19.第4話「剣勇 と 愛海」(1/5)
数日後。
いつものように『鉄衣学園』の訓練場で特訓をする「第一小隊」。
少しずつ実戦を経験し、前より強くなっている感覚がしていた。
訓練場の中央辺りで、生身の剣勇とメタルブレイザーを装着している澪が特訓をしていた。
「澪、殴った時に出る"隙"をもっと短くできないか?」
「んー、頑張る。」
剣勇の言う通りにしようとする澪。
しかしそう簡単にはいかないようだ。
休憩中の唯織とクラリスが、その光景を笑いながら眺めていた。
「ミオッチとツルギ、凄く仲良くなったよね。」
「そうだね。」
桃色の鎧と緑の鎧を身に纏いながら雑談している。
再装着が面倒くさいので、兜を取ってはいない。
ちなみに明日香はお手洗いに行っており、今はここにはいない。
そんな彼女たちとは別の場所で、青い鎧の剣士が一人激しく特訓をしていた。
突如現れるダミーたちを大きな剣で次々に斬り裂く。
まるでカマイタチの如く。
そして数十体目を剣で斬り裂くと動きを止めた。
青い兜を外し、髪留めを外す
綺麗な長い黒髪が解放され、髪型がストレートロングヘアに変わる。
愛海は訓練場の隅の方に移動すると、隅にあるベンチの上に置いておいたタオルで顔の汗を拭いた。
「お疲れ、愛海。」
声をかけられ、思わずその方向に顔を向ける愛海。
そこには水が入ったペットボトルを持っている剣勇がいた。
遠くを見ると、澪も兜を取って休憩しているようだった。
剣勇は自販機で買っておいた水入りペットボトルを愛海に渡そうとしている。
しかし愛海は受け取ろうとはせず、剣勇の顔を見る。
「なんですか、これは。」
「水だよ。 水分補給は大切だぞ。」
愛海は剣勇の顔と水入りペットボトルを交互に見比べる。
すると剣勇が差し出していた水入りペットボトルを取った。
「・・・ありがとうございます。」
愛海は嬉しそうではない声色でお礼を言いながら水入りペットボトルを貰う。
そして首から下はメタルブレイザーを着たままベンチに座った。
そばに外した髪留めを置いて。
「あ、あのさ、愛海・・・。」
剣勇はぎこちない感じで愛海に聞く。
愛海は不機嫌そうな顔をしながら剣勇を眺めていた。
「なんですか?」
不機嫌なのは顔だけではなさそうだった。
だが剣勇は踏み込む。
「なにか困ってるなら、いつでも力になるぞ。 だから、遠慮なく相談してくれよ。」
剣勇はそう愛海に言った。
実はこれは先日、理奈が剣勇に提案した「悩みを聞く。」という王道な仲の深め方である。
生徒の悩みを聞いてあげることで、生徒と仲良くなるという教師のやり方だ。
・・・しかし愛海は表情を変えない。
「大丈夫です。 心配はしなくて結構です。」
バッサリと言う。
作戦は失敗だった。
もっとも、本当に悩みがないのかもしれないが・・・。
「な、ならいいんだ。 でも、なにか困ったなら俺にいつでも相談してくれ。」
剣勇は汗をかきながらも、胸を軽く叩きながら愛海に言い放った。
すると愛海は不機嫌そうな顔で剣勇に聞く。
「隊長、なにが目的なのですか? ワタシに一体なにをして欲しいのですか?」
愛海は剣勇の顔を凝視しながら問い詰める。
その顔を見て、剣勇も参ったようだ。
剣勇は「はぁー・・・。」とため息を吐きながら一気に肩の力を抜くと、体を戻して愛海の顔を見た。
「すまない。 最近の愛海はどこか不機嫌そうに見えていたから、少し心配してしまってな。」
剣勇は正直に白状した。
「最近? マナミーは初めてツルギと会ったときから不機嫌な感じだったようなです?」
するとクラリスが会話に入ってきた。
相変わらず「〜です。」の使い方がおかしい。
クラリスの言葉を聞いて愛海がクラリスを睨む。
愛海に睨まれていることに気付いてクラリスは防御の構えをとった。
「最近の愛海からはどこか焦りを感じていた。 まるで時間に押されておるような感じで。」
