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第一話「壁の中にいる何か」③

 まぁ、本音を言うと、とっても怖いんだけど、仲間いるし、ビビリ半分、好奇心には勝てねぇって奴だ。

 

 この何が起こるかわからないスリリングさ。

 肝試しとかやってる若造の気持ち……解る、解る!

 

 多分、皆……こう言うドキドキ感とか非日常感を求めてるんだ。

 

 そんなことを思いながら、とりあえず、一階の廊下を端から端へと歩く。

 

 元々そんなに広くもない建物。

 殆どの部屋が何も残されていないし……落書きだらけで、荒れ放題だった。

 

「手術室のライトとか、昔はあったらしいんだけどな……誰かが持っていったんだろう」


「心霊スポットのモノ盗むとかすげぇな……」

 

 でかい声で雑談しつつ、階段前にたどり着く……炎の明かりは、頼りなく揺らめきながら、辺りを照らしていた。

 

 最後尾の与志水は、せわしなく背後を頼りない懐中電灯の光で照らしながら、付いてきている。


「まぁ、絵に描いたような廃墟だな……TVだと地下室がヤバイとか言ってたぜ」


 高藤が前に出て、地下へと続く階段を覗き込む。


「こないだやってたのは、三階で女の幽霊がーってやってたよね」

 

「しかしまぁ、ものの見事に廃墟だなぁ……ここTVで紹介されてるとか言ってたけど……そいや、見たことあるかもしんない。って言うか、落書きがスゴイし、設備の壊れっぷりが雰囲気あるっちゃあるんだけど、ちょっと落書きがクドすぎるね……」


「むしろ、心霊番組の定番スポットって感じだからね。週末になると、10人以上人がいるなんて珍しくもないらしいんだけど……与志水、前もこんなもんだったのかい? なんか、全然、人がいなくね? 声も気配もしねぇんだけど……下は、誰もいないみたいだな」


 高籐が、下へ続く階段の途中まで行って、引き返してしてくる。


「いや、今日は全然居ない……。前来たときと雰囲気が違う。つか、徳重のヤツ、ビビりやがって……俺二回目だし、もう帰っていいかな?」


「ええっ! 与志ちゃん! 私を置いてくつもりなの? 私達、友達だよね?」


 須磨さんが相変わらず、人の背中にへばり付きながら、抗議の声を上げる。

 

「与志水さんや……一人は、経験者居てくれないと、さすがに……ねぇ。ところで、皆の衆……階段、上と下どっち行く?」


 地下へと続く階段の奥は、外の明かりも届かないただひたすら闇の世界。

 何やら冷気が湧き上がって来てるような気がする……。

 

 それに……さっきから漂うこのすえたような匂い。

 どこかで嗅いだ覚えがるのだけど、思い出せない。

 

 これはさすがにこええ……と言うか。

 外は、歩きながら汗かく程度にはムシ暑かったんだけど、なんでこの中、こんなひんやりしてるんだろう……?


「下は霊安室があるだけなんだがね……つか、地下ってマジで光が入ってこなくて真っ暗闇だから、万が一明かりが消えたら、やばいって! それに上の方からも全然人の気配しねぇし! おかしいぜ……これっ!」


 与志水が上ずった声で、騒ぎ立てる。

 須磨さんが俺の肩を掴む手に力を込める……あの、痛いんですが。

 

「いやいや、まだまだ何も起こってないし……テンパるには早いだろ!」

 

 ……と思ったら、更に上の方で悲鳴やらドタバタ足音。

 なんかあったらしい。

 

「人、いるじゃん……なんか騒々しいけど、何かあったのかな? 見に行ってみない?」


 とりあえず、照明に難がある今の装備で真っ暗闇の地下室なんて行きたくない……。

 

 と言うことで、むしろラッキーみたいに思って、上へ向かう。

 須磨さん……相変わらず、背後霊の如く背中に張り付き中。

 

「はぁ……びっくりした……ただの影だった! ……与志君! 君、いきなり叫んだりとかしないでね! 私、絶対泣いちゃうから、ううっ! トイレ行っとけばよかった……」


「須磨さん、ビビりすぎだって! なんなら、俺、先頭行こうか?」


 高藤やたら、強気である……まぁ、デカいのが先頭ってのは、悪くないよな。

 

 万が一攻撃的なヤンキーに遭遇しても、高藤なら大抵のやつがビビる。

 

 ガタイがデカい筋肉ってのは、立ってるだけで頼もしいのだ。

 

 それに引き換え須磨さんは……相変わらず、へばり付きモード。

 いつもは、姉貴分みたいな調子なんだけど、今日はヘタレ全開! まぁ、これはこれで悪くないけど。

 

 後ろに人がいるってのはむしろ安心要素……いくら俺でも真後ろだけは死角だからな。


 これ、一人だったらヤバイね……友達バンザイ!

