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少しずつ準備して一か月余

季節柄、毎日のようにエイコのお花摘みを手伝う。

盾を構えながら次第に谷川の上流へ遡って探検し、漁場を変えつつ食事して、お花摘みを手伝い、トモトヨが壺や鉢や皿などを作る粘土を採取し、草を束ねたり籠に詰めたり、水を壺に容れたりして持ち帰る。

そして暗くなれば体を洗って穴蔵に戻って炉の火で温まり、紐を作り、縄を綯い、繕い物をして、刃を研ぎ直し、新たな刃を削り出す。


たまに土器や炭を焼くのも全員総出でやる。


そうした事どもを、基本的に栄養の足りていない、特に塩分の足りていない身体と頭でやっている。

とても精力的に活動などできず、休み休みのんびり一定ペースでやるのが精一杯。


夏へ向かう季節柄、次第に過ごしやすくなってくるので、被服類は後回し。

男の子は腰帯一つで働けるから、精々が繕い物をするくらいで、新たに身に着ける物なんて全く作っていない。

その点、女の子はあんまりぼろぼろの恰好をしていると可哀そうなので、少しはね。

「ああ、トモコとエイコは自分のを作ってればいいんじゃねェかァ?」

エイコは腰巻(スカート)を、トモコはキンタロ腹掛けを作った。

自分たち二人の分だけだ。

腰巻はきちんと織ったり編んだりする手間はかけず、作り方は菰に毛が生えた程度のものだが、材料はもう少し柔らかくて肌当りの良い物にして、一応は膝まで覆ってる。

キンタロ腹掛けは首から吊るす胸とお腹だけの覆いだが、腰巻同様、肌当りのよい良くしなる草を選び、潰して平らにして平織にして面を作り、一応脇腹の後ろまで行ってる。

どちらも紐でサイズ調整ともども結わえて固定する簡易なもの。



ぼくは着工時架橋後最初に高速展開させる携行柵の量産で忙しい。

他にもやる事があるから、毎日一枚作れれば御の字だ。

高さ1m巾2m程度の柵だが、10枚程度は要ると見積もっている。

実際の高速展開時には、多分7~8枚で済むと思うが、既存の二枚と合わせて4枚予備があれば、修理以外にも、四辺を囲んで防風遮蔽して焚火を熾すのも楽になるから、現場でまだ壁が立たないうちに焚火を熾したくなったら、便利なんだ。

そんなわけで、まだ少なくとも一週間は、柵を作るだけで手一杯だろう。


荷物置き場については、木の下に横から吹いて来る雨風を防ぐ葭簀(よしず)をマサが作ってくれてる。

お蔭で広く置き場を設定できるので、とても助かる。

インフラだ。


トモは土器以外は火の番とか色々してるし、トヨも誰かがちょっとだけ素材採取が必要な時など、一声でさっさと行って来てくれて、とても助かる。

お蔭で製作に集中できる。


--


まだ今日の分の柵作りの途中だが、指先が痛くなってきたので、暫く休憩する。

「エコ~、居るぅ?」

穴蔵へ呼びかけて、何か薬草を使って貰おうと思ったが、留守らしい。

仕方ないから、教えて貰った薬草をエイコの大切にしている籠から探して、一つ取り、更に少し千切り、傷んでない方の指先でぐにぐに潰して汁を出し、痛くなってる指先に揉み込む。

血行を促すミントも葉っぱ一枚分だけ揉み込んでおいた。


応急処置を終えて、マサのコットにそっと寝転がり、転寝。

休み休みやらないと、もたない。


--

----


一か月が過ぎた。

既に季節は初夏に入っている。


今日も暗いうちから草を柔かくし、紐を綯う。

蟲との戦いにも、排水溝や常時焚いてる炉による乾燥、木酢液やエイコの草花の知識も役立って、どうにか打ち克ち、御蔭でおかしな病気にもならずに済んでいた。

寝床は相変わらず狭い穴蔵だったが、蟲の嫌う芳香を放つ草花が日々新たに盛られて、今日も女子の手で調えられていた。


着工に向けた物資の準備は地道に進んで居る。

籠も土器も充分に出来たので、今はトモトヨも他の製作に参加できている。

草から紐、紐から縄、縄を使ってもっこだの、その索だの、様々な物を作って来た。

掛矢やレーキや杭などの土工具もかなり作れた。


緊急脱出装置に用いる、滑車の代わりの滑り具も、川に転がって白骨のように枯れていた倒木の根から不要な部分を焼き捨てて、相当な荷重に耐えられる頑丈な部材を削りだし、充分に川砂で磨きをかけて滑らかに仕上げた。

それを吊るし、またそれに吊るす索は相当な荷重に耐えねばならないが、縄で作るのは難しいので、林の中で太い蔓を探して、木に登って引きずり下ろし、不要な部分を一々取り去った。

現場で坂上の高い木に登って取り付ける作業はぼくがやることになるが、現場で結わえる作業で時間をとられたくないので、太い二股部分を伐り出し、現地の木に引っ掛ける鈎として、予め蔓を結び付けた。

蔓は採取後も川に浸して湿らせてある。

作業中に森から熊などが近寄って来て、いざ緊急脱出という時に、もしも荷重に耐えられずに装置のどこかがぶちっと切れたらぼくの命が無いから、二セット用意した。


見張り要員の為のターザンロープは、人一人分の荷重に耐えられれば良いので、そこまで頑丈で無くても良い。

こちらは現地視察で、都合の良い蔓が這い上っているのを見つけたので、作業当日に地上の根本でカットして現場へ持ち込むことにして、それまでは育って太くなっていて貰うことにしてある。

ブランコみたいに振れて小川を渡って来るので、とんでもない衝突とかしないように、予めぼくが木に登って余計な枝を切り落としておいた。


鳴子装置まではまだ着手できていない。

踏板として或る程度巾が欲しいのだが、低木にしても灌木にしても、あまり沢山切ってしまいたくないので、枠程度に留めて、中には紐を格子状に張って、それで踏板の効果を得ることにした。


架橋する橋もこれからだ。

あまり早く作っても、放置している間に苔が生えそうだから。

とは言え、木材は早く切った方が乾燥して軽くなる。

ただ、上面に並べる材(両端以外)は乾燥して堅くなる前に鑿で平らかに削っておきたいのだが、それをやる暇がないので、まだ伐れていない。

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