゃン、食いもンねえとしょーがねーし」
「溢盃集めたよねえ」
本当に沢山、まるでリスが頬袋にドングリを詰め込むが如くに、ぼくたちは冬用の食糧を溜め込んだ。
「屋根だけど、木をたくさん伐って、左右からこう、『 /\ 』みたいな感じに架けるよ、地面から」
「わかったー」
「天井が低くなっちゃうね」
「仕方ないよ。分厚くした壁の上からってのも考えたけど、耐力壁という物凄く分厚い壁が必要になるから、間に合わないんだ」
「壁は壊すのか」
「そうなるけど、作業としては放置。材木を地面に据え付けて傾ければ、自然と壁も木材に圧されて少しずつ倒れこむでしょ。結局、また地面を深く掘るんだ」
トモが意見をはさむ。
「ここ、少し立木が残ってるじゃない、伐れなかった太い高い木が。低い枝を払って、木の下に建ててるから、雪は建物を直撃はしないんじゃない?」
「うん、だから雪が降って来ても、少しの間は余裕があると思うんだよ。そうなるように場所を選んだのはたしかさ。特に作業小屋の方。でも、本格的に降り積もったら、やっぱり潰れる部分が出てくると思うからね」
「作業小屋より住居を優先するでしょ、普通? どうして作業小屋の方が住居よりも多く木で守られるようにしたの?」
「ああ、作業小屋は、少しくらい潰れてもいいように、一番重要な箇所が幾つかの木の下で守られるようにした」
「ふうん、じゃあ屋根の架け替えは住居だけする心算なのかい?」
「うん、今はね。今年はもう時間なさそうだったし、食べ物集めるのが最優先だったし、とりあえずその場凌ぎでやってきたんだよ」
「じゃ~、来年は作業小屋も架け替えるの?」
「うん、その心算。今年だって、もしも間に合えばやるよ。ただ、本格的に降り出すまでに、そっちまでは手が回らないんじゃないかなって思ってるんだ、それよりも食糧が優先だから」
「おし、わかった。じゃあ今日もイッチョーやるかァ」
「今日からやるのは、木を新たに伐り出してきて、組み合わせを考えて加工することだよ」
どうせなら速く終わらせたくて、ぼくとマサとトヨの三人で、杭と盾と松明を準備して、土塁と堀を越えて、森を切り拓く。
高い見張り位置には、エコとトモコが交代で見張りに就く。
草は刈っている閑がないので、取り敢えず踏み倒しておいて、簡単に道をつける。
伐り倒した木を草の上を滑らせることで、早く楽に堀の方へ落として来られる。
集めた木材は、土塁に立てかけて、もっこに下端を載せて、上からマサに引き揚げて貰い、下からも押し上げて、最後にはトヨがマサを手伝って、完全に引き揚げる。
邪魔になるので、右端の簡易柵を取り払ってあって、そこを通している。
それから防御壁の隙間を通って本拠の敷地へ運び込み、作業小屋の内外で加工して、工事の日まで貯蔵する。
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冷えて来る山気に焦りを覚えつつ、連日雨が降ろうが構わずにひたすら伐り出した。
木材が溜まったところで、住居の屋根を架け替えた。
もし何か手違いで足りなければ、追々足す。
今まで当座の凌ぎに使っていた薄い屋根はすぐに取り払えた。
放置する心算だった壁は、作業の都合で予め壊して外へ倒した。
粘土層を削った窪みへ、次々と左右から『 /\ 』型に結合済の材木を宛がい、収めて行く。
この上に積もった雪の重量を大地へ直接逃がすことで、耐える仕組みだ。
材を並べる間隔はゼロ。
屋根葺き材に宛てが無かったのだ。
糖質不足の所為か、工夫するほど頭が働かなかったから、今回はとりあえず豊富にある森林資源に躊躇わずに依存した。
隣接する材同士を、紐で結わえて行く。
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耐雪屋根を架すと、それからまた連日地面を掘り下げて、屋内の高さを回復した。
出るのは粘土なので、灰や砂と少しの水を作業小屋で混ぜて、架したばかりの屋根に塗り付けて行く。
仕事が次々出て来るし、食事もせねばならないし、冬越し用の食糧採集も少し継続していて、とても忙しい。
雨が降ると、焦って怪我しても困るので、素直に一日は少なくとも休む。
そうして架した屋根材全体に練り土を塗り終わると、倒してあった前の土壁を上から半ば被せて、余っていた表土の土山を残りの部分に被せて、ほぼ屋根全体を土で覆い、やっと竪穴式住居が一応の完成をみた。
拙作をお読み頂き、実に有難うございます。