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身の丈を知るのは大事です。

ブックマーク、評価、ありがとうございます。

楽しんでいただければ、幸いです。

乾いた毛皮を持って、村へ戻る。

日の高いうちに戻ってきた俺を見て、門番さんが不思議そうな顔をしている。


「ん?早いな」

「初日なんで、無理はできないですよ」

「それもそうか。狩りはどうだった?」

「んー、順調すぎるというか。狩ってもきりが無い感じですね」


森の中の様子を話すと、門番さんも困った様なため息をついていた。


「そうか。まぁ、無理のない範囲で間引いてもらえると助かる」

「そのつもりです。あの、ちょっと聞いても良いですか?」

「ん?何だ?」

「何で、こんなことになってるんですか?」


俺の質問の意図に気づいたのか、門番さんはばつが悪そうに話し出した。


「もともと、大鼠や角兎の間引きは駆け出したちの仕事だったんだ」


やっぱりか。なら、原因を取り除ければ、その流れを取り戻せるかな。


「ただな。最近は、強い武器で強い魔獣を倒すっていう考えの奴が増えちまって。ちまちました事はやってられんとさ」

「んー、冒険者として分からなくはないですけど、それって大丈夫なんですか?」


主に、生存率とかの問題で。

強い武器があれば、強い魔獣も倒せるだろう。ただし、それはある程度の強い魔獣に限りという条件付きでだ。格の違う強敵には、いくら装備だけ揃えても技術が伴わなければ勝てない。


「まぁ、大丈夫ではないわな。この辺じゃ、それほど強い魔獣は出てこないから死亡率はそこまで上がってないが、怪我をする奴が多くなってるのは確かだ」

「でしょうね」

「恥ずかしい話だがな」


この村の冒険者の質を見るに、小物狩りがせいぜいじゃないかという奴らが多い気がする。


「正直、このままだと村の治安が危ない。何とかせねばと思ってるんだが」


んー、あれか。怪我で狩りにも行けず、装備を買い直す金も生活費もままならなくなってくると。そんな人間のたどる道は、一つしかないだろう。ゲームでも、くれくれとか言われる奴らは、一定数いたからな。


「何か、対策はされてるんですか?」

「常設依頼の金額を上げたりはしてるんだが、なかなかな」


んー、お金以外に強い魔獣を狩るメリットって何だろうか。


「どうして、強い魔獣を狩ろうとするんでしょう?命の危険があるのに」

「そりゃ、強い魔獣を狩った方がレベルが上がるからだろう?」


レベルか。確かに、ぎりぎり手の届く強敵でレベル上げをするのは、よくある手だ。ただし、それは命をチップにしない、ゲームだからだ。


「でも、狩れずに怪我だけして装備もお金も無くすくらいなら、地道にやった方が稼げるし戦闘経験も積めると思うんですけど」

「それを分かってる奴が少ないんだよな。困ったもんだ」


ふむ。小物狩りでどれだけレベルが上がるのかは知らないが、技術の向上は確実にできるだろう。技術さえあれば、ある程度強い魔獣にも対応はできると思う。

あれだな。なっちゃいねぇって奴だ。俺も、この世界に来て数日だから言える立場じゃないと思うが、レベル上げとは何ぞやというのが分かっていない。


「呆れちまうだろ?俺としても、夢を持ってきてる奴らが挫折していく様は見ていて辛いんだが、何もしてやれることがない。情けないがな」


自嘲気味に話す門番さんに、何と声をかけて良いのかわからない。どんなに気持ちを共有したいと思っても、俺は招かれただけのよそ者だ。


「帰る場所があるというのは、嬉しい事だと思いますよ?」


俺の言葉に、門番さんが不思議そうな顔をする。


「こうして、変わらず門番さんがいてくれると、森から帰ってきた人たちは安心するんじゃないでしょうか?」


きっと、疲弊して帰ってきた人たちは、門番さんの姿を見て、ようやく帰ってこれたと安心できているのではないだろうかと思う。おかえりと、無事を喜んでもらえる事は、命を張るこの世界では何より嬉しい事だと思う。


「そう、だろうか」

「ええ」

「そうか」


どこか嬉しそうな門番さんの声に胸を撫で下ろす。この村は、みんなが疲弊してきてる。少しでも、その心の重荷が軽くなればと思わずにはいられなかった。


門番さんと別れて、通りを進む。途中で、服屋と薬屋と肉屋に寄って荷物を下ろす。みんな喜んでくれたので良かった。また持って行こう。

ギルドに着くと、混雑する前につけたのか人はまばらだ。カウンターに行き、魔石とドロップ品を置き、常駐依頼の手続きをしてもらう。


「少々、お待ちください」


受付嬢さんが魔石とドロップ品を持って奥に下がって行った。仔鹿を愛でながら、時間を潰す。それにしても、何だ、あいつら。

ギルドには、酒場が併設されている。そこで呑んでいる男たちが、にやにやとこちらを見てくる視線に、門番さんとのやり取りで揺らいでいた気持ちが逆立つ。落ち着け、俺。受付嬢さん、早く戻ってきて。