二人がそんなことをしている内に、剣勇が話を続けた。
その話を聞いて愛海は目を丸くしながら剣勇を見上げる。
「俺の勘違いならそれでいいけど、なにか困っているなら相談に乗るぞ?」
剣勇は愛海の顔を見る。
すると愛海は再び不機嫌そうな顔に戻った。
「そうですか。 では、お言葉に甘えましょうか。」
愛海はそう言うとペットボトルをベンチに置いて、髪留めで再び髪を纏めた。
そしてメタルブレイザーの兜を被り、再び全身装備になって立ち上がった。
「隊長、ワタシと勝負をしてください。」
愛海は武器である大きな剣の先を剣勇に向けるように片手で構えた。
剣勇も思わず剣先に目を向ける。
当然クラリスは「え!?」と驚きの声を出す。
そしてその声を聞いた澪と唯織は剣勇たちの方を向く。
「隊長との勝負が、ワタシの頼みです。」
愛海は真剣な表情で剣勇を見つめる。
「・・・分かった。」
愛海の真剣さを理解したのか、剣勇は素直に了承した。
それを聞いて愛海は剣先を下げて、地面に向ける。
互いになにも言わず、剣勇は黙ったままメタルブレイザーを装着しに行くために訓練場の機械を使う。
「マナミー、一体どういうつもりかです?」
「勝負がしたいだけよ。」
クラリスの質問に冷静に答える愛海。
先程から真剣な顔つきを崩していない。
それから剣勇はメタルブレイザーを装着し、愛海との勝負が始まった。
その時には明日香はお手洗いから戻っており、澪たちと共に離れた場所から観戦していた。
剣勇は刀を、愛海は剣を扱っている
互いの刃がぶつかり合い、金属音が何度も訓練場に響き渡る。
戦いは激しく、お互い互角のような戦いを行なっていた。
そう、"ような"。
「隊長、手加減していますね・・・!」
愛海は剣を剣勇の刀に向かって振り下ろしながら怒鳴る。
刀と剣がぶつかり、反動で跳ね返ったと同時に互いに距離をとる。
愛海は剣を構えながら剣勇を睨んでいる。
「手加減をするつもりはない。 ただ、愛海を傷つけたくないだけだ。」
剣勇は正直に白状した。
しかしそれは愛海をさらに怒らせるだけだった。
「つまりワタシは、手加減している隊長と同じ実力だということじゃないですか・・・!」
愛海は明らかに怒っており、その怒りに任せて剣勇を攻撃する。
今までの華麗な剣さばきが嘘のように、がむしゃらに剣を振って剣勇に突撃してくる愛海。
剣勇は先程までの愛海の動きとは全然違う動きになり、困惑していた。
愛海の剣を余裕で刀で防いでいく。
「愛海、落ち着くんだ! 動きが素人になっているぞ!?」
剣勇は必死に愛海を説得しようとする。
しかし愛海は「うるさーい!」と子供のように叫びながら猛攻を続ける。
すると剣勇は自ら武器である刀を捨てて愛海に急接近する。
そして目の前の青いメタルブレイザーを抱きしめた。
「すまん、すまなかった! 俺が悪かった! だから落ち着いてくれぇ!!」
剣勇は見ていられなくなってしまい、愛海を直接止めに入った。
しかし愛海の暴走は止まらず、手に持っている剣で剣勇のメタルブレイザーに刃をぶつけまくる。
ただ、がむしゃらにぶつけているだけなので剣勇のメタルブレイザーにはあまり傷は付いていない。
遠くで見ていた唯織とクラリスも、愛海を止めるために二人に近づく。
近づく際に念のため兜を被り直していた。
クラリスは愛海を羽交い締めにして、唯織は愛海の剣を持っている腕を掴んで抑えた。
「マナミー、落ち着いて!」
「愛海、やっぱり今日のあなた変よ・・・!」
二人は必死に愛海を止める。
すると愛海も落ち着いたのか、動きを止めた。
唯織とクラリスは安全を確認すると愛海を解放する。
すると愛海は膝から崩れ落ちた。
持っていた剣も手放して地面に落とす。
少しだけ静かな時間が流れた。
その沈黙を最初に破ったのは剣勇だった。
「愛海、すまなかった。」
剣勇は片膝をついて、目線を愛海に合わせた。