 

 そんな事を思ってると、不意に辺りが暗くなる。

 

「やっべぇ、とうとう消えた!」


 薄暗かった与志水の懐中電灯がいよいよ本格的に点かなくなったらしい。

 

 もはや、明かりは俺の手元のライターだけ。

 

 ジッポーライターなんて、元々照明用途でもなんでもないから、ないよりマシ程度。

 徐々に加熱して、持ちにくくなってるけど、とりあえずは照明代わりにはなってる。


 まぁ、暗いと言っても、外の街灯の明かりが入ってきてるから、真っ暗ってわけじゃない……暗視能力が高い俺にとっては、すぐに順応できる程度の暗さじゃある。

 

 けど、ジッポーが消えたら、須磨さんが発狂しそう……そう思いながら、二階へと進む。

 

 騒いでた連中は反対側の階段から降りたらしく、バタバタと出ていった様子だった。

 何があったか聞いてみたいけど、ヤンキー系とかだったら、あんま関わりたくないし……。

 

 二階……長い廊下と左右に部屋の入り口らしきものが並んでいる。

 

 外から見た様子だと窓ガラスは全て割られており、街灯が目の前にあることもあって、外から差し込む明かりが廊下まで届いていて、一階よりもむしろ明るい雰囲気だった。

 

 むき出しの配管や大量の落書き……ヤバイくらい老朽化が進んでるって聞いてたけど、確かにこれはヤバイ。

 

 さっきの連中はここで何かを見たのか? でも、悲鳴もちょっと遠目だったから三階だったのかも。

 

 いい加減ライターが加熱して、持つのが熱くなってきたので、一旦火を消す。

 思った通り、明かりが消えても足元や壁もなんとか見渡せる。

 

 要するに、暗いのは光が差し込みにくい一階だけ。

 ここらは、割と普通の廃墟っぽい雰囲気だった。

 

 三階は……さすがに、今の騒ぎっぷりですぐ行くのは、怖いな。

 反対側の階段を使って一旦降りて、何があったのか聞いてみよう……そんな事を考える。

 

 それにしても、ここは風通しが良いのか、匂いもそんなにしないし、明かり無しで動けるくらいには明るい。

 目も慣れてきたから、ここに居る分には問題なさそうだった。

 

 各部屋を覗くと、床が抜けてたり物理的にヤバイと悟る。

 

「こりゃ、入っちゃ駄目だろ……違う意味で危険だよなぁ……」


「見延くん……何故、明かりを消したのかな?」


 背後霊状態の須磨さん……もはや泣きそうな感じである。

 まぁ、現状一番のネックは須磨さんにとっ捕まってるもんで、機動力激減中ってことだけど。

 

「ごめん、さすがに加熱して持ってられなくなった。でも、消しても、そこまで真っ暗じゃないでしょ?」


「そうだけどさ。高藤くん、ごめん! ちょっと盾になって!」


「今度は俺かよっ! まぁ、いいけどさ」


 高藤、鼻の下伸ばしてるし……。

 須磨さん、そのでっかいの取扱い注意なんだが、イマイチ自覚ないみたいなんだよね。

 

 ……カバンたすき掛けにしたりすると、大変なことになるし、走るとそりゃもう盛大に揺れる……ありゃもう、凶器だろう。

 

 とりあえず、身軽になったので、割と無事な感じの部屋に入って、通り側の方へ進み、窓から外を見下ろしてみる。

 

「おーい、見延君っ! 無事だったかい?」


 窓の下から、灰峰ねーさんの声。

 

「灰峰ねーさん……どうよ? とりあえず、割となんともないよ」


 下からこちらを見上げてる灰峰ねーさん。

 

「……あのさ私、今日はあんまりお勧めしないって言ったよね。いいから、そろそろ戻って来なさいっ! 早くっ!」


 割と強い口調でそう言って、視線を少し上にやる灰峰ねーさん。

 上の階に何かある……?


 さっき騒いでたのも三階っぽいし……本命は、三階?


 灰峰ねーさんは、いわゆる見える人だと言う話……。

 そして、徳重も……。

 

 連中の目には、ここはどんな風に見えているのだろう?


 俺にはただの廃墟にしか見えないのだけど……。

 

 別に笑ったりしないから、入りたがらない理由とか、何が見えてるのとか教えて欲しい。

 そんな事を思うのだけど……。

 

 けど、この時の俺は何も解ってなかった。

 

 すぐそこに迫りつつある恐怖を……。

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