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第三話「赤いコートの女の子」⑤

 先程のガードから少し行ったところ、スバルのディーラー前で須磨さん達とバッタリ出会った。

 さすがに、無視して行くほど、俺らも鬼じゃない。


「やぁ、須磨さん。そっちも買い出しかい?」


 姉さんがにこやかに、須磨さんに話しかける。

 この二人は、基本的にとっても仲良しだった。


「あはは、ちょっと小角ちゃんが急な入り用になりまして……ちょっとお買い物に……。でも、与志水が付いてくるって言って、困ってたみたいだったから、私が同行したのだよ! まぁ、私ってば気遣いの出来るいい女だからね」


「なるほどね……あの男も相変わらず、デリカシーってもんがないねぇ……。コンビニならこの先に道なりに行けばあるよ。公衆電話もあるから、そこが最寄りって事になるかな。でも、24時間営業じゃないから、もうすぐ閉まるってさ。だから、急いだほうがいいね」


 ……二人の会話の意味がいまいち良く解らんけど。

 ここは、黙っておくのが吉だろう。

 

 もともと人付き合いは苦手だったけど、この連中と付き合うようになってから、俺も空気を読むくらいは出来るようになったんだ。

 

 会話の内容的に、これは間違いなく女子の間だけで通じる……そんなたぐいの話。

 今は、空気に徹するべし……それだけは、理解できた。

 

「……いやはや、須磨さんに借りようと思ったんだけどね。今日は、持ってないって言ってたし、灰姉も全然、戻ってこないし……どこまで行ってたの? つか、見延さぁ……あのアパートってなんか、空気おかしくない? アタシ、ちょっと気持ち悪くなって……」


 小角ちゃん……この子も見えるって話を聞いてる。

 ただ、虚言癖があるというのは、それなりに長い付き合いで解ってるから、どこまで本当かはよく解らなかった。


 どこまで話すべきか……迷ってると、灰峰姉さんが任せろとばかりに頷く。


「ああ、小角ちゃんは解るんだっけね。けど、今夜はそう言う夜なんだ……意味は解るね? それにこの辺りはなんと言うか、闇が濃い……独り歩きはオススメできないね」


「ああ、やっぱりそっか。ここに来るまでもガードのとことか、なんだか凄かったよ。今日来たのは、失敗だったかなぁ……スト2もアタシじゃ、皆に全然勝てないし……。お酒も飲ませてくれないし……霞でも連れてくればよかった」


 おぅ、何の予備知識もなしに、あのガード周りがヤバイって悟ったのか。

 ホラ吹きなのは知ってるけど、この件に関してはどうやら彼女は本物らしい。


 ちなみに、霞って子は、霞ちゃんと言う同じく女子高生メンバーの一人で、中学の頃からのこの子の相方的ポジションの子。

 

 メガネっ子で、小角ちゃんに輪をかけて騒々しい……自称見える子のオカルトマニアで、公民館で降霊会とかいう怪しげな儀式に参加させられたりしたこともあった。


「地味に、あいつらレベル高いからねぇ……ハンデ位、付けてあげればいいのに。と言うか、君、高校生なんだし、お酒飲ませないのは当たり前。それにいくら友人だからって、男の部屋に泊まるとかどうかと思うよ? もし帰るなら、見延に車でも出させるよ……それくらい当然だよね?」


 当然と来たか……まぁ、さすがにこれは断れないな。

 なお、須磨さんと灰峰姉さんの二人は泊まる気満々だって知ってるのだけど、どうやら自分達のことは棚に上げるつもりらしい。

 

 どうも、俺はこの二人に異性として見られていないような気がする。

 もっとも、俺もこの二人をなるべく、異性として意識しないようにしてたから、時々気が利かないとか怒られてた。


 ちなみに、与志水あたりは、灰峰姉さんに告って、すげなくフラレたりしてるのだけど……。

 この手の集まりに、恋愛感情を持ち込むと大抵ロクでもない結果になるってのは、相場が決まってる。

 

 むしろ、反面教師にすべきだと常々、自分に言い聞かせている。

 まぁ、たまにあるラッキースケベイベントやらは、役得ってヤツだろーと思ってる。


 それくらいなら、いいよね?

 

「そうかなぁ……? 皆居るから、別に問題ないでしょ。一人だけで行く気なんてサラサラ無いし、見延もそんな度胸あるような奴じゃないしねー」


「俺も、小角ちゃんは別に好みじゃないからなぁ……」


「そう? こないだ……思いっきり、パンツガン見してたでしょ。気づいてないと思った?」


 なんちゅー爆弾投げ込むかな……この娘は!


「……ああ、うん。俺が悪かった……だから、あまり人聞き悪いこと言わないで欲しいなぁ。つか、見えたら、見ちゃう……そんなもんなんだよ。だから、無闇に見せんな!」


「す、好きで見せたりしないよっ! でも、ここで帰るのもなんか寂しいから、今日は見延のとこに泊まっていくよ……そもそも、山久の家に泊まったりとかしてるしねー」


「ははは、見延くんも男の子だからねぇ。でも、いくらお酒入ったからって、あんなミニスカで暴れるほうが悪いと思うけどね。と言うか、泊まりって事なら、早く行かないとコンビニ閉まっちゃうよ? コミュニティーストアがあるんだけど、閉店時間は店主の気まぐれって、割とフリーダムなとこなんだ。あそこ以外だとコンビニって他にある? バス通りにデイリーがあるのは解ったけど……」