そして愛海の左肩に右手を置く。
「だが分かってくれ。 俺の目的はお前たちを『一人前の戦士』に育て上げることなんだ。 お前たちに怪我をさせるわけにはいかないんだよ。」
剣勇は優しく愛海に語りかける。
しかし愛海はなにも言おうとはしなかった。
兜の透明なバイザーの奥で、涙を流している愛海を姿を剣勇は確認する。
しかしそれに対して剣勇はなにも言わなかった。
剣勇は静かに立ち上がる。
そして愛海以外の四人をそれぞれ見ながら剣勇は話し出す。
「すまないが、今日の特訓はここまでにする。 次の出撃までにしっかり休んでおいてくれ。」
剣勇は静かに指示を出した。
剣勇のメタルブレイザーのバイザーは赤くて中は見えないが、おそらく複雑な表情をしていることであろう。
剣勇の指示を聞いて澪と明日香はなにも言わずにすぐに動き出した。
まずはメタルブレイザーを仕舞う作業に取り掛かろうとしている。
唯織とクラリスは座り込んでいる愛海の側を離れない。
しかし剣勇は指揮官として指示を出そうとする。
・・・その時だった。
訓練場の隅にあるベンチに置いておいた剣勇のスマートフォンがうるさい音を出しながら振動し出した。
「なっ!?」
剣勇は遠くにある自身のスマートフォンを眺め、思わず声を出した。
愛海以外の「第一小隊」のメンバーも思わず音のする方を見る。
そう、「ヤミガタ出現」の通知である。
「隊長さん・・・!」
唯織は剣勇を見る。
彼女は準備はできているようだ。
同じくクラリスも剣勇を見る。
「し、しかし・・・。」
だが剣勇は戸惑っている。
理由は明らかだった。
剣勇は座り込んでいる愛海に目を向ける。
すると、今まで静かに座り込んでいた愛海が立ち上がり出した。
「大丈夫、です・・・。 行けますよ・・・。」
愛海は若干元気がなさそうに喋る。
そんな愛海の両肩に剣勇はそれぞれ両手を置いた。
「無理はするな。 今日は休んだ方がいい。」
剣勇は冷静に愛海に言う。
しかし愛海は反論する。
「ワタシはメタルブレイザー装着者です。 ヤミガタを倒すことが使命です。」
愛海は言い放つ。
剣勇はそれに対してなにかを言おうとするが、その前に愛海のメタルブレイザーの透明なバイザーの奥にある目を見た。
泣いた後の赤い目で剣勇を見ている。
その目を見た剣勇は言葉を詰まらせる。
剣勇は言おうとしたことを飲み込み、しばらくの沈黙の後、違うことを言い出した。
「・・・無理だけはするな。 辛かったら遠慮なく言ってくれよ。」
剣勇は静かにそう愛海に言った。
言葉の内容の通り、愛海の出撃を許可した。
それを聞いて愛海は一言「はい。」と言った。
剣勇は愛海の肩から手を離して、ヤミガタと戦う準備をし出す。
投げ捨てた刀を拾って鞘に戻す。
それを見た「第一小隊」も準備を始める。
剣勇はベンチに置いておいたスマートフォンなどを別の場所に移動させようとする。
「チーフ、愛海ちゃんは大丈夫なの?」
澪が後ろから声をかけてきた。
「分からないが、なにがあっても俺が愛海を守り抜くから安心しろ。」
澪のメタルブレイザーの頭に軽く手を置きながら宣言する。
澪もその言葉を信じたのか、バイザーの奥で笑顔を見せた。
しかし、剣勇の話は続いていた。
「・・・だが、それよりも心配なことがある。」
急に不安を感じさせることを剣勇は言い放つ。
澪は笑顔をやめて、普通の表情に戻る。
「し、心配とは・・・?」
少し遠くから黄色いメタルブレイザーを身につけた明日香が近づいてきた。
人一倍怖がりな彼女が不安を察知したのだろう。
「今、午後6時だろ?」
剣勇は明日香に聞く。
それに対して明日香は黙って頷いた。
いつも剣勇は特訓を午後6時に終わるように調整しているのだ。
剣勇はふと赤い空を見ながら言い放った。
「今回、場所によってはもしかしたら『夜戦』になるかもしれない・・・。」




