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着工、架橋


更に一月半ほどが経過した。

季節は既に夏も後半。

標高の高いこの地では、とても過ごしやすい時期だ。

本日は愈々、本拠建設着工日だ。



喜ばしいことに、今日まで塹壕型仮小屋の暫定拠点で誰に邪魔されることもなく、ただ只管に本拠建設工事の準備作業に邁進できた。

架橋地点脇に切り拓いた数カ所の小さな物資置き場には、既に各種の建設資材を集積し終えた。

晴天がこのまま続く事を祈りつつ、昨夜もいつもと同じのんびりペースで日々の繕い物をして、のんびり眠れた。


ぼくは履物の紐をしっかり締めながら、少し前に擦り減った歯を交換した八割れ板草鞋の履き心地が、まだいかにも新品な感じがするのを少し心配している。

かと言って今のぼくたちには、使い心地の為にわざと底板の角を削ったり擦り減らしたりしてる余裕はない。

少しでも長持ちさせないといけないから。

慎重に作業を進めて、足元に充分に気をつけて、"運用でカバー"するしかない。

その事を、一応皆に声を掛けて、注意喚起しておいた。


前腕から手に掛けて、傷つくのを防ぐ為の蔓をしっかり巻きつけて、結わえる。

準備が調うと、最後にこの一週間で最上の用便を足して、身軽になって現場へ向かう。


--


眼下の小川の向こう側には、本拠予定地が見えている。


「じゃ、行くかね」

「おう」「おう」

「がんばってね~」「怪我だけはしないでね」

女の子たちは、盾と杭を持って見張りをしている。


最初の架橋が問題だ。

なにしろ橋全体となると、かなりの重量物だ。

岸辺には元々獣道並に細い道がぐるりと川沿いに巡らされていただけだったので、場所が狭い。

物資集積用には数カ所を切り拓いたが、架橋地点では植生の関係で無理だった。


そこで、橋を此岸側と彼岸側の二部分に大分割した。

それぞれが3m級の長さ。


先ず、此岸側を設置する。

彼岸側が少し高いので、橋を持ち上げ気味にする為に、道に安定した大き目の石を並べて土台としておく。


結合試験後、分解しておいた部材──といっても、このやり方では一本の加工済み丸太──を集積所から作業地点へ一本ずつ移動。

伐る事が出来ない高木の太い枝に立てかけて、隙間なく並べてから、互いに蔓で結合。

その後、一番下では予め加工した丸太を何本も宛がい、縛り付けて、末端重量を増す。

そのうえで、木登りが一番得意なぼくが高木の太い枝に登り、互いに結合した部材の最上部に細めの堅い丸太を宛がい、縛り付けて、太めの蔓を左右に縛り付け、制御可能にする。

その間トヨマサは下で部材を押える。


「くそっ」

一人で宛がいながら縛り付けるのが結構大変で、肩が疲れて痛くなってくる。

登ってくる前に裸足になってるから、足元が滑ることはあまりないが、それでも注意散漫になりそうで、脳内警報が鳴り響いている感じだ。

「ん? どした?」

「いや、これ疲れるんだわ~、くぉおっ」

トヨに愚痴をこぼし、気合を入れて縛り付ける。

「ふーっ、何か対策しとくんだったー」

「おつかれー」

「おーう」


上で縛り終えたら、降りて来て、また履物をしっかり履き直して、蔓を下で近くの高木の枝に縛り付けておく。

一番下でマサとぼくが、完成した此岸側部材の向きを微調整し、その後、制御用の左右の蔓へ分れて制御の任に就く。

部材を倒す速度を制御する為に、蔓はそれぞれの高木の幹に充分に巻き付けておく。

その間、トヨは部材の根本で押さえておく。

準備が出来たら、開始の合図とともに、トヨは部材の根元の丸太に片足を掛け、腕で部材を川の方へ押し込み、倒し始める。

それをマサとぼくが、高木の幹に巻き付けた蔓を握りつつ、倒れる速度を押えて、ゆっくり倒れさせる。


マサとぼくがただ単に体重で抑えようとするだけでは、事故になってしまって大怪我しかねない。

そこで、容易に減速できるように、蔓は左右の高木の幹に巻き付けて、摩擦抵抗を用いる。

あくまでも慎重に、動かないくらいの抵抗力から開始し、トヨが相応の力を掛けることでやっと動くかな? くらいの微々たる抵抗減少を行う。

トヨは部材を倒す為に一定の力を加え続け、動きだした時に速すぎると思ったらすぐに力を抜いて、丸太から離れる。

もしトヨが離れて倒れるのが止まるようなら、今度はトヨに丸太に乗ってもらって、トヨの体重が与えるモーメントで動くかどうか試しつつ、マサとぼくとで合図に従って制御して倒してゆく。

「よし」で半歩緩めて抵抗減少、「引け」で半歩引いて抵抗増大、「待て」で止まって現状維持の合図を出すのは、トヨの仕事とする。


マサの方が少し速めに緩むようだったので、「引け」がかかり、ぼくの方だけ指定して「よし」や「待て」が出され、その後も左右のテンションが同等になる迄に思ったより時間がかかったが、どうにか無事に終わった。


道の上に1m、小川の上に2mほど此岸側部材が空中に突き出ている。


トヨが丸太から退いても、安定している。

石を持って来て、丸太の上に少し積んで、安定度を増しておく。

ぼくとマサが丸太に乗っかり、トヨが部材の先端から蔓を外して回収した。


次は彼岸側部材だ。

さっきと同様に一本ずつ加工済み丸太を立てかけてから結わえ合わせて彼岸側部材として、固定用の細い丸太を一本、裏面下端の溝に噛ませて縛り付ける。

それからさっきのようにぼくが枝に上がり、蔓を結わえて、またトヨの音頭でゆっくり倒して行って、此岸側部材の上に倒れかかったところで「引け」で停止。

一旦、石を退かして、それから完全に彼岸側部材を丸太の上に載せた。

また蔓を外して回収し、一本だけを念の為に彼岸側部材の端に結わえた。


彼岸側部材は重くても、最低限の重量なので、三人で押せばずるずると滑って完全に丸太の上に乗り上げた。

そこから、少し浮かせて丸太を越えさせ、そこで一旦止めて、また石を此岸側部材の丸太に載せておき、それから更に彼岸側部材を押し出して行って、最後はぼくとマサが丸太に乗って体重で押さえつつ、トヨが一人で一気に滑らせて押し込んで、向こう側の斜面へ乗せた。


--


拙作をお読み頂き、実に有難うございます。



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