13.第3話「剣勇 と 澪」(1/6)
次の日。
剣勇は目を覚ました。
若干ダルそうな体を起こし、布団から出た。
カーテンを開け、外を見る。
外は明るく、空は青い。
普通の朝だ。
剣勇はあくびをしながら洗面所の方へ向かった。
洗面所で顔を洗い、軽くうがいもした。
玄関へ向かいドアにある郵便受けから新聞を取り、再びリビングへ向かう。
リビングにあるちゃぶ台に新聞紙を投げた。
そのままキッチンへ向かい、朝食を作ることにした。
と言っても、オーブントースターでパンを焼くだけだが。
念のため言っておくと、剣勇は料理ができるのでご安心を。
朝食を食べながらテレビを点けて新聞を読んでいると、あることに気が付いた。
(あ、今日は土曜だったな・・・。)
剣勇はうっかりしていた。
土曜日は学校が休みなのだ。
『鉄衣学園』は普通の高校と同じで、土日が休みなのである。
学校へ行ってもほとんど教員はいない。
いるのは寮で暮らしている教員と生徒、入口にいる門衛くらいである。
数時間後、剣勇は普段着で外を歩いていた。
散歩ついでに自主的に見回りをしているのである。
街は昨日のことが嘘のように、人々は普通に暮らしていた。
数十年前から起こっていることなので、もはや慣れてしまっているのだ。
ヤミガタがいなければ、いつもこのようになっている。
午前8時を過ぎているため、街中に警備隊の隊員はいない。
時刻は進み、午後3時。
この時刻になるまで剣勇は、色々な場所に行って過ごしていた。
本屋、ゲーム屋、レストランなどである。
ふと、歩き続けていると公園に着いた。
公園では子供たちが元気にサッカーをしていた。
もちろん本格的なものではないが、彼らなりに一生懸命プレイをしていた。
立ち止まって見ていた剣勇は、微笑ましく感じていた。
「ヘイヘイ、パース!!」
しかし今の声を聞いた瞬間、剣勇の表情がガラリと変わった。
なにか変な予感を感じ取ったのだ。
公園の方を見ると、その予感は的中していることを理解した剣勇だった。
公園でサッカーをしている男の子たち。
その中で一人だけ背の高い人間がいた。
小学生くらいの男の子たちに混ざってサッカーをしている女子高生・澪がそこにいた。
ちょうど子供たちはサッカーを一旦やめて休憩しだした。
すると澪は公園の外にいる剣勇と目が合った。
澪は口を開けた笑顔を見せながら剣勇のもとへ近付いてきた。
「チーフ!」
まるで子犬のようだった。
澪の格好は当然制服ではなく、普通の服だった。
ただ、白いTシャツとデニムの短パンというスポーティーな格好だった。
「お前、一体なにを・・・。」
剣勇は戸惑っていた。
突然のことで言葉に詰まっていた。
「近所の男の子とサッカーをしてるの。」
「いや、それは見て分かる。」
剣勇と澪が話していると、後ろから男の子たちがやってきた。
「澪姉ちゃん、なにしてるの。」
男の子たちは三人。
皆おそらく小学生だろう。
「大丈夫、ちょっと待ってて。」
澪がそう言うと、男子小学生たちは素直に公園へ戻って行った。
小学生たちが公園へ戻ったことを確認すると、澪は再び剣勇の方を向いた。
「休みの日には、たまにこうして小学生たちと公園でサッカーをしてるの。」
澪はニコニコと笑顔で答えた。
剣勇は澪の顔を見ると、それ以上は特になにも聞こうとはせず、ただ納得した。
澪は男子小学生たちのもとへ戻ろうと剣勇に背を向けたが、動く前に考え出した。
そして約5秒後。
澪は再び剣勇の方へ向いた。
「ねえ、よかったらチーフも見てく?」
「なんだと。」
澪が笑顔で剣勇に聞いてきた。
剣勇はしばらく澪の笑顔を眺めながら黙り込んだ。
数十分後。
「たぁー!」
澪のシュートが相手ゴールに決まった。
他の男子小学生たちも中々に強く、女子高生である澪が相手でも同じくらい運動能力があった。
そのおかげで澪も本気でボールを蹴飛ばして、シュートをしていた。
「やったー!!」
澪が味方の小学生たちとハイタッチをしていた。
ただ、澪と小学生では身長差があるため、澪は斜め下に向けてだったが。
こうして見ると澪も年上のお姉さんっぽく見える、と公園のベンチに座っている剣勇は思った。
もしくは澪が子供っぽいだけなのかもしれない、とも思っていた。
いずれにせよ、澪は小学生などの幼い子に好かれるタイプであろう。
「あ、もう5時になる。」
澪が公園の時計を指して皆に向かって言った。
小学生たちも時計を見て「マジだ。」や「ホントだ。」などと言っていた。
澪は地面に落ちているサッカーボールを拾って、一人の小学生にパスをした。
そして小学生たちはそれぞれ「バイバイ。」と言って次々に公園を出て行った。
公園に残っているのは、澪と剣勇のみとなった。
澪はベンチに座っている剣勇のもとに近付いた。
「お前、意外とサッカーできるんだな。」
「うん、そうだよ。」
澪は腰に手を当てて「えっへん。」とでも言いそうなポーズをして、その後剣勇の隣に座った。
「サッカーをやることでね、体力とかをあげてるの。」
ニコニコしながら澪は話していた。
「つまり、サッカーを筋トレ代わりにして特訓しているということか?」
「うん、そう。」
サッカーは体力は勿論、脚力や頭の回転、警戒心などもその気になれば鍛えられる。
澪はそれに目をつけてサッカーをやるようになったということだ。