「デイリーも24時間はやってないね。町田街道をこのままもっと進めばセブンがある。そっちは24時間営業……ただ、結構歩くよ。むしろ、鎌倉街道の近くだからねぇ……」


 最近は、コンビニの24時間営業するしないなんてのが、社会問題になってたりするのだけど、この時代はむしろ、コンビニ=24時間営業と言う訳ではなかった。

 

 個人営業の店では、早いところだと8時、9時には店じまいなんてところもあったし、日付が変わるまでやってるのは大手のセブンイレブンやローソン、ファミマと言った御三家コンビニくらいで、その他多くのオレンジマートやらは、夜になると閉まるのがむしろ、当たり前だった。

 

 セブンイレブンも文字通り、11時には閉まるとか、そんな営業形態も珍しくなく、ガソリンスタンドも24時間営業してるほうが珍しかった。

 

 むしろ、営業時間や年中無休ぶりに関しては、新聞屋の方が上だろうとか、そんな話をしてたものだ。

 GWやら正月休みとか、なにそれ? ってのが我が家の常識だった。

 

「そこまで歩くのは、しんどいね。んじゃ、急いでいってくるから、先戻ってて。ちゃんとピンポンしたら開けてくれるよね? でも、ピンポン鳴らしたら、夜だしうるさくないかな?」


「あのアパート、むしろ夜のほうが騒々しいから、チャイムとか誰も気にしないよ。まぁ、ごゆっくりどうぞ!」


「ああ、お店の人しか住んでないんだっけ! おまけに防音がしっかりしてるから、多少騒いでも平気。やっぱ、いいとこだなぁ……じゃ、小角ちゃん、急ごうか!」


「はーいっ!」


 二人と別れると、再び灰峰姉さんと二人きりになる。

 

「まったく、小角ちゃんは賑やかな子だねぇ……。と言うか、女性って、野郎にパンツ見られてるとか、解るもんなのかね?」


「まぁ、相手がどこ見てるかってのは、何となく解るもんだよ。もっとも、私の場合はあんまり色気のある格好しないし、ご覧の通り胸も貧しいし、お尻もか細いからねぇ……。須磨さんみたいに何かとスゴイのって、むしろ憧れるよ」


 ちなみに、須磨さんは背も高いし、胸もお尻もデカイ。

 服装も、ゆるふわ風のワンピースやらロングスカートとか、女子力溢れる感じのを好む。

 

 灰峰姉さんは、女子にしては背もある方だけど、割と体育会系女子だったとかで、筋トレやってたりで、腕とかむしろ逞しいし、服装も割と年中黒デニムで、Tシャツやらタンクトップも大抵黒……。

 

 なにかと漢らしい言動で、とにかく女子にはモテる。

 野郎には興味がないと言いつつ、面倒見のいい姉御肌で、男ウケも悪くない。

 

 かく言う俺も舎弟感覚で、ここ数年は割とよく彼女と行動を共にしている。

 免許取って店の車借りて、二人きりで一緒に夜のドライブとかもしたりしてたもんだ。

 

 傍から見ると彼氏彼女みたいに見えるとか言われたりもするけれど、お互い恋愛感情は持ってないし、そのつもりもなかった。

 

「そう卑下しなさんな。けどまぁ、女子なのにエロ漫画とか描いてるとか、コミケでも驚かれてたよね」


「……前にファンレターくれた子が来てくれたんだけどね。なんか実際に会ったら、予想と違ったみたいで、気まずそうな感じで帰って行って、悪い事したかなぁって……」


「ああ、見てたから知ってる。最初、俺と間違えてたみたいで、引くくらいの勢いで、サインとか迫られて参ったよ……灰紫先生は、割と大人気みたいだからね」


「ここでペンネームで呼ぶなよ。ジョニー・バイデン少佐……けど、このパチもん臭いダサさがたまらんね。はっはっは!」


「やめてくれ……そのペンネームはエロ漫画用の一発屋用なんだってば!」


 ……俺の黒歴史的なペンネームで呼ぶ、灰峰姉さん。

 

 当時の俺の絵師としての実力はまさにゴミレベル。

 

 仲間内で出したコピー本に寄稿した事もあったのだけど。

 紆余曲折があって、皆で申し込んだコミケの健全本ブースはまんまと落ちて、灰峰姉さんがこっそり確保してたエロ漫画向けのブースの方が取れちゃって、急遽、有志何人かで、不健全なエロ同人誌を描く羽目になったのだった。

 

 なお、結構売れて、何人かは第二弾を作ろうとか言う話になってる。

 もはや、黒歴史以外何物でもない。


「……ふふっ、図らずも君の性的嗜好ってものも垣間見てしまったよ。くれぐれも犯罪にだけは走らないでくれよ?」


「だぁっ! か、勘弁してください……姉さん!」


 しょうもない雑談を交えつつ、旭興荘に帰り着く。

 今夜は闇が深い……灰峰姉さんもそんな事を言ってたけど、確かに納得が行く。

 

 店の軽ワゴンを置いてる駐車場も真っ暗で、何も見えないし、この旭興荘も部屋の明かりと廊下の明かり、どれも切れてたりする訳でもないのに、妙に薄暗い感じがする。

 

 仕事で車を使うから、前々から毎日のように、真夜中にここに来てたので、夜の旭興荘は見慣れてはいるのだけど……それだけに、いつもと雰囲気が違うような気がしてくる……。

 

「どうしたんだい? 立ち止まって」


「いや、なんでもないよ……さっさと戻ろう」

 

 まぁ、ここは自分の家なのだから、そんなしょうもない事を考えてても仕方がない。

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