表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/17

詰め込み寝床

BGM: "Beaver Town" by Tangerine Dream

サカヌキという名の村がある。

或る島国の辺境に位置するジンメ渓谷の奥部、万年雪を頂く高い山脈の麓に、森と谷川に囲まれて静かに佇む村だ。


十数年前に、ジンメ渓谷の出口にある海港都市カスコヨの街からやって来た集団が、村の反対にも拘らず国の許可状を掲げて押し通って行き、『死の雪原』を頂く山脈を越えて南の魔境に踏み入り、蛮勇を揮って開拓村を建設したが、つい最近になって魔物の群に呑み込まれて蹂躙の憂き目を見た。


開拓村の者は全滅かと思われたが、子供ばかり僅かに五人、死地を逃れてきて、大方の村人に疎んじられつつも、細々と生き延びていた。


孤児たちは、村の外縁に開拓して住まおうとする土地を見い出し、臭いが安全な家畜小屋に寝泊まりしつつ日々を過ごし、現地に建設作業の為の仮小屋を建てる事が出来た。念願の本拠建設に乗り出すべく、孤児たちが無事に仮小屋への引っ越しを終えた所から、本章は始まる。


--


そんなわけで、ぼくらは夢と希望を簡易寝台にのっけて、尾根の上から遥々、この新シェルターまで引きずってきたのだったが……


「ねえ、コットが入らないよー」

「あ、まだコットを中に入れないでおいてー」


エイコが困った顔をしている。


今はまだ皆、身長が1m50㎝も無い。

だからコットを縦に並べると、奥行きになんとか2台納まる。

常に焚きっぱなしで熱い最奥部の炉から距離をおいても、だ。


ただ、巾が1mの所に、横にコットを二台並べるのは、小柄なエイコと小柄なトヨならギリギリ置けるが、他は無理だ。

つまり、スペースが足りない。


だから、二段ベッド方式だ。

側壁の途中を、少しだけ切り欠き、棒を渡せるようにする。


「あー、ちょっとそこ退いてね、この辺りでいいな」


薪をハンマー代わりに、石斧頭を鑿代わりにして、カンカン叩いて、壁をサクサク掘り削る。


実は、最初からそのつもりだった。

奥行きとか巾とか、もっと広くすることも勿論出来たわけだが、そうすると伐り出す材も増えるし、手間暇もかかる。

だから所詮は仮小屋と割り切り、空間を最小限度に切り詰めたのだ。


「マサ、伐りに行こうぜ!」

「ごめん、ちょっと休ませて」

「ならトヨ、頼むよ」

「おう、ちゃちゃっと済ませンぞ」

「よしきたっ」


石斧一丁と薪一本握って、さっさと材を採って来る。


「よし、採って来たぞ」

「んで、どーすんだ?」

「これを長さをこうして詰めて、と」


勿論丸太にして。

それを切り欠きに嵌め込めば……


「ほら、ぶら下がれる」

「おー」

「でも、一応、丸太にかかる重さで粘土が抉れないように、工夫しておこう」


荷重を分散する為に、灌木の枝を半分に割いたのを何本か切り欠きに、曲げて嵌め込んで、軸受けとする。

で、反対側の壁にも、同じ高さで……軸受けを取り付けて……。

更に、適当な長さを見積り、また切り欠きを掘る。


「もう一本丸太を頂戴。うん、それ」


嵌めて……できた。


「はい、注目。この二本の丸太の間に紐を渡して、網にするよ」

「コットは使わないの?」

「うん、余るコットが出るよね。そしたら、外で作業してて疲れたら、休憩するのに使えるよ」

「お、それは良いねえ」


丸太に網を張っておくのはトヨ以外の三人にお願いしておいて、ぼくとトヨは他の準備を進めておく。


「で……こんな、風に、さ……よし、この壁に穿った凹みにだね、足をかけて、上がって乗り込んで、網の上に何か敷いて、寝転がるんだ」

「なるほど、わかった」

「皆、うっかり丸太にぶつからないようにね」

「丸太は色が明るくて見やすいから、だいじょぶだよ」

「いや、そのうち煤けるからな?」


丸太は軸受けから外せるから、使わない時には外して立てかけておけば良いかな……。


「人も、マスクして寝た方がいいぞ、これ」

「お、そうだな……」

「そうね、マスク、要るわね、たしかに」


マスクの需要が発生してしまった。

さて、どうしよう……まあ、あとで考えよう。


おし、もう一人分、出口側にも作っておくか!



暫くして完成。

挙がる歓声。


上の段に寝るのは、奥行きをとってしまう比較的大柄なぼくとトモ子にする。

下段はコットに愛着のあるエイコが、同じく小柄なトヨと奥側に並んで寝ることで、奥行きと巾の両方にゆとりをもたせる。

そしてマサが一人、出口の近くで寝ると決まった。


「じゃあ、試しに皆、寝てみようか」

「はーい!」「ええ」「おう」「うん」

結果は、まあ、良いんじゃないか、と。

出口側の炉も、まあ焚いたままでも寝られるな、というマサの感想。


これで、寝所として納まりがついて、今夜からしっかり寝られる。


「それじゃ、これも此処に置かせてもらうね」

「ああ、うん、其処で良いね」


皆の籠も出入口に置いておける。

よし。


汚れのついたものは基本的には、寝所としてのシェルターの中には置かせない。

外の荷物置き場とか木の下で良い。


「木の下もさ、また杭で縄張りして、菰で雨風を避けないとね」

「あー、仕事は幾らでもあるなあ……まあ、焦らずやっていこう、これからは」

「そうだね。ちょっと一休みしてさ、のんびりやっていかないと、もたないよー」

「急がば回れ、って言うしな」



拙作をお読み頂き、(まこと)に有難うございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