講習会を始めよう。
ブックマーク、評価、ありがとうございます。
楽しんでいただければ、嬉しいです。
不安そうな見習い組のために、俺はバンキンスとサポートに入ることにする。
「バン、前衛組のサポートを頼む。俺は中衛後衛組のサポートするから」
「おう。良いぜ」
「まぁ、習うより慣れろだ。行くぞ」
そう言って見習い組を連れて、大鴉の群れに向かう。バンキンスとの2人組じゃないからか、特に逃げられることもなさそうで、ほっと胸を撫で下ろす。これで逃げられたら、狩りの練習にならんからな。
「取り敢えず、中衛組は後衛組の守備に回ろうか。バン、前衛を頼んだぞ」
「おう」
バンキンスに連れられて、前衛組が大鴉の方へ歩いていく。見習い組の動きがぎこちないが、いやでも慣れるだろう。バンキンスがいれば、そうそう危険なこともないはずだしな。
翼を広げて威嚇する個体もいれば、飛び立って上空から様子を窺っている個体もいる。
「じゃぁ、まずは飛んでるやつを落としてみようか」
「あの、外れたら仲間に当たるんじゃないですか?」
「ん?あぁ、心配しなくて良いよ。そう言うのはバンがうまく処理するから、お前たちは当てて落とすことだけ考えれば良い」
「わ、わかりました」
後衛組が武器を構える。
「好きなタイミングでやれば良いからな」
そう言うと弓術士と猟師が矢を放つ。が、矢は大きく弧を描いて大鴉を超えていく。まぁ、届かないよりマシか。
狩人が鎖鎌を投げるが、鎖を短く持ちすぎていたのか大鴉まで届かない。まぁ、初めてだとこんなものだろう。
攻撃されたことに気づいた大鴉が、こちらに狙いを移して飛んでくる。
自分たちに向かってくる大鴉の姿を見て、見習い組が緊張に体を強張らせる。
「まぁ、討ちもらせばこうなるから、できるだけ一撃で落とす様にしろよ」
そう言って、俺は飛んでくる大鴉の眼球目掛けて矢を放つ。
矢は吸い込まれる様に大鴉の目に突き刺さり、大鴉はその勢いのまま俺たちの側の地面に墜落して滑っていった。一直線に来てくれると狙いやすいな。
「す、すごい」
「あんな正確に撃ち抜くなんて」
「お前たちでも、あれぐらいならできる様になるよ。今は、大鴉の飛行能力を奪うことだけに集中してろ」
俺の言葉に半信半疑な様子ながら、どこか期待する様な高揚感を目に宿した弓術士と猟師の2人は、改めて弓を構えると大鴉に狙いを定める。
2人と違い、狩人の子は鎖鎌を見ながら落ち込んだ様子を見せるので、俺は助言をするために声をかける。
「ほら、お前も構えて」
「無理ですよ。真っ直ぐ飛ばないし、届かないし」
「無理じゃないさ。取り敢えず鎖は先端と先端から両手を広げた分くらいの位置だけ持ってろ。そうだ。後は、投げるときは真っ直ぐじゃなくて良い。獲物の少し後ろの方まで弧を描く様に投げろ。後はタイミングを見て鎖を引くだけで良い」
俺の助言を受けて、狩人の子は鎌を放物線状に投げる。
鎌に気づいた大鴉が警戒するが、自分を素通りしていった鎌を見て警戒を緩めた。鎌が大鴉の後方に落ちていくが、俺はタイミングを見計らう。
「今だ!引け!」
「は、はいぃ!」
狩人の子が俺の声に慌てた様に鎖を引くと、丁度、大鴉の翼の後ろにあった鎌が勢いよく鎖に引っ張られて戻ってくる。もちろん、その導線上にあった大鴉の翼を切り裂いて。
翼を切られた大鴉が地面に向かって落ちていくが、地面に落ちる前に剣士の子によって首をはねられた。
「今の感覚を忘れるなよ」
「は、はい!」
後衛組の指導を終えて、次は中衛組の指導に移ることにする。
「今回の立ち位置では、中衛組は後衛組を狙ってきた個体を迎撃するのが主な役割になってくる。大鴉の様な飛ぶ獲物相手だと、後衛がどれだけ獲物を落とせるかが重要になるから、中衛は後衛が安心して攻撃できる態勢を整えられる様にするんだ」
後衛を守る様に散開している中衛に声をかけ、俺も弓から三節棍に武器を持ち変える。
まずはお手本として、真っ直ぐに突っ込んできた大鴉の首を横薙ぎに打ち払う。大鴉はそのまま地面に落ちて
動かなくなったので、上手く首の骨を砕くことができたらしい。
「大鴉の様な鳥系の生き物は、今みたいに首を狙うといい。上手くいけば首を砕けるし、頭にでも当たれば怯ませることもできる」
それだけ言って、次の大鴉を姿勢を低くして待ち受ける。
先ほどと同じ様に突っ込んでくるが、今回はあえてタイミングを遅らせて棍を突き上げる様にすると、綺麗に翼の根本に当たった。大鴉はバランスを崩して地面の上を滑っていく。滑った先にいた漁師の子が大鴉にとどめを刺した。