「お待たせしました。討伐数25で銅貨25枚。角が8本で銅貨40枚。毛皮が12枚で銅貨36枚。合計が銅貨101枚になります。ご確認ください」


お、結構稼げるじゃん。


「大丈夫です。ありがとうございます」

「いえ。こちらこそ、間引きをしていただいて、ありがとうございます」


お金を受け取り、ギルドを出る。これで、本日の任務は完了だ。宿に帰って、仔鹿とのんびりしたい。

だが、そうは問屋がおろしてくれない様だ。ギルドを出て直ぐの広場で、先程の酔っ払いどもに絡まれた。

数は、5人か。どいつも大した腕はなさそうだ。


「シロ付きの坊主。ちょっと酒代貸してくれよ」


テンプレかよ。シロ付きに手を出す馬鹿はいないって話だったけど、何処にでも馬鹿はいるもんなんだな。仔鹿、そんなに毛を逆立てなくて良いよ。よしよし。


「素直に出しとけば、痛い目に合わなくて済むぜ」


はぁ、マジ、ウザい。相手の力量も見極められない奴らに、俺が負けるわけないじゃん。


「おい。ウサ公しか狩れない雑魚が、無視してんじゃねぇよ!」

「シロ付きっつっても、そんなちっこいの連れて、粋がってんなよ!」


粋がってんのは、どっちだよ。まったく。


「マジ、ウゼェ」

「あぁん?何つった?」


どうやら、俺の声は聞こえなかったらしい。なら、もう一度言ってやろう。


「ウザいって言ってんだよ。散れ。雑魚が」

「てめぇ!」


ほんと、単細胞。俺の言葉に怒ったのか、真正面から猪みたいに突っ込んでくる。猪の方が速いけどな。

殴りかかってきた腕を掴み、勢いを利用してぶん投げる。所謂、一本背負いだな。綺麗に決まった。投げられた男は、潰れた蛙の様な声を上げて呻いている。ざまぁ。


「てめぇ、なにしやがる!」

「突っ込んできたのはそっちだろ?」

「うるせぇ!やっちまえ!」


それが乱闘の合図だった。仔鹿、気にしなくて良いから、ちょっと離れてろ。良い子だ。

揃いも揃って、突っ込んでくることしか考えてない馬鹿ばっかりだ。足を引っ掛け、カウンターをお見舞いする。剣を抜こうとした馬鹿には、手首を捻って投げ飛ばす。何人か巻き添えを喰った様だが、避けられない奴が悪い。

気がつけば、あっという間に終わっていた。ほんと、手応えないな。これなら、道場の中高生を相手にしてる方が、まだ手応えがあるってもんだ。


「これで、分かったか?」


地面に這いつくばって呻いてる男たちに向かって声をかける。


「俺の装備が弱く見えたか?持ち込んだのが角兎のドロップ品ばかりだから、弱いと思ったか?ん?」


無言で睨み返してくる男たちに尋ねるが、返事はない。まぁ、そうだろうな。


「まぁ、俺は強くないよ?レベルは1だし、職業は戦闘職じゃない」


俺の言葉に、男たちの表情が変わる。戸惑いと疑いの表情だろうか。まぁ、信じる信じないは勝手にすれば良い。


「で?そんな俺に負けるお前たちは、何者だ?相手の実力も見極められない奴が、粋がってんじゃねぇぞ」


俺の言葉に、男たちの顔が赤く染まる。それが、羞恥からか怒りからかは知らない。興味もない。


「呑んだくれてる暇があるなら、ウサ公ぐらい狩ってきたらどうだ?無駄な突撃を繰り返してるより、よっぽど金になるぞ?」


まぁ、これで考えを改められるなら世話はないんだが、難しいだろうな。ん。仔鹿か。そうだな、そろそろ帰ろうか。


「まぁ、あんたたちが何者かは知らないし、興味もないが、忠告だけはしておいてやる。強くなるのに、近道はねぇ。強くなりたきゃ、手を抜くな。手を抜いた瞬間、今までの努力が無駄になると心しろ」


俺の言葉を聞いて、男たちが何を思うのかは知らない。興味もない。変わりたいなら変われば良い。変わらず落ちていくなら、それもまた選択の一つだろう。

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