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第1話目 出会い①


 



 私は、許せなかった。

 耳に響くクスクスという声、冷たく鋭い視線、口元を隠しながらも薄ら笑いしているのが丸分かりな態度。

 それらを向けてきた忌まわしき彼女達のことが。


『やはり、ディオクス様はお席を変えましたわね』

『それはそうでしょう。王太子であるディオクス様の許可もなく、未来の王太子妃様が座る席にいたんですもの』

『それも堂々と。私なら恥ずかしくて絶対にできないわ』

『ご挨拶の場所と場の空気を上手く変えてくださったディオクス様は、さすがですわね』

『私達は気をつけましょう。招かれざる者だと思われないように』

 

 彼女達の言動は未だ鮮明に思い出せる程、忌々しく許し難いものだが、許せないのはそれだけでは無い。

 彼女達のせいで、私は私が本来居るべき場所に居られなくなってしまったのだ。

 

 王太子が婚約者を決めるという、ここ最近で最も重要で、私が王太子妃になる事が決定するはずだったパーティーの場。

 そこで彼女達は『あれは招かざれる者だ』という空気を醸し出し、それを会場全体に広めていった。


 悪い意味で注目の的となったことにより、退出を余儀なくされた訳だが、敗者と見なされてしまう表門から帰るなど、未来の王太子妃として絶対に有り得ない。

 結果、裏門に続く暗灯しかない庭道を1人、歩き進む羽目になってしまったのだから、彼女達は本当に勘弁ならない存在だ。


 美しさも品格も家柄も、私より格下の身分のくせに。

 こちらを卑下するような態度を私に向け、晒し者にするなんて!!

 



「~ぃった!!」

 

 ワナワナと身を震わせながらずんずん歩いていた私の足先が、何かにぶち当たった。

 

「~なんなのっ?!」

 

 自分の足先が当たったものを勢いよく睨みつける。

 街頭の淡い光しかない夜道の中でそれを注視すれば、それは小さめのバスケット籠だったとわかった。

 

「私の右足に痛みを負わせるなんて!カゴの分際でっ!!」


 怒りに任せてそれを蹴ると、中に入っていたものが道に散らばった。

 それと同時に甘い香りが鼻に伝わり、私は思わず顔を顰める。

 その香りは、先程までいたパーティー会場の中で嗅いだ香りにひどく似ていた。


『クスクス』『フフッ』

 

 私の脳内に、先程の忌々しい出来事が思い起こされる。

 


「~っ!!!!」


 許せない、許せない、許せないっ。

 あの格下令嬢達も、足先に痛みを与え忌々しい記憶を呼び起こしたものらも。

 私の気分を害するもの達は、全て

 

「消え失せなさいっ!」

 

 憤怒した私はドレスの裾を持ち上げ、道に散らばった花を思い切り踏みつけた。

 忌々しいものは、跡形もなく踏み潰してやるっ。


「あーーーーー!!」

 

 ヒール靴で花をグリグリしていた私の背後から、叫び声が聞こえてきた。

 

 何事かと思い振り返ると、キャスケットを被った背の低い少年が呆然としながらこちらを見ている。

 ヨレた長袖シャツ、サスペンダーパンツに長い丈の作業靴。身にまとっているものを見るに、使用人以下の者だろう。

 公爵令嬢しかも我が国の支えである4大重要官職の1つ、財務大臣の娘である私には、話しかけることのできない身分。どころか、格下も格下、関わる価値などない存在だ。      

 無視一択。

 そう判断した私は目にしていた者からふいっと顔を反らし、再び花を踏みつける。

 溜まった鬱憤は晴らしてから帰らねば。


「辞めてください!!」


 背後にいた少年が、悲嘆の声をあげながらこちらに駆け寄ってきた。

 近くに来たことでわかったが、この少年、衣服に汚れがついている。

 小汚い使用人以下の者が私に声をかけてくるなんて、絶対にあり得ない。

 あり得ないのだが、少年のあまりにも悲痛な表情が引っかかり、失礼な態度は大変気に食わなかったものの、私は花から足を離してやった。

 

「なんてことだ……」


 少年は私の足元にしゃがみこみ、踏まれた花を手で持ち上げた。

 花弁が減ったペシャンコの花を見ながら、泣き出しそうになっている。


「きちんと籠に入れて道脇に置いていたのに、どうしてこんなことに……。まさか、貴方様が?」


 籠をひっくり返したのですか?

 真っ直ぐ私を見る少年の目は、そう語りかけていることが読み取れるものだった。

 

「はぁ?」


 こちらに非があるような態度を示され、嫌悪感が沸き起こる。

 

「私が悪いとでも言いたいの?公爵令嬢である私の通行を邪魔したのは、そのカゴよ?」


 こちらの許可なく格上の私に話しかけるどころか物申すなんて、この者は一体なんなのか。

 不愉快極まりなくなった私は、私のほうを見上げている身分不相応の愚か者を思い切り睨んでやった。


「それは、すみません。道脇とはいえ、籠を置いていた僕がいけませんでした。でも、散らばった花を踏みつける必要はなかったのではないですか?この子、酷く苦しんでいましたし……花、ダメになってしまいました」


 俯き悲しむ少年の姿に、私は呆気に取られてしまった。

 自分の不相応な態度を謝るどころか、さらに意見してくるなんて、頭がおかしすぎるではないか。

 ああ、わかった。

 この者は、教養すらない可哀想な者なのだ。

 会話を振り返ってみれば、貴族に対する態度や言葉の使い方をわかっていないようだった。


「貴方、身分と名前は?」

「え?」

「身分と名前を言いなさいと言っているの」

「あ、ええと、僕は庭師です。名前は、リュミエと言います」

「苗字は?」

「ありませんが……」


 質問の意図がわからないとばかりに、戸惑った様子で返答してきた庭師のリュミエ。

 名乗る苗字がないというのは、身分のない孤児院出身者か罪を犯して身分剥奪された者である証拠。この少年の場合は、今までの様子を見るに前者だろう。

 

「歳は?」

「15、です」

「なるほどね」

 

  少年の身分と年齢を把握し、自分の判断が正しかったとわかった私は、少年を見下しながら鼻で笑った。

 私より3つも年下の、プロレタリアート(無産者階級)ならば致し方ない。

 王太子妃に相応しい程に素晴らしく高貴な私が、格上のものに対する身の振り方を教えてあげなくては。


「何もわかっていない庭師のお子様には、高貴な私が教えてあげるわ。花なんて、また作ればいいのよ。それよりもあなたがすべき事は、格上の私に対しての無礼を謝ること。さあ、今すぐ謝罪なさい」


 ポカンと口を開けた顔で見上げてくる愚かな童顔(少年)に向かって、私はビシッと言い放った。

 ああ、なんて私は慈悲深いのかしら。

 無礼な態度を責めたてることなく、正しい事柄を教えてあげたんだもの。

 さあ、平伏して今までの過ちを謝りなさい。

そして、寛大すぎる私に感謝をなさい!



「…………それは無理です」



 






 お読みくださり、ありがとうございます✩.*˚


 本作は以前書いていた作品で、私の作品としては珍しく?テーマも構成も真っ直ぐめな作品です。

 

 ただただ楽しく、シンプル&マイペースに創り上げていきたいと思っております。


 ご興味あります方、よろしくお願い致します(❁ᴗ͈ˬᴗ͈)

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