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第2話目 運命の日③



 パタン、とドアが閉まる音がする。

 誰もいなくなった部屋は静かで、入る時には適温だと感じた室内は、なぜかとても寒く感じた。

 立ち上がりたいのに体が動かせず、ただソファに座り続けるしかできない私は、激しい動揺に見舞われている。

 


 我が国の王太子は、驚異的な洞察力の持ち主。

 それを知っていたら、今置かれている状態になるようなことはなかったのだろうか。

 

 献上されるはずの花をダメにしたのが私だということと、その心内、王太子妃には私が選ばれるに違いないという思惑を持って登城したこと、それら全て、私が語らずとも王太子には見抜かれてしまった。

 それから。

 

『私は君のような高慢な令嬢は選ばない』

 

 王太子から、私を王太子妃には選ばない、そう言われてしまった。   

 それだけではなく、高慢だと悪口を言われ、会話中に酷い嫌悪感を向けられ、貴重な顔合わせの機会を早くに切り上げられてしまった。


「……私……」

 

 本当ならば、立ち去る彼を引き止めなければならなかった。

 何を言われようが、態度や発言が我慢ならないと思おうが。

 王太子妃に選ばれるため、私に対する誤解(悪印象)を解いて自分の良さをアピールし、話を良い方向に持っていかなければならなかったのに。

 こちらを見透かす彼の目と向けらた嫌悪感が恐ろしく、あの場にいるのがやっとになってしまった。


「……上手くやるよう、お父様に言われていたのに……」


 今回の王太子からの呼び出しを喜んでいた、「お前は絶対に王太子妃にならねばならない」が口癖のお父様。

 この状況を知られたら、どうなってしまうだろう。

 激しく叱られ、罰を受ける事になるのは絶対だ。


「っ」


 お父様の厳しい躾を思い出した私は身震いした。

 お父様に対して畏怖の念を覚え、綺麗な姿勢を保てなくなった私の背中が座っていたソファに沈んでいく。

 

話がしたいと王太子直々に招かれ、この応接間で出された紅茶を飲んでいた時まではとても気分がよかった。

 なのになぜ。

 どうして、こうなってしまったのだろう。

 

 王太子と上手く話が出来なかったから?

 離宮の庭の道端にあった、あの花を踏んでしまったから?

 我が家の紋章が入った小袋、私が渡したのだとわかってしまう形で庭師に金貨を渡してしまったから? 


「~~っ!あの庭師っ」

 

 そうだ。よくよく思い返せば、あの庭師の少年が、道端に花を置いておいたことが全ての始まりだ。

 あの夜の一連のことが筒抜けになってしまったのも、庭師のせいに違いない。

 献上相手の王太子に厳しい目を向けられた少年が、「実は……」と全てを明かしてしまったのだ。

 公爵令嬢の私に物を申していたくらいだから、王太子を前にペラペラ話すのも訳が無かったのだ。

 

無礼は咎めず大金を渡してやったというのに。

 何一つ、私が言ったことに従わなかった……!!


 

 コンコンコン。

 突然、3回のノック音が耳に入った。


「し、失礼します」


 弱々しい声の出処に目を向ければ、噂の主らしき人物がぎこちない様子で室内に入ってきた。

 綺麗にまとめあげられた、珍しいピンクベージュの髪色が目につく。

 顔のパーツや背格好からしてあの晩見た少年で間違えなさそうだが、身にまとっているのは白シャツに黒のジャケットスーツ、胸元には蝶ネクタイといった小綺麗な洋服だった。

 見た目だけで言えば、離宮に使えるボーイだ。

 

「あなた、こないだ会った庭師よね?」


「は、はい」


「この前と格好が違うけれど、庭師というのは嘘だったわけ?」


「い、いえ、僕は庭師です。あ、この格好は、宮殿の中の、この場に来るために、きちんとした服装をお借りしただけなんです。似合わないですよね」


 服に着せられた少年はそう言って、ヘラッとした笑いをこちらに見せてきた。

 なんなの、この間の抜けた様子。

 癪にさわる。


「あ、あの。エンヴァイロ、公爵令嬢、様」


 私の名を拙く呼ぶ少年は、緊張した面持ちで私に向き合ってきた。


「僕、いえ、私は貴方様に謝り、いえ、謝罪をさせて頂きたく、この場に来、ではなくて、参上いたしまして」

 

「~っとに、イライラするわね。変な敬語はいらないから、なんだか知らないけどさっさと要件を言いなさいよ!」


「は、はい。ありがとうございます」


ほっと息を吐いた少年は、2~3m離れていた場所から私の左横、ソファの横までとことこ歩いてやってきた。

 そうして、その場で深く腰を折り曲げながら口を開いた。




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