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そして、アリスティドは思い返していた。

ニコラスは目の前の問題を出来るだけ早く解決しないと気が済まない性格で、それは睡眠を削っても行われる…と。彼の息子なら嫌でもわかる。

それは息子へも促されるのだ。


アリスティドはいち早く幼女の親を探しに行かねばならないであろう。

ましてやとても小さくか弱い幼女がここに独り。親もかなり心配しているはずで、一刻も早く無事を伝えるべきだった。

だが、一体どうやって?

ただでさえ広いこの国だ。国民全員把握出来るような情勢でもない。探すとてかなり難しいであろう。

どうしようか…と考える。それを見かねてか、


「とは言えアリスティドまだ15歳、人一人探すのもかなりの時間がかかろう」


ニコラスが言う。続けて、


「幸いにも私は国王と30年来の付き合いがある。必ずや力になってくださるだろう」


と、言い放つ。ということは、つまり。


「……俺に王都に行け、と?」

「そういうことだ。私の跡を継ぐにも、まだまだ経験は必要だぞ、アリスティド」

「うー!」


幼女がアリスティドの代わりのように、元気に返事をした。





「……ねえアリス」


隣に座るナディアがアリスティドを呼ぶ。

村の少し外れた場所にある丘で、2人は並んで座っていた。夜空に綺麗な星々が瞬き、とても落ち着く場所だ。


あれから、話は終息した。


出発は明日の朝。

アリスティドと幼女、そして何度か王都に出入りし王宮にも出向いたことのあるナディアが同行することになった。年が近く、仲が良い者がいた方が良いだろうと、ニコラスなりの気遣いだった。


ニコラスが国王に宛てた手紙を書いてくれるようだが、どういった内容になるのやら。

ナディアに返事を返す。


「どうしたんだ?」

「……明日から、どうなるのかしらね」


アリスティドは愚か、ナディアにすら、この出来事は予想していなかった事。

不安になるだろう。

幼女は眠くなったらしく、アリスティドの部屋で寝ている。巻き込まれたこの子が、一番可哀想だ。


「まあ…そうだな。当分はあの子の親を探してやるのが目標かな」

「そうね、あんな小さな子が親と離ればなれなんて悲しい事だわ」


不安なのは自分達だけではない。

今、実質独りぼっちの幼女も、きっと不安なはずだ。それなら自分達が何をするべきか、自ずと答えは見えてくる。


「…決めたよ」

「なにを?」

「あの子の名前」


親を探してあげるのは勿論だが、いつまでも呼び名がないのも可哀想である。

だから、ナディアが言ったように名前をつけてあげた。


「なんてお名前?」

「秘密」


これから先ずっと、あの子の大切な名前になるかもしれない。

だから一番にあの子に聞かせてあげたいんだ。

とナディアに説明したら、納得してくれた。


「そうね、それがいいと思うわ。あの子の反応が楽しみね」

「…そうだね」


喜んでくれるかなんて分からない。が、幼女の名前を呼んであげるのが楽しみであった。

一番名前を呼んであげれるのは、きっとアリスティドなのだから。


それからくだらない話を少しして、程なくしてから2人は眠りについた。





朝になった。

雲一つない青空が、今日の旅路を出迎えてくれているようだ。


いつもより早くに目が覚めたアリスティドは、幼女の分も荷物をまとめた。

昨日幾度となく魔力を使った為か、幼女はまだ寝ている。とても心地よさそうに寝ているので、出来れば起こしてあげたくはない。

…が、いつまでも起こさない訳にはいかないので、幼女の体を揺さぶる。

すごく嫌そうな顔をしながら、彼女はゆっくりと目を開ける。


「おはよう、メル」

「………?」


寝起きだからか聞き慣れない単語に首を傾げている。

アリスティドは目の前の幼子――メルを抱き抱える。


「今日から君の名前は、メルだ」

「…!」


何となくだろうが分かってくれたのか、メルは寝ぼけ眼から一点、顔をぱっと輝かせる。その顔を見たアリスティドはなんだか嬉しくなる。


「さあメル、眠いかもしれないが今日はおでかけだ」


アリスティドに抱えられながら、メルは足をジタバタさせた。こうも喜んでいそうな素振りをしてくれると、名前を付けた甲斐があるものだ。

さて服を着替えさせようと、メルの服に手をかける。


「ちょっとお待ちなさぁーい!!!」


バン、と勢いよく開かれた部屋の扉に、2人とも驚いた。乱れた髪と息切れを整えながら、ずかずかとナディアがこちらに向かってくる。


「どうした?」

「ど…どうしたも、こうしたも、な、ないわよ!」


何やら怒っているような雰囲気を出しながら、アリスティドからメルを奪う。


「仮にもアリスのお嫁様になるかもしれない乙女の裸を見るなんて、アリスには百年程早くてよ!」


そういえば、昨日メルの寝巻きを着替えさせたのはナディアだった。その時アリスティドはというと、ニコラスと2人で話をしていたので、ナディアに任せたのだった。


自分とメルの分の荷物を持って、大人しく外に出る。

とりあえず玄関まで行こうと足を進めたその時、アリス様、と声をかけられた。振り返るとデズモンドが立っている。

アリスティドの持っている荷物をデズモンドが持ってくれて、そのまま2人で玄関へと向かった。

それにしても、とデズモンドが口を開く。


「アリス様が無事に15歳になられて、デズモンドは嬉しゅうございます」

「みんなやデズモンドのおかげだよ」

「こうしてお館様の代わりに王都に向かえるほどに成長なされて…」


デズモンドが目頭を抑える。

感動する場面なのだろうが、アリスティドにはなにか引っ掛かった。


「……父さんの代わり?」

「あっ、」


しまった、と口を抑えたデズモンドだが、もう遅い。


「俺は父さんの代わりに王都に行くのか?」

「あっ…いえ…」


確かに父・ニコラスは忙しい。

王都に何度も出向く用事もあると聞いている。呼ばれると言うことはそれ相応の事があるからだろうが…それを息子に押し付けたとは。

だがデズモンドは別に悪くない。

悪いのは父である。


「わかったよ、ありがとうデズモンド」

「ですが……」

「デズモンドは悪くないから。結局王都には行かなければいけないっぽいし、ちゃんと行くよ」

「アリス様………っ」


再び俯き目頭を抑え出すデズモンドにアリスティドは思う。


まだ15歳になったばかりなんだけどな、と。

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