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回復薬を買いに行こう。

宿を出て、通りを歩く。相変わらず見られているが気にしない。仔鹿も、どこかすました顔で歩いている。

今日の買い物は、魔力回復系と状態異常回復系のポーションの買い足しをしておこうと思う。自分で作れば良いのではと思った、諸君。材料がわからないから、作れないのだよ。そこんとこも調べないといけないんだが、ひとまずは既製品で代用しようと思う。


「お金、足りると良いな」


各種ポーションの値段がわからないので、全種類は無理かもしれない。最低でも、魔力回復系と毒消し、麻痺直しくらいは持っておきたいところだ。そんなことを考えていると目的地に着いた。

そこは、昨日の帰り道に見つけた、ちょっと怪しげな店。軒先に色んな薬草らしきものが吊ってある。店内には、ポーションらしき液体の入った入れ物も置いてある。壁の棚にある、生き物のホルマリン漬けみたいなのは見なかったことにしよう。


「何をお探しだい?旅人さん」


店主らしきお婆さんが声をかけてくれる。ちょっと、魔女っぽいけど、悪い人ではなさそうだ。


「すいません。少し見せていただいても良いですか?」

「構わないよ。シロ付きの旅人さん」

「あれ、ご存知でしたか?」

「くくく。狭い村だからね。数日あれば、村中が知っているよ。シロ付きが村に来たってね」


まぁ、あれだけ見られていれば、当たり前かもしれない。


「この村の奴らは、悪い奴らじゃないから安心おし。だが、よそ者には気をつけるんだね。未だに、阿呆な事を考える奴らは多い」

「ご忠告、ありがとうございます」


こればっかりは、仕方のないことかもしれない。ただ、そうなった時に使える力はつけておいた方がいいだろう。はぁ、こういうのがゲームと違って、面倒くさいところだよな。


「それで、何を探してるんだい?」

「とりあえず、魔力が回復できるものと、毒消しなどの状態異常の対策ができるものを探してます」

「魔力ポーションはそこの瓶に入ってる赤いのだね。状態異常だと、そこの紫の丸薬が毒消しと黄色の丸薬が麻痺直しさ。この辺の魔獣じゃ、それ以外の状態異常になることはないからね。それがあれば対処できるだろうさ」


この辺の魔獣はってことは、地域が変われば、他の状態異常を使ってくるのもいるんだろうな。とりあえず、毒消しと麻痺直しでこの辺りの散策に問題がないなら大丈夫か。


「魔力ポーションは、銅貨10枚から30枚。毒消しと麻痺直しは1瓶に15錠入って、銅貨3枚だよ」

「魔力ポーションの値段の違いは、液体の色による感じですか?」


さっきから気になってたんだけど、魔力ポーションも普通のポーションも、列によって色の濃さが違う。値段が上がるにつれて色が濃くなってる。


「ポーション買うのは、初めてかい?」

「はい」

「それなら覚えておくと良いさ。ポーションは色の濃いものほど効果が高いが、比例して値段も上がってくる。日常のちょっとした傷や打撲ぐらいなら、この一番淡い色のポーションで十分さね」


そうなのか。俺の作ったポーションの色を考えると、仔鹿の傷が治ったのも納得って感じだな。


「まあ、冒険や狩りに出るなら、万が一も考えて出来るだけ色の濃いものを買う人が多いがね。薄いのは、村人用みたいなもんさ」

「そうなんですね。じゃぁ、一番濃い魔力ポーションを3本、毒消しと麻痺直しを1本ずつ、お願いします」

「全部で、銅貨96枚だね」


銀貨を1枚渡して、お釣りに銅貨4枚を受け取る。品物を受け取り、割れない様に鞄に詰める。この瓶も、あとで『強化』しておいたほうがいいかもしれないな。

鞄を触っていると、角兎の角が入っているのを思い出した。確か、薬効があったはずだ。


「すいません。これって薬になるって聞いたんですけど、合ってます?」

「ん?それは、角兎の角かい?それは、砕いて薬草と一緒に煎じれば、病み上がりの体力を回復してくれるんだよ。ポーションより安価で手に入る庶民の味方ってやつさ」


そうなのか。たくさんあって困るものではなさそうだな。


「良かったら、こいつを売っちゃくれないかい?最近は、角兎を狩る冒険者が減ってきて、少し高騰してるんだ。備蓄もそろそろ少なくなってきてるしね」

「それは構いませんけど、狩る冒険者が減ってるっていうのは?」

「身の程知らずが多いのさ。大した腕もないくせに、大物ばかり狙いたがる。お陰で、大型の魔獣が減って、薬草類を食い物にする大鼠や角兎が増えてるんだよ。迷惑な話さ」


生態系が崩れてるってことか。


「わかりました。また、角が手に入ったら持ってきます」

「助かるよ。数はいくらあっても足りないんだ。あるだけ買い取るよ」

「今はこの3本しかないんですよ」

「1本銅貨5枚で良いかい?ギルドでの買取と変わらないはずだ」

「問題ないです」


銅貨15枚を受け取り、角を3本渡す。また、持ってこよう。

それから、少し薬草について教えてもらった。商売装具なのに良いのかと思ったが、どうせギルドに採取依頼を出してるものだから構わないと教えてくれた。魔女みたいだけど、良い人だ。


「この村のポーションや薬は、お婆さんが作ってるんですか?」

「そうだよ。この村より先は、薬師のいない集落みたいな小さな村が多くてね。そこから買いにやって来る者たちも多いんだ。老体に鞭打って頑張っちゃいるが、材料がなけりゃ作りようもないのさ」


