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第一話「壁の中にいる何か」①

 それはまだ、俺が免許も持ってない頃……10代の頃の話。

 その頃の俺には、ちょっとした縁で知り合った仲間達がいた。

 

 当時は、まだまだ少数派だったアニメや漫画と言った趣味を共通とする仲間ってところだ。

 

 知り合った経緯としては、ゲーセンや本屋の利用者連絡ノート経由で……と言って、どれほどの人が理解できるだろうか?

 

 当時は、対戦格闘ゲームのパイオニア、ストリートファイター2とかが流行り始めて、ロードス島戦記なんかが、流行り始めた頃。

 

 いわば、オタク文化の黎明期ってとこだったんだ。

 

 時代としては、Windows95とかが出るよりも前。

 PCも全く普及しておらず、インターネットもなければ、携帯すら無かった。

 

 今からすれば、それでどうやって連絡取り合ってたの? とか、皆、何やってたのって、思うかも知れないけど。

 

 無いものは無い。

 

 駅の自動改札も無ければ、スイカなんて存在もしない。

 カメラと言えばフィルムカメラ……電話番号と言えば、家電の番号。

 

 まぁ、そんなもんだったんだよ。

 

 仲間との合流にしても、前日に家電に連絡とか、駅の伝言板を使ったり、予め時間を決めて待ち合わせたり。

 まぁ、それが当たり前だった。

 

 そんな古き良き時代。

 

 そんな中、近くに住んでて同好の趣味で、年の近い仲間ってのは、本当に貴重な存在だった。

 

 本屋の片隅に置かれたノートに、いつも可愛いイラストを書いてくやつに話しかけてみたり、ゲーセンでやたら手強い奴と、ノートを通じて仲良くなったりと。

 

 俺達は、そんなアナログな手段を使って、仲間や横の繋がりを増やしていったもんだ。

 この辺は、今の若い連中には全く理解できないと思うけれど……。

 

 当時のオタク連中は、圧倒的少数派。

 

 お互い同好の士に飢えてた……そんな中、学校とか住んでる地域の枠を超えて、知り合った仲間達。

 それが、どんなに貴重なものだったかなんて、言うまでもない。

 

 これは……言わば、昔を懐かしむ、昔語りのようなものだ。

 もう失われてしまった過去の物語。

 

 さて、最初の話の舞台は90年代、平成一桁の頃に遡る。

 

 60余年にも及んだ昭和と言う長い時代が終わり、21世紀に向けて世の中が大きく変わり始めていた頃。

 

 私は……当時を思い出しながら、この物語を書いている。

 

 当時と今は、もう常識からして違うから、なんで? なにそれ?

 ……とか、疑問に思う部分もあるかも知れないけれど。

 

 そんなもんだと思って読んで欲しい。

 

 もちろん、当時を知る人がいたら、懐かしいと思ってくれればいい。

 当然、うろ覚えで怪しい事もいっぱいだけど、いちいちツッコむとかそりゃ、野暮ってもんだ。

 

 さて、それでは本題に入ろうか……。

 

 

 さて、10代、20代の若造と言えば、金はないけど、暇はあるって相場は決まってる。

 その辺、今も昔もそう変わりない。

 

 週末の夜とか、何となくダベってるうちに、終電過ぎて……んじゃ、朝まで付き合ってやるか!

 

 ……なんてやってたり、歩いて誰かの家まで行こう! とか。


 そんな事をやってたりしたもんだ。

 まさに、暇人。

 

 当時も一応、飲み屋とか24時間営業のファミレスとかもあったんだけどね。

 皆、10代で金なんかない。


 深夜ドライブっても、まだまだ車なんて持ってるやつはいない。

 

 だから、駅前の広場で朝までたむろってたり、夜の街をプラプラ当て所もなく歩く……そんな調子だった訳。

 もちろん、オタク仲間は野郎だけじゃない……女の子だっていた。

 

 とはいえ、女子高生とか深夜に連れ歩くわけにも行かないから、週末の夜は野郎どもばかりで、外でたむろする。

 そんな事が多かった。

 

 要するに、仲間と一緒にいることが楽しかったから、ただそれだけの理由でなんだかんだ、理由をつけて同じ時間を過ごす。


 とにかく、どこにでもいる若造達だったんだ……俺達は……。

 

 

 そんな仲間達と迎えた初夏の土曜の夜。

 

 ……俺達は24時間営業のファーストフードで、コーヒー一杯、バーガーにポテトの三点セットで延々粘りながら、何人かは、華麗に終電をブッちぎっていた。

 

 話題になるのは、しょうもない話ばかり。

 オタクらしく新作アニメや漫画、小説の話だったり、ゲームの話。

 

 あのキャラは可愛いとかだったり……この作家すげーとか、そんな調子。


 今もそんなに変わりないかもしれないけど、そこら辺は……まぁ、一緒だろ。

 

 若造っても、皆、基本的にオタクだから、当時の若造にありがちなバイクがどうのとか、女の子の話とかはあんまりしてなかったなぁ。

 

 まぁ、ただエンドレスに話が続いていくのをなんとなく、皆で聞いている……そんなもんだった。

 

 これは、この日に限ったことじゃなく、いつもそんな調子なのだけど……。

 この日は、唐突に仲間達の何人かで、近所の心霊スポットに行った……なんて話になった。

 

