本拠の小屋造り
とりあえずすぐに済ませたい防御工事は、坂下の草刈りと堀造りだが、少しリスクのある場所なので、その日はもう早めに切り上げた。
「おーい、もう森が薄暗くなってきたから、そろそろ上がれよー」
トヨが言うのへ
「わかったー」
と応じ、もっこに道具を放り込んで、マサに引き揚げて貰う。
身軽になって、と云ってもハーネスと蔓があるので少しだけ動きづらいのだが、梯子を登って、土塁の上まで上がると、梯子を引き揚げて、簡易柵のこちら側に横置きにしておいて、ハーネスの結び目を解いて木の下の枝に懸けて、休みに入る。
休憩後、その日の残りは本拠の小屋作りに取り組んだ。
最初に、差し渡し8m程度ある天辺の敷地に、簡単な間取りの目印を杭打ち紐張りでつける。
斜面にも、いずれは階段状に掘り削って、資材置き場などを設ける予定だが、今は手が回らない。
最初に、住居より先に、まず小さい作業小屋の方を建ててしまうことにした。
奥行2m、間口4m程。
杭打ちの穴あけをして、尖端を焦がした支柱を深く刺して高く建てて、小屋の屋根の棟木と桁と垂木を並べ、葭簀を結び付け、葭簀を二枚重ねて紐で綴じてゆく隙間に薄い菰を挿み込んで敷き並べ、薄い簡易屋根とした。
屋根の棟木には、長く硬い草の束を二つ✕型にしたものを懸け連ねる。
稲架掛けみたいな感じに。
マサエコがやってきて、
「おおう、出来て来たなあ」
「いいね~」
と嬉しそうにいうが、へそ曲がりのぼくは
「でも、これからは手入れしないといけないんだぜ」
とトヨみたいなことを言う。
造れば造っただけ、手入れが必要になるんだ、屋根に限らず。
あまり多く作り過ぎるとメンテが追い付かないので、手が届く範囲に納めるのが大切だ。
ぼくとトモコが屋根を造っている間に、マサは小屋中央部に浅い階段状の竪穴と周囲の排水溝を掘って、中央の深い窪みで焚火を焚いた。
また、翌日以降の土壁作りで使う、粘土と灰に水を加えて練る作業用の穴も、小屋の隅の地面に掘った。
これでその日の作業は終えて、いつも通り、早めに眠った。
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翌日から、明るいうちはぼくは坂下で掘削、マサは上で土塁積上げに従事した。
時々ぼくも上がってマサと二人で土の突き固めをしなければならない。
「あっ!」
「おっ」
危なく自分の足の上に落としそうになって、足を避けようとして木の根に蹴躓きかけて、慌てて低木の幹につかまる。
そんなことが、作業に慣れない最初のうちは、しょっちゅうあった。
真夏でかなり日が長くなっていたので、作業は捗るが、その分休みを何度も入れないと身がもたない。
その都度コットにひっくり返って、木陰や屋根の下で転寝した。
薄暗くなってくると、無理をせずに坂の上に上がり、小屋づくりに参加した。
空が光を失う頃には引き揚げて、洗濯と燻し・水浴をして、安全な塹壕の暫定拠点で安眠する。
雨の日には無理してキツイ土工はせず、小屋づくりだけ続行する。
ぼくたちが坂で防御工事に従事している間、女の子たちやトヨも見張りを交代しながら小屋づくりを続けていてくれた。
小屋づくりの続きは、まず作業小屋の壁として、土壁を造る。
但し、崖上の斜面に面した二方向だけ。
住居や防御壁に面する側は簡便に菰を張るだけで、住居に面した側の中央は入口として開放しておくので、菰を上の桁から暖簾のように少し垂らすだけにしておいた。
灌木資材を搬入して、地面に穴あけをしてから、壁用の細い支柱を立てていき、崖上の斜面に面した二方向にずらりと立て並べた支柱を縫うように、粗い太い樹皮紐を巡らしていく。
表土を退かす際に出た大き目の石ころと、竪穴を浅く掘って得た粘土と灰の混合物を用いて、土壁の基礎を立ち上げる。
その上にすさを混ぜた粘土と灰の混合物を、樹皮紐を芯として貼り付け、練り、均して土壁にしていく。
作業小屋の壁の高さは、当座は腋の下程度にしておいた。
とりあえずはそれだけでも、風がおかしな方向から巻いて来るような事があった場合に、物品が吹き飛ばされる惧れはかなり減る。
作業に必要な水は、見張りをエコに交代してもらったトヨが持って来てくれた。
本当は、斜面を切り削って螺旋階段を掘り、安山岩の土台から下の小川へ釣瓶を下ろして汲み上げたい。
今はそれはまだ後回しだ。
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数日して作業小屋が粗方出来上がると、次は住居部分を造る作業に取り掛かる。
概形は甕形とか樽型で、大雑把に巾4m×奥行き6m、長軸は森から架橋部への線と平行。
戸口は崖側。
本当は個室にしたいけど、無理な贅沢というもの。
だってコストの関係で、中央で一つの焚火を焚かなきゃならないので。
だから竪穴式住居。
でも、できるだけプライバシーのある空間も欲しい。
もうぼくらは大人になりつつあるのを、折に触れてからだが発するシグナルによって意識させられていたので。
ぼくもヒゲが生え始め、成長痛を感じていたし、声変わりの所為で特にぼくはストレスが溜まりがちだった。
だから、広間の森側の奥に小部屋を設ける事にした。
本当に小さな、1m×2mだけのを一つだけ。
用途は違うと思うが、間取りはお爺さん家を少し真似たのだ。
同様に真似たのが戸口の間で、広間から一段高い、外と同じ高さの其処から内側には外の汚れを持ち込まないように、外の汚れがついた被服類などはそこへ懸けておけるようにした。
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作業小屋や住居には、適宜壁から棚を生やさせることにして、当座使えなくなった鳴子装置の踏板部品を解体して、棚板に転用した。
戸板にも同様に転用した。
できるだけ常に火を焚き続け、内部を乾燥させる。
その為に薪を多く消費したので、林や森へ入る際にはできるだけ間伐を意識して木を選び、土砂崩れを招かぬように配慮した。
拙作をお読み頂き、実に有難うございます。