20.第4話「剣勇 と 愛海」(2/5)
話は少し前の日に戻る。
剣勇が澪の過去を聞いた日の次の日のこと。
愛海は学校の許可を貰って一日だけ実家に帰宅をしていた。
時刻は午前5時。
愛海は道着を着て、道場のような場所で一人正座で座っていた。
綺麗な長い黒髪を一つに結んでいる。
数分後、道場に一人の男性が長い筒のようなモノを背負いながら入ってきた。
「マナミさん、おマたせしました。」
男は外国人で、金髪の髭を生やした白人男性だった。
ガタイが良い長身で、剣勇より大きい。
「サイラスさん、今日もよろしくお願いします。」
愛海はサイラスと呼んだ外国人男性に笑みを見せる。
するとサイラスは長い筒を開けると中から一本の竹刀を取り出した。
そして愛海に近づいて竹刀を渡した。
時刻は進んで午前6時。
道場からは木と木がぶつかる音が聞こえてきた。
竹刀を片手にサイラスに向かって斬りかかろうとする愛海。
そして愛海の攻撃を左手に持っている木でできた盾で防ぎ、右手で握っている竹刀で愛海を突こうとするサイラス。
戦っている二人の姿があった。
解説しよう。
この人の名は"サイラス・テイラー"。
騎士の家系に生まれたイギリス人男性である。
「愛海の戦い方は西洋の剣術の方が向いている」と判断した愛海の祖父の考えで愛海に剣術を教えている先生である。
戦いの師が剣勇なら、サイラスは剣術の師というところだ。
しばらくして互いに攻撃を止める。
「もう6ジですし、ここまでにしましょう。」
「はい、ありがとうございました。」
愛海は汗まみれの顔でお礼を言う。
そして近くの小さい机に置いてあったタオルで顔を拭き始めた。
サイラスも自分の竹刀と愛海の竹刀を再び筒の中に入れたりして片付けている。
すると、そこに一人のガタイの良い老人が現れた。
「もう終わったようだな。」
老人の声を聞いて愛海とサイラスは勢いよく振り向く。
「お祖父様、おはようございます!」
「ケンシロウサマ、おハヨうございます。」
愛海とサイラスは姿を見た瞬間、すぐに挨拶をした。
すると老人は「うむ、おはよう。」と腕を組んで仁王立ちの状態で笑みを浮かべながら挨拶を返した。
「テイラーくん、すまないが外してくれないだろうか?」
老人は優しくサイラスに言う。
するとサイラスは長い筒を背負った後に返事をする。
「ワかりました。 ではマナミさん、またカエってきたトキにアいましょう。」
「はい!」
愛海の返事を聞くとサイラスは速やかに道場から出て行った。
道場からサイラスが出て行ったことを確認すると、先程まで笑みを浮かべていた老人の顔が一気に険しくなった。
そして道場の中央辺りに座り出した。
それを見た愛海も急いで老人と向き合うように座る。
解説しなければならない。
この方は愛海の家系である日鷹家現当主。
名を"日鷹拳士郎"である。
かつて武道の達人として名を轟かせた武道家であり、由緒正しい日鷹家の安泰を守る生きた伝説である。
拳士郎は愛海を眺める。
顔は先程までとは打って変わって威圧感があり、空気が重く感じる。
愛海は気に押されないように耐えていた。
「愛海、メタルブレイザーの方はどうだ?」
「は、はい・・・、普段通り活躍しております。」
愛海は緊張しながら報告をする。
しばらく黙って愛海を見る拳士郎。
鋭い眼光が愛海を直視し、愛海は再び額に汗を流し始める。
やがて拳士郎の口が開かれる。
「例の彼を超すことはできたのか?」
拳士郎は次の質問を言う。
すると愛海はさらに汗を流し始めた。
「い、いえ・・・、それはまだでございます。 ですが必ず近いうちに超えて見せますので、もう少々お時間を・・・。」
「前もそう言ってもう数週間ほど日が経ったのだが?」
愛海は説得しようとするが、拳士郎に話を止められた。
愛海はなにも言えなくなってしまい、正座状態で真下を向く。
「彼、嘉堂剣勇が現れるまではお前が学園最強となっていたのだぞ。 彼を超えることがお前に与えられた天命なのだ。」
拳士郎は人差し指で愛海を指しながら言い放つ。
それに対して愛海は答えるために再び顔を上げた。
「それは十分承知しております・・・。 ですが、彼はあの嘉堂の血筋の者でございます。 そう簡単には超えることは・・・。」
「お前も日鷹家の血筋なのだぞ。」
拳士郎は愛海の話を途切らせて、そう言い放った。
すると愛海は再び顔を下げた。
「お前も由緒正し日鷹家の一人だ。 だが、お前はなにをやらせても微妙な結果ばかり。 少しは姉の"美空"を見習え。」
愛海には姉がいる。
名前は"日鷹美空"。
日本一の剣道家で、現在は世界大会に向けて修行をしている。
愛海はそんな姉にコンプレックスを抱いている。
「だが唯一、あのメタルブレイザーの適合者としてはかなりの才能がお前にはあった。 美空や、お前の母ですら全く才能がなかったのに、お前にはそれがあったのだ。」
実は「第一小隊」のメンバーの中でも、愛海は飛び抜けて才能がある。
今は皆そこそこ同じような力量だが、愛海は将来大きく成長するであろうと専門家の診断で明かされていた。
「あの時はとても嬉しかった。 なぜならそれで、お前が日鷹家の家系に相応しい者だと"初めて"判明したのだからな。」
拳士郎は悪びれる様子もなく、言い切った。
愛海は泣きそうになっているが、我慢して堪えていた。
「お前はいつか、あの嘉堂姫花はもちろん、現役時代の嘉堂結花をも超えねばならんのだ! なのに今のお前ときたら・・・!」
拳士郎は段々と喋りが激しくなってきた。
「百歩譲って精鋭部隊なら仕方がないが、男である嘉堂剣勇にすら劣っているとはなぁ!」
拳士郎の言葉を後頭部で受け止める愛海。
そろそろ泣くのを我慢するのも限界を迎えそうになっていた。
すると拳士郎は立ち上がり、道場を出て行こうとしていた。
だが出口で一度止まり、再び愛海の方を見る。
「いいか愛海! 今はなんとしても『彼』を超えるのだぞ! 勝負で勝てぬと言うのなら、せめて今は実績などで『彼』を超えるのだ!」
拳士郎はそう言うと、そのまま道場を出て行った。
道場に残ったのは静かに泣き崩れる愛海だけであった・・・。
そして日時は元に戻る。
現在剣勇と「第一小隊」はヘリコプターで移動中だった。
剣勇の座っている座席の両側には澪と愛海が座っており、向かいには明日香とクラリスと唯織が座っていた。
愛海は少しでも疲れを取るためか、目を瞑って座席に座っている。
時刻は大体午前6時30分近く。
空は紫色で、そろそろ暗くなってきた。
「ねえチーフ、さっき言ってた『夜戦』って?」
剣勇の隣に座っている赤いメタルブレイザーの装着者である澪が剣勇に質問する。
すると剣勇は顔を前に向けたまま説明し出した。
「本来は深夜帯などの真夜中での戦いが『夜間戦闘(=夜戦)』と言って、場所によっては周りがなにも見えないくらい真っ暗な場所で戦ったりするんだ。 この時間帯なら基本は大丈夫なのだが、たまに深夜みたいな暗い場所とかも存在するんだよ。」
「え、そうなの!?」
澪は剣勇の話に驚く。
それを聞いた明日香も分かりやすく怖がっている。
「大丈夫さ。 今回の出現地は都会だから暗くはあるが真っ暗ではないさ。」
剣勇はフォローをするように補足する。
それを聞いた澪と明日香は少しだけホッとしていた。
「ですが、少しは覚悟はしておいた方が良さそうですね。」
唯織は現実的なことを言う。
それを聞いて再び澪と明日香は暗くなった。
「本来なら時間も時間だし俺一人で行こうかと思っていたんだが、飯田先生に確認を取ってもらったら、『何事も経験だ。』と上から皆を連れていくように命令されてしまってな。」
剣勇は「第一小隊」を一人一人見ながら説明する。
「すまねえな、特訓で疲れているハズなのによ。」
灰色のメタルブレイザーが頭を下げた。
「良いよ良いよ。 ヤミガタを倒すのがアタシたちの使命だからね。」
さっきまで暗くなっていた澪は、元通りに元気よく答える。
澪の言葉に続くようにクラリスと唯織も頷く。
遅れて明日香も二度頷く。
「本当にありがとうな。 本当はシャワーとか浴びたいだろうに。」
剣勇は「第一小隊」にお礼を言った。
すると澪と明日香と唯織は笑みを見せた。
「じゃあさ、お詫びとしてツルギが体を洗ってです?」
「ん? ・・・あっ、大人をからかうんじゃねえ!」
クラリスの「〜です。」の使い方が間違っていたため、少しだけ理解が遅れた剣勇。
気付いて慌てて注意した。
そのやりとりを見て笑う澪たちだった。
しかし先程から愛海がなにも喋っていないため、密かに剣勇は気になっていた。
隣に座っているため話そうと思えば簡単に話せるが、先程のことで気まずくなっていた。
だが、そんなことで諦める剣勇じゃなかった。
「ま、愛海・・・。」
剣勇はゆっくりと愛海に話しかける。
すると、愛海は今まで閉じていた目を開いた。
そして剣勇の方を見る。
「さっきも言ったが、辛かったら言ってくれよな。 手遅れになってからじゃ遅いから、無理はしないでくれよ?」
剣勇は優しく愛海に言う。
彼は本気で愛海を心配しているのだ。
「・・・はい。」
愛海は元気がない感じの声色で答える。
だが剣勇は愛海が理解したことを信じて、それ以上はなにも言わなかった。
剣勇は再び元の姿勢に戻す。
それからしばらくは沈黙が続いていた。
「あの、隊長・・・。」
すると突然愛海が剣勇に話しかけた。
剣勇は若干驚いて、凄い速さで愛海の方を向く。
しかし愛海はあまり驚いたりはせず、話を続けた。
「先程はごめんなさい・・・。 怪我は、ございませんか・・・?」
愛海は元気がないが、剣勇に謝罪して怪我の心配をしてきた。
すると剣勇はすぐに返事をする。
「大丈夫だ。 俺は気にしてないから、元気を出しな。」
剣勇は愛海のメタルブレイザーの肩に手を置きながら言う。
だが愛海はそれ以上なにも言わなかった。




