後日談 アナライアの話1
【注意!】ネタバレが激しいですので、本編未読の方はお先に本編を是非どうぞ(土下座)
ご要望をいただいて、喜びのあまり書いた後日談になります。
ざまぁ無し、ストレス展開無し。ほのぼのした話。のはず。
全てアナライア視点でのその後のたわいない話です。
くっつけようと思ったのに全然くっつかなかった3話と、
本編主人公の新境地4話の全7話。
雰囲気が変わるかもしれませんが広い心と温かい目でお楽しみいただけると嬉しいです(土下座)
「また覗きですか……バレても知りませんよ?」
この男はいつも何故か目ざとく見つけるのだが、放っておいて欲しい。
「……覗きではありません。聞き耳を立てているのです」
「悪い趣味という意味では変わらないと思うのですが……」
「でも気になるでしょう? 何しろあのアルストラが口説こうとして……無様に失敗しているのよ!? こんな珍しいことがあるなら弱みとして握っておかなければ!」
「ですからそれが悪趣味というのでは……」
「うるさいわね。放っておいて」
「はいはい」
そしてジト目をしながら去っていくリチャード様は、一見イケメンで爽やかなのにやたらと細かいのだ。大体あの態度、王族に対する尊敬の気持ちが全くもってこもっていないと思うのよ?
そして私はまた王太子と狙われた婚約者、アーニャ様の打ち合わせという名のデート現場の会話を聞くべく、ドアに貼り付いたのだった。どうやら明日も反省会になるようだ。やれやれ。
「デートなのよね? なのに甘い会話はどこ!?」
もうこれを言うのは何回目なのか。
「うるさいな……。彼女は真剣に仕事をしようとしてくれているんだ。私は応援する」
「いや、応援している場合じゃないでしょ。世間はどうするのよ。もういつプロポーズするのかとか、もうしたのかとか大騒ぎじゃないのよ。もういっそ押し倒しちゃえば!?」
「そんなこと出来るか! 嫌われたくはないんだよ! 無理矢理結婚して一生嫌われるとか嫌なの! くそっ、イストで別れるときには寂しそうに泣いてくれたから嬉しかったのに……今はもう別れが決まっても泣いてくれない気がする」
そう言って落ち込むアルストラ。
でも、そうかな~。結構いい感じだとは思うんだけどな。
まあ言わないけれど。
もしかして、何かