王女として頑張ります
今回カミーユはほぼ出てきません。
ニコルの誕生会から数日後、彼女は母である王妃に連れられてお茶会に来ていた。このお茶会の参加者は母が王妃になる前からの友人が主で、夜会の時よりかは幾分か気が楽だ。
紅茶とアンブル王国ではやっているというお菓子を楽しみながら、母とその友人たちの会話に耳を傾ける。何人かの夫人は自分の娘を伴っており、ニコルは彼女たちともなるべく会話するようにした。
「姫さま、お聞きしたいことがありますの」
「なんでしょうか?」
「麗しの騎士、レナード様とはどんな関係なのですか?」
その言葉を皮切りに、皆が一斉に私を見る。私は緊張で乾いた口を紅茶で潤してから口を開いた。
「どんな、と言われましても……。ただの王女と近侍ですわ」
「それならなぜ、お誕生会の日にレナードさまと似た香水をつけていらしたの?」
どうしてこんなことを聞くのだろうと疑問に思ったニコルは、母に目線だけで助けを求める。そんな彼女の目線に気が付いたのか、王妃は彼女にそっと耳打ちした。
「レナードは美意識が高いで有名でしょう? 彼は自分で香水を調合しているの。自分にぴったりな香りを身にまといたいからって。騎士としての任務時には着けていないみたいだけど、社交の場に出るときはそれをいつもつけているの」
それを聞いて頭が真っ白になる。令息たちが手を取ってあいさつした後すぐに離れて行ったのは、手首から彼と似た香水の匂いがしたから?
ニコルはとりあえず落ち着けと自分を叱咤し、そっと深呼吸をする。そして口を開いた。
「レナードさまは洒落っ気の全くなかったわたくしを憐れんで香水をくれたのでしょう」
「つまり、あの時つけていた香水はレナードさまからのプレゼント?」
「そうですわ」
こくりと頷くと、夫人や令嬢たちはきゃあと歓声を上げる。そのまま本人そっちのけで恋愛話が盛り上がったので、ニコルは意味深に微笑んでおいた。
◇
お茶会からの帰り道、ニコルと王妃は馬車で揺られながら城へと戻る。
「それにしても、その香水がレナードからのプレゼントとは思わなかったわ」
「レディになるんだからこういうおしゃれにも気を使えと渡されただけだよ」
「そうかしら。男が女性に香水を渡すのは独占欲の表れというのが常識よ」
「カミーユに限ってそれはないよ」
「そうかしら。案外分からないものよ」
「きっとそうだよ」
ニコルは自分でそう言いながらも、胸が締め付けられる思いになった。わずかな表情の変化を見抜いたのか、王妃はフフフと笑う。
「ニコル、もっと自由に恋愛してもいいのよ」
「自由に?」
「ええ。結婚は王族の責務と考えているでしょう?」
「うん。いつか国のために結婚することも分かってるよ」
「確かにそうする王族もいるわ。決して間違っていない。婚姻を結ぶことは貴族や他国との関係を結んだり強固にしたりするのに有効な手段だもの」
おしどり夫婦で有名なセシルとテディも、ラピス王国と古くからの友好国であるアンブル王国の更なる親交のために結ばれた婚姻だ。だからニコルも、いつか国益になるだれかと婚姻を結ぶのだと考えていた。
「でもね、結婚ってそれだけじゃないの。二人が互いを想い合って結ばれることもあるのよ」
「それは……うらやましいね」
「レナードは家格としても申し分ないわ。それにどんな壁も、二人ならきっと乗り越えられるわよ」
「壁も何も……。私とカミーユはそんな関係じゃない。それに、彼には別の好きな人がいるんだよ?」
「あら、そうだったの?」
「そうだよ。私は彼を応援したいの」
「あなたは一度決めたことは曲げないものね。……ニコル、よく聞きなさい。あなたがどんなに正しいと信じ込んでいることでも、一度冷静になって周りを見てみることも大切よ。もしかしたらその〝正しいこと〟はあなたの勘違いかもしれないから」
「肝に銘じておくね」
「分かったならいいわ。それと、本心からぶつからなければ、どんな恋もかなわないわよ」
「分かったよ、かあさま」
そんな話をしているうちに馬車は王城へ着いた。ニコルは自室に戻って普段着に着替え、本を読んで過ごしいた。
キリの良いところまで読み進めたところで、国王から呼び出しがかかる。なんだろうと疑問に思いながら、彼女は王の間に赴いた。
王の間には国王陛下だけでなく、カイルとセシルもいた。国王はニコルの姿を見ると、口を開いた。
「来たか、ニコル」
「はい、ただいま参りました。おとうさま、いったい何の御用ですか?」
ニコルは淑女の礼を取り、首をかしげる。すると、国王はゆっくりと口を開いた。
「ニコル、おまえももう16だ。だから、カイルやセシルに任せていた公務の一部を受けおってもらいたい」
「分かりました。わたくしはいったい何をすればよいのですか?」
「そうだな。初めての公務ということも加味して、マイン鉱山の視察はどうだ」
「そうですね。そんなに多人数の前に姿を現すわけでもなく、周囲の治安も悪くない。初めての公務としては適当かと」
国王の言葉にカイルが頷く。ニコルはそれを聞いて「分かりました」と答えた。
「去年までの様子はカイルに聞くといい。王族としてしっかり励むように」
「はい、おとうさま。精一杯努めます」
激励の言葉をもらい、ニコルは再度淑女の礼を取った。
「ところでニコル、気になる異性でも見つけたのか?」
国王は厳格な雰囲気からよくある父親の表情になると問うた。ニコルはくすくすと笑って答える。
「とうさま、まだ私はこの前デビューしたばかりよ」
「いや、ずいぶん長くテラスにいたみたいだからな。てっきり意中の相手でもいたのかと」
「疲れたから輪から外れていたの。意中の相手なんてそんな」
「本当かい? カミーユとともにいたって聞いたけど」
「ああ、まあ、そうだけど。カミーユは話し相手になってくれただけだよ」
ニコニコと答えるニコルに、三人は微妙な顔をした。
◇
ニコルが王の間から退出した後、国王、カイル、セシルの三人は顔を見合わせた。
「話し相手、か」
「あれだけ牽制したうえに、外堀を埋め始めてるのに」
「ニコルはカミーユのことをすっかり信用しているみたいだ。牽制や外堀が埋められていることにすら気が付いてないんじゃないかな」
「ぼくなんかこの前決闘を申し込まれたよ。まずはニコルと想いを通じ合わせてからだと追い返したけれど。にしても、いつから彼はニコルを好きになったんだ?」
「俺の知る上では四年前かな。あいつはそのころからニコルの話を聞きたがった」
「ぼくの知る限り既に母さんは陥落してるよ」
「ならば、私が最後の砦にならなければ」
このままでは大切なニコルが食べられてしまうと、三人はひそかに戦慄した。
読んでくださりありがとうございました。
カミーユは策士なところがあるかもです