「……先週は確か、相模外科に行ったんだよな? 徳重!」


 チャラ男の与志水のそんな発言から、この話は始まった。


「まぁ、暇つぶし程度だけどな。灰峰姉さんや、やまちー連れてったんだわ」


 元ヤンの徳重は、別にオタクでも何でも無かったのだけど、与志水達の元クラスメートだとかで、いつもつるんでる。


 もっとも、順調に影響を受けていて、ジャンプ漫画やらスト2にハマったりと本人は頑として否定してたけど、立派なオタク青年となっていた。

 

 灰峰ねーさん、やまちーと言うのは、それぞれ仲間達のあだ名だ。

 

「へぇ、灰峰ねーさんも一緒だったんだ……つか、ねーさん今日、帰らないの?」


 須磨さんと楽しそうにくっちゃべってたショートカットで、髪の毛で片目を隠した厨ニ全開な感じの灰峰ねーさんに話を振る。

 

 彼女は隣の市から来てるのだけど、時間的にそろそろ終電の時間だった。


 須磨さんは地元町田の人なので、帰りの心配はしてない。

 どっちも、二十歳の浪人生……と言うと怒るので、予備校生と呼ばなければならない。


 予備校生がそんな遊んでていいのかと思うのだけど、そこはそれだ。


「もちろん、帰るよ? 始発で! まぁ、いつものことさ……見延君は聞いたことないのかい? 相模外科って」


 相模外科……これは当時、結構有名だった心霊スポット。

 

 具体的には、国道16号沿いの鵜野森うのもり交差点の近くにあった廃病院だ。

 

 鵜野森交差点……町田、相模原近辺に住んでる人にとっては、16号の渋滞の先頭って事で、交通情報なんかで毎日のように地名が出てくるので、割とお馴染みだったりする。

 

 正確な場所はよく覚えていないけど、とにかく、その相模外科は、鵜野森交差点の一角にあったのだ。

 

「俺、ここらに来て、3年くらいしか経ってないからね。駅周りと家の近く以外はそんなに詳しくないんだわ」


 俺がこの町田市に引っ越してきたのは、1988年……昭和63年のこと。

 

 今は、それから3年ちょっと……1991年、平成一桁……令和の今からすると、もう30年近く前。

 

 中学くらいまでは、地図を見て、自転車で行けるところを行き尽くすとかやってたもんだけど。

 高校卒業して、自転車も壊れて久しくて、近辺の地理を網羅するには、程遠かった。

 

「そっか、そんなもんだっけ。とにかく、相模外科……TVの取材が入る程度には有名心霊スポットな訳なのだよ」


「へぇ、そんなんあるんだ。でも、そんな近いの? 面白そうじゃん」


 俺は、オカルト系には興味津々の年頃だった。

 

 だから、その話を聞いて、むしろ連れて行って欲しいってのが、先に来た。

 まぁ、週末の夜は家業の手伝いがほとんどで、週末フリーってのは久しぶりってのもあったんだがね。


「めっちゃ近い! 16号まで歩いていけばすぐ。16号沿いだから明るいし、土曜の夜なんてひっきりなしに誰かがいて、ワーキャー言ってて、興醒めもいいとこなんだよな」


 徳重が得意そうに話を引き継ぐ。

 別にあんたにゃ聞いてないよ……なんて事を思う。

 

 なんせ見かけは、普通にチンピラ風。

 偏見だけど、こいつとはあんまり関わりたくないと思ってた。


「私、行ってみたいけど……怖いなぁ……」


 須磨さん。

 通称デカねえ。

 

 女性にしては、180cm近い長身で大柄な上に色々デカい。

 当時18だった俺に対して、早生まれで20歳。

 

 見えない人……とっても、怖がり。

 何かと、人を弟分扱いするお方。


「面白そうだな……どうせ、朝までやる事ないんだし、天気もいいから、ちろっと行ってみねぇ?」


 高藤……一言で言うとデカくてマッチョな筋肉。

 160cm前半の小柄な俺と比較すると190cm近くあるロングヘアの巨漢。

 

 前に立つともはや、壁の如し。

 でも、腕っぷしはあんまり強くない……武闘派に見せかけた平和主義者。

 

 マイケルのものまねが上手い。

 灰峰ねーさんと同じ予備校に通ってる……やっぱり、半分遊んでる予備校生。

 

 オカルト好きでムーとか愛読してるんだけど、見えない人。

 

「……またあそこ行くの? 別にいいけどさ……」


 灰峰ネーサンこと、灰峰紅葉嬢。

 

 同じく浪人生。

 いつもデニムを愛用して、男みたいなカッコをしてるけど、女性。

 

 問答無用の姉御って感じの人なんだけど、色気とかとは、程遠い。

 

 こう見えても割と重度のゲーマーであり、絵師でもある。

 すごく俺好みの絵を書くので、ファンと公言してる。

 

 彼女にまつわる話は色々あるのだけど、それは置いとく。

 

 実際は、その夜はもっと居た。

 10人近い人数で行った記憶があるからね。

 

 この話の登場人物は、灰峰ねーさん、高藤、須磨さん、与志水と徳重の5人。


 ちなみに、彼らは全員一個上……実は年少だったのだよね、俺。

 

 でも、学校違うし、先輩後輩って訳でもない。

 仲間には、高校生とかもいるから、年長者も年上風吹かしたりしないってのが、暗黙の了解だった。

 

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