「翼にダメージを与えられれば、今みたいに落ちてきたところを迎撃もできるし、落ちた大鴉も直ぐに飛び上がれないから乱戦になった時は時間稼ぎにもなる。他にもいろんな攻撃方法があるが、大鴉相手の基本はこの2つだな。まずは、これができる様になれ」
それだけ伝えると、実践に入る。
立ち位置によって襲撃率が違うので、一人ずづ立ち位置を回しながら、大鴉を迎撃させていく。俺は、中衛3人の内側に位置どり、包囲を抜けてきた大鴉を迎撃する。
しばらく続けていると、職業補正なのか慣れなのか、見習組の動きも良くなってくる。
「おい!コウ!もう少し、獲物を落としてくれ!」
バンキンスの声に前衛組の様子を見ると、今の後衛の命中率では前衛組の戦力が余ってしまっている様だ。
俺はポーチの鉄屑を使って鉄針を作ると、中衛のサポートをしながら、大鴉を落とすだけの簡単なお仕事を開始する。後衛の命中率を見て落とす量を調整しながら中衛のサポートをするというのはなかなかに忙しいが、手が回らない程でもない。
開始から3時間くらい経ったあたりで見習組がバテてきたので、バンキンスに声をかけて2人で周囲の大鴉の殲滅をする。殲滅と言っても、途中で逃げていった大鴉も多いので蹴散らしたに近いかもしれないけど。
全員でドロップ品を回収して休憩に入る。
「そっちはどうだ?」
「囲まれなきゃ、問題ないと思うぞ。とどめを刺すだけなら、大分慣れた様だからな」
「そうか。こっちも基本的な動きは良くなってきたな。2〜3日もやれば、3組に分けての狩りもできそうだな」
やはり、職業補正の影響は大きい様だ。
初めの村で指導した時も思ったが、適正武器であれば1週間も練習すれば基本の動きは大抵の人ができる様になっていた。それ以上のことは各人の練習次第だろうが、適正武器以外を扱うより効率よく戦力を上げられるのは確かな様だ。
その日は、もう一度、大鴉の群れを狩りに行き、見習組が息切れしたタイミングで終了とした。
ドロップ品に関しては、基本的に見習組に狩りをさせていたので持って帰らせた。人数も多いことだし頭割りをしても大した稼ぎにはならないだろうけど、無いよりマシだろう。
それから3日は全員でまとまって狩りをさせ、俺たちのサポートがなくても動けることを確認してから、見習組を3組に分ける。
前衛、中衛、後衛が3人1組になる様に分け、俺たちが直ぐにサポートに入れる範囲で狩りをさせる。時々、メンバーを入れ替えることで、どんな相手とでも連携できる様に練習をさせた。
午前の基礎練習と午後の狩りを続けること1週間もすれば、そこそこ安定して狩りができる様になってきた。何処かが崩れても、他の組がサポートに入れる様になっているので、そろそろ卒業させても良いだろう。
「と言うことで、お前たちはそろそろ卒業だ」
「卒業、ですか」
「あぁ。大鴉程度なら十分に狩れるだけの力はついたはずだからな」
「正直、まだまだ師匠方には教えて欲しいことが沢山あるんですけど」
「言っただろ?俺が教えるのは基礎の動きだけだと。そこから先は自分たちで考えろ。誰かに師事し直すのも良し、狩りの中で鍛えるのも良し。本格的に学ぶ気概があるなら、東の方の村で冒険者ギルド主催で技術を教えてくれる所もあるから、興味があるならギルドに聞いてみるといい」
「ん?東にそんな村があるのか?」
「あぁ。ちょっと色々あってな。老師たちが冒険者の育成をしてくれてるんだ」
「ほぉ」
何やらバンキンスの方が興味を示してしまったが、行かないからな。
いつかは戻るつもりだが、少なくとも今直ぐ帰るつもりはない。
「そう言うことだ。今後、どうするかは自分たちで決めろ。俺が教えるのはここまでだ」
「分かりました。今までご指導、ありがとうございました」
「まぁ、命あってのもんだってのを忘れるなよ」
「はい」
こうして見習組の育成は、無事に終了した訳だけど。
「なぁ、バン」
「なんだ?コウ」
「なんか、後ろの方から視線を感じるのは気のせいかな?」
「気のせいじゃねえな」
二人してそっと後ろを窺うと、茂みや木の陰に複数の人影があった。あ、これ、面倒臭いやつだ。
俺たちが気づいたことに気づいた人たちが、ぞろぞろと集まってくる。ざっと20人ほどだろうか。
初心者っぽい子供の姿もあるが、そうでない者の方が多そうだ。
みんなの期待のこもった表情を見るに、用件の察しがついてしまった俺たちはお互いに顔を見合わせる。
「おい。コウ」
「すまん。付き合ってくれ」
「はぁ。仕方ねぇな」
こうして、第二回、大鴉狩り講習会が幕を開けたのだった。
なお、最終的には大鴉の間引きが例年以上の成果を挙げられた様なので、良しとしよう。
なんだかんだと面倒見の良い二人でした(笑)