小物狩りや採取をする人が少ないのかな。低レベルの人にとって、安定した収入になるから、いないってことはないと思うんだけど。


「お弟子さんみたいな人はいないんですか?」

「孫がやってるよ。まだまだ、草摘みぐらいしか任せられない様なひよっこだがね」

「なら、まだまだ頑張らないとですね」

「くくく。そうだね。早く隠居させて欲しいものだよ」


この婆さんなら、もう100年は現役してそうだけどな。

お店を出る頃には、すっかり日が暮れていた。長時間の放置になって、仔鹿には申し訳ない。


さて、これで手持ちが銀貨1枚と銅貨が少々。残り20日分の宿代を払って、食費も合わせると辛うじてって感じだ。

明日は、朝から冒険者ギルドに行って、依頼を見てから狩りに行こう。どうせ狩るなら、ランク上げの足しにした方がいい。

それに、薬屋の婆さんも言ってたが、村の中だから安全ということもない。いざという時に必要なのは力だ。物理的な力だけでなく、目に見えない力としての地位や権力。よそ者の俺が手にできるとすれば、冒険者のランクを上げて、地位と力を手に入れることくらいだろう。


「まずは、装備の強化と、この魔力ポーションの効果の確認か」


前に装備を並べ、脇にポーションを置いておく。色の違いでどれだけ回復量が違うのかは、調べておかないと実戦で困るからな。

矢は数があるから後回し。まずは、防具類の胸当て、靴、こて。


「魔力は、まだ大丈夫そうだな」


続いて、武器の弓。これは、特に気を付けて作業する。


「ふう。できたけど、魔力がやばい」


ちょっとふらふらする。魔力ポーションの瓶を開けて、口に含む。んー、なんと表現していいかわからない味だ。まぁ、飲めない味ではないので良かった。回復量も、今の俺の魔力量だと1本で十分回復できるみたいだ。

矢にいく前に、ポーション類の瓶も『強化』しておこう。割れたらもったいない。商業ギルドで買えるらしいけど、無駄な出費は抑えるに越したことはない。節約、大事。

ではでは、矢の『強化』といこうか。こっからは、まさに作業って感じだ。何本かまとめてやっても良いけど、失敗しそうだから1本ずつやろう。こういう作業は、嫌いじゃない。

ふんふんと鼻歌まじりに矢を『強化』していく。途中で魔力切れでぶっ倒れそうになったけど、ポーションのお陰でなんとか持ち直した。備えあれば憂いなしってね。はい、すいません。ちょっと調子に乗りました。


「さて、とりあえずの準備はできたかな」


宿の自室で、荷物の確認をする。

魔力ポーション1本と剥ぎ取り用の木のナイフ、干し肉と今日の帰りに買った皮の水筒、何かと使い勝手がいい手拭い数枚、角や魔石を入れられる大きさの違う袋と肉を包む殺菌作用のあるらしい大きな葉っぱ、ポーションの空瓶も一応ね。後は、地球産の諸々を入れておく。鞄にはまだまだ余裕があるので、狩ったものも入れて持ち運べるだろう。


それにしても、昨日今日の買い物で気になったことがある。住人と冒険者の間に感じる軋轢は、何が原因だろうか。そもそも、住人と冒険者の関係とは何だろう。

ゲーム内の生産職と戦闘職では役割が違った。それぞれには役割があった。生産職は、素材を使って装備やアイテムを作り出す。戦闘職は、その装備やアイテムを使い、更にランクの高い素材を取ってくる。互いに対等な取引をしていた。これが崩壊したゲームは、直ぐに廃れていった。もしかして、この世界はそのバランスが崩れてしまっているのだろうか。


「そうだとしたら、このバランスを取り直すのは、難しいかもしれないな」


何年か前に嵌ったゲームで、このバランス崩壊が起きた。住人が減り、素材の供給が減っていき、高威力の装備の提供ができなくなれば、ステージが進めなくなり、また住人が減る。正に、負のスパイラル。

当時、稼いでいた仮想通貨を使い、新規参入組から高値で素材を買い取ることで、素材が売れるという考えを植え付けるところから始めた。途中まではうまく行ったが、転売屋などが現れ、バランスは直ぐに崩れた。それからしばらくして配信が停止になったんだったか。

とにかく、一度崩れたバランスを戻すには、かなりの時間と労力がかかる。金も知識もない、今の俺には荷の重い話だ。


「それでも、このまま見過ごす訳にもいかないよな」


人の死を少しでも減らそうとする人がいる。もがく人を見守り支えようとする人がいる。人々の生活を守ろうと頑張ってる人がいる。たった2日過ごしただけで、これだけの人と出会える場所は少ないだろう。

訳もわからず放り出されたこの世界で、せめてこの村の現状だけでも改善できたなら、ここへきた意味がわかるかもしれない。これは、きっと生産職にしかわからないことだと思うから。

ポーションは青

魔力ポーションは赤

色が濃いほど効果が高い

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― 新着の感想 ―
[一言] 3割目の 「身の程知らずが多いのさ。大した腕もないくせに、大物ばかり狙いたがる。お陰で、大型の魔獣が減って、薬草類を食い物にする大鼠や角兎が増えてるんだよ。迷惑な話さ」の所ですが意味がおかし…
[気になる点] 魔力ポーションは、銅貨30枚。 毒消しと麻痺直しは1瓶、銅貨3枚。 魔力ポーションを3本、毒消しと麻痺直しを1本ずつ買うと、銅貨96枚じゃないの?
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