剣勇の中で、澪への評価が変わった瞬間だった。
「・・・だが、どうして男子小学生を相手にしてるんだ?」
剣勇がそう聞くと、澪は剣勇から視線を外して顔を逸らした。
「だって、中学生以上だとついて行けなさそうだもん。」
澪はそう言って、勢いよくベンチから跳び立った。
そして腕を後ろで組みながら、剣勇の方に体を向けた。
「チーフ、アタシたちもそろそろ帰ろ。」
澪は再び笑顔を見せた。
今度は立ち姿も相まって、とても可愛く見えた。
剣勇は軽く笑いながらベンチから立ち上がり、澪に近付き頭を撫でた。
剣勇は澪と並んで帰っていた。
二人の身長差はかなりあり、遠目から見れば親子にも見える。
「チーフは明日はなにするの?」
「今日と同じ、散歩だ。」
剣勇と澪は話しながら帰っていた。
剣勇の歩幅は澪より大きいので、澪に歩幅を合わせて剣勇は歩いている。
「チーフ、やることないの?」
「散歩はパトロールも兼ねている。 大切なことだ。」
前方を見ていた剣勇は、目線だけ澪に向けた。
「それより、いつでも出撃できるようにしておけよ。 明日も休めるとは限らないのだから。」
「はーい・・・。」
澪は顔を膨らしながら返事をした。
ヤミガタは休日関係なく現れる。
メタルブレイザー装着者は常に気を抜けないのだ。
数十分が経ち、『鉄衣学園』まであと少しとなった。
「チーフも学校に通ってたの?」
「・・・いや、男だから『鉄衣学園』には通えず、普通の学校に行くわけにもいかないから、姉貴に自宅学習をさせられていた。」
少年時代の剣勇は、姉の姫花によって徹底的にメタルブレイザーの訓練をさせられていた。
そして勉強も姫花から教わっていた。
今の剣勇があるのは、姫花のおかげでもあるのだ。
「じゃあ、チーフって子供の頃に友達とかできなかったの?」
「いや、聡美ね・・・飯田先生がいた。」
うっかりいつものクセで「聡美姉」と言いそうになった。
いつもは「聡美姉」と言っているが、生徒の前では「飯田先生」と言うことにしている。
まあ、近くに生徒がいても「聡美姉」と言ってしまうけど。
「他には?」
「次にできたのは大人になってからだった。」
剣勇は静かにそう答えた。
特に悲しそうではなく、普通にそう言い放った。
剣勇の言葉が終わってから、澪はなにも言わなくなった。
ふと剣勇が澪を見ると、澪は静かに笑っていた。
「なんだ?」
剣勇がそう聞くと、澪は剣勇の服の袖を摘まんだ。
「チーフが昔の話をしてくれたぁ~。」
澪はルンルンしながら言った。
その言葉を聞いて、剣勇はハッとした。
この前、澪に過去のことを聞かれて断った剣勇だった。
しかしたった今、過去のことを話してしまった剣勇だった。
剣勇は完全に「しまった。」という感じで、右手で顔を覆った。
それからさらに数分が経ち、ついに『鉄衣学園』に着いた。
澪は門の前まで移動すると、振り返って剣勇を見た。
「チーフ、またねぇ~。」
無邪気に大きく手を振る澪に、剣勇は小さく手を振った。
そして剣勇も自分の帰る場所を目指して歩き出した。
そして、次の日。
アパートの自分の部屋に帰った剣勇は当然アパートの自分の部屋で目覚めた。
昨日が終わり、今日が始まる。
朝食や歯磨き、着替えなどを終わらして、剣勇はゆっくりと寛いでいた。
録画した昨日の番組を観ていた。
番組の名は「ギガントマンレイド」。
巨大ヒーロー「ギガントマン」が怪獣と戦う特撮ドラマ。
その最新作である。
剣勇は27歳だが、ヒーロー番組は好きである。
当然「ギガントマン」以外のヒーローも観ている。
番組では「ギガントマンレイド」の主人公である特殊部隊の隊員が、子供たちと一緒に遊んでいる場面となった。
すると、主人公が子供たちとサッカーをしだした。
「ん?」
剣勇は既視感を感じた。
それもそのハズ。
なぜなら昨日似たような光景を見たからだ。
剣勇は理解して、思わず鼻で笑った。
すると、突然剣勇のスマートフォンが鳴り出した。
音からわかるように、「ヤミガタ出現」の通知だ。
本当に休日にヤミガタが現れたのだ。
剣勇は慌ててスマートフォンの画面を見て、思わず肩を落とした。
仕方なくテレビを消して、急いで外に出て、ある場所へと向かった。
非常事態のときのために街中にメタルブレイザーを輸送するための装置がそこかしこに設置してある。
この装置は『鉄衣学園』にある装置とほぼ一緒だ。
違うところは、外では装着者証明のためのカードキーを使わないといけないことだ。
このカードキーは一人前となった装着者にしか配られない。
なので「第一小隊」はもちろん、聡美なども持ってはいないのだ。
剣勇は周りに誰もいないことを確認して、装置にカードキーを使う。
すると、剣勇の周りに透明な壁のようなモノが地面から出てきた。
これは、装着者のプライバシーを守るためのマジックミラーでできた壁なのだ。
ただし真上にはなにもない。
メタルブレイザーの箱が地面から現れ、剣勇は急いでメタルブレイザーを装着した。
いつもと違って私服での装着だがほとんど問題はなく、いつも通りに動くことができる。
機械による装着作業が終わり、箱の扉を閉める剣勇。
それとほぼ同時にマジックミラーの壁も引っ込んだ。
そこに現れたのは灰色の体を持つメタルブレイザーだけだった。
剣勇は『鉄衣学園』の方へ走り出した。
『鉄衣学園』で「第一小隊」の皆と合流するために。




