新しい武器を買いに行こう。
誤字報告、ありがとうございます。
システムを活用しきれず、発見が遅れてしまいました。
また、お気づきのことがあれば、教えていただけると幸いです。
次の日の朝から、俺はブランを連れて森へ来ていた。
村の近くの浅い辺りは、みんなとの狩りで角兎の姿を見るのは稀になってきている。代わりに、大鼠の姿が目立つ。角兎よりもすばしっこい大鼠は、今のみんなでも狩れないことはないが、角兎より時間がかかるだろう。
「こいつら、ちょろちょろ茂みの側を走るから、狙い付けにくいんだよな。しかも、速いから避けるし」
木の上から大鼠の姿を探す。かさっという葉擦れの音の後に、黒い影が横切る。さっと矢を放つと、大鼠が騒ぐ金切り声が聞こえてきた。少し外したようだ。素早く木から降りて、矢の刺さった場所に急ぐ。そこに、矢が刺さったまま暴れている大鼠の姿があった。至近距離から矢を放つと、大鼠はぱたりと動かなくなる。それを袋に放り込み、次の獲物を探す。俺は剥ぎ取ることを考えず、ただ只管に大鼠を狩り続けた。
そうやって森を歩いていると、時々、剥ぎ取りの跡を見つけることがある。きちんと処理がされているのを見ると、嬉しくなる。教え子組は、きちんと約束を守っている様だ。
午前の狩りだけで荷物がいっぱいになってしまったので、一度、村に帰ることにした。こういう時、ゲームの様にスキルボードに収納機能がついていたら楽なのにと思わずにはいられない。一応、魔法のある世界なんだから、探せば収納鞄の様なものは見つかるだろうか。高そうだけど。
そんなことを考えながら、ギルドの扉をくぐる。すると、奥から受付嬢さんが駆け寄ってきた。どうかしたのだろうか。
「ちょうど良かった。ギルド長がお呼びです。少し、お時間いただいても大丈夫ですか?」
「えぇ。大丈夫ですよ。あ、その間にこれの処理をお願いしてもいいですか?」
「いつもの常設依頼の分ですね。お預かりします。ギルド長に伝えてきますので、応接室でお待ちください」
そう言って、受付嬢さんはカウンターの奥に消えていく。俺は、言われた通りに応接室に向かう。ブランは、昨日と同じ様に足元でお昼寝する様だ。体をまるめて休むブランを撫でながら、ギルド長が来るのを待つ。
少しするとギルド長が入室してきた。
「すまんな。ちょいとばかし、問題が出てきたもんでな」
「問題ですか?」
「あぁ。この村の冒険者の中でも上位の連中が、鉄級に教えられるなら自分たちにもできると言って騒ぎやがる」
「上位の冒険者ですか?」
そんな奴ら、居ただろうか。
「レベルだと15から20ってとこか。ランクは銅級に上がって直ぐくらいの奴らだ。銅級に上がった冒険者は、暫くするともっと大きな街に出て行っちまうからな」
なるほど。
「俺と、どっちが強いですか?」
俺の質問にギルド長はにやりと笑う。
「100回やっても、お前が勝つだろうよ」
「なら、拳で黙らせろってことですね」
「そういうこった。頼めるか?」
「わかりました。そういうことでしたら、明日の昼過ぎ、このギルドの前の広場で」
「おう。あいつらには、お前に勝てたら考えてやるって言って集めておく」
ギルド長は何処か楽しそうな顔でそんな事を言っている。悪い人だ。
「あと、薬屋のマルクにキュア草の根っこを10株ほど用意してもらってください」
「根っこでいいのか?何に使うんだ?」
「それは、当日のお楽しみということで。マルクには、俺からの伝言だと言えばわかりますから」
「わかった。使いを出しておく」
ギルド長と打ち合わせを終えて下に降りると、受付嬢さんが声をかけてくれる。常設依頼の処理が終わった様だ。お金を受け取り、ギルドを出る。
そのまま、俺は武器屋に向かった。店に入ると、爺さんは相変わらず暇そうに商品の手入れをしていた。閑古鳥は、相変わらず鳴きっぱなしのようだ。
「こんにちは」
「おう。坊主か。久しぶりだな」
「ご無沙汰してます。この間は、色々してもらったみたいで、ありがとうございます」
「俺は何もしてねぇよ。ちょうど店の掃除をしようと思ってるところに、貧乏小僧どもがきたから使ってやっただけだ」
そんな憎まれ口を叩く爺さんに、笑いそうになるのを必死で堪える。
「で、今日はなんか用か?」
「えぇ。少し、武器を新調しようかと思いまして」
「ほぉ。遂に、違うの持つ気になったのか?」
武器を見ている俺を、爺さんは興味深げに眺めてくる。この爺さんは、なんだかんだで俺が弓矢しか使わないことに不満そうだったからな。
「明日、使う用事ができちゃいまして」
「明日?何かあんのか?」
俺は武器を選びながら、ギルド関係であったことを掻い摘んで話す。明日、冒険者と試合があることを告げると、にやりと笑っていた。
「そいつらも馬鹿だが、付き合う坊主も大概の馬鹿だな」
「んー、でも、それが手っ取り早いんだから仕方なくないですか?」
俺の返事に、爺さんが楽しそうに笑っている。何か面白いこと言ったかな。
「そんで、坊主。武器は何にするのか決めてんのか?」
「それなんですよね。俺は弓でもいいんですけど、ああいう人たちって飛び道具で倒しても納得しそうにないじゃないですか?だったら、何か直接的な武器でも新調しようかなって」
「違いねぇな」
くっくと喉を鳴らして笑う爺さんと話しながら、色々と手にとってみる。やはり、どれもバランスが良くて振りやすい。ただ、大剣なんかの大型の武器は、俺の筋力では扱いきれそうにない。となると、片手剣か、棍か、短剣を使っての格闘戦でも良いかもしれない。
俺がああでもない、こうでもないと唸っていると、爺さんが店の奥から何か持ってきた。
「坊主。面白いもん見せてやる。こっち来い」
「面白いもの?何ですか?」
「これだよ。この間、興味本位で仕入れてみたんだが、坊主なら使えるんじゃないか?」
「お!珍しいもの持ってますね。この辺に、これ使うような人いるんですか?」
「さぁな。売りに来たやつも、買い手が付かねぇってんで、捨て値で置いていったものだ。持ってくか?」
「いいんですか?」
「おう。その分、明日は楽しませてくれよ」
「まぁ、頑張りますよ」
爺さんの持ってきたものを持って、裏庭に出る。
武器の造りを見てみると、構造自体は単純だが、使うタイミングは慣れないと難しそうだ。何度か、取り出したり収納したりを繰り返してみる。んー、大丈夫そうかな。
今度は、少し振ってみる。重さは少し軽いかな。スピードは出そうだが、『強化』しておかないと耐久性が心配だ。
自分の体を中心に振ってみたり、的に向かって打ち込んでみたりと、思い出しながら動いていく。
「なかなか、癖の強そうな武器だな」
「そうですね。距離感が変わるんで、慣れないと直ぐ自分にダメージ入るんですよね」
面白そうだからって、これやり始めたときは、身体中が青痣だらけになって母さんに心配されたっけ。
「明日は、そいつで行くのか?」
「それも良いんですけど、んー」
この武器を使うのは良い。持ち運びにも便利だし、隠し武器としても旅の友になると思う。
ただ、折角なので、何か自分の能力を使った戦い方がしてみたい。何ができるのかと言われると、わからないんだけどね。
何かないかと周りを見ると、店の隅のガラクタ入れのような箱が目についた。中を覗くと、金属片のようなものが入っている。
「これ、何ですか?」
「ん?そいつは、ただの鉄屑だ。武器を鍛え直したりするときに、混ぜるやつだな」
箱の中から小指の先程の鉄屑をいくつか拾い上げる。爺さんも、俺の手元を覗き込んでくる。それをどうするのかと疑問の表情で見ている。
これは、鉄屑。屑と言っても、鉄に変わりない。素材がわかってれば作れるのが、俺の力だ。
「作成」
手の上の鉄屑に魔力を通す。イメージするのは細い針。『レシピ』に載っていれば、俺のイメージ通りのものができるだろう。鉄屑はふわっと光を放った後、その姿を変えた。爺さんが、驚いている。
「坊主。そんな事できたのか?それに、そいつは鉄串か?」
俺が作ったのは鉄でできた針。鉄串やニードルと呼ばれるようなもの。
俺は、それを指の間に握り込んで構えると、的に向かって腕を振った。まっすぐ飛んだ針は、的には当たるが、そこまで深く刺さらない。牽制用には使えるかもしれないけど、殺傷力は高くないようだ。
後で『レシピ』を調べる必要はあるが、これは使えるかもしれない。今まで、植物素材しか使ってなかったから気付かなかった。
「坊主にかかれば、ただの鉄屑が暗器に早変わりってか。武器屋泣かせの能力だな。おい」
「そんなに大層なもんじゃないですよ。そもそも、材料が分かってないと作れないですし」
材料さえわかれば問題ないんだけどね。
「量産品はできても、鍛えられた職人武器には敵わないですよ」
たぶん、材料さえあれば、強い武器は作れる。魔力が足りれば。
だけど、どうしたってそれは量産品だ。職人が魂を込めて鍛え上げた武器には敵わないのではないかと思う。
持つ人を想い、その人のために鍛えられた武器というのは、時に限界を超えた能力を発揮することがあるという。そういう意味で、武器職人としては、爺さんのように生涯をかけて武器と向き合うような人には敵わない。
それから、いくつか必要なものを買い込み、森へ向かった。
久しぶりに使うものもあったので、体を慣らすために河原で武器を振る。振っているうちに、少しずつ体が動きを思い出してくる。いくつか型の練習をしていると、気づけば日が暮れかけていたので慌てて村に戻る。
帰りの遅い俺を心配してくれていた門番さんに謝罪をして、宿に戻り、明日に備えて休んだ。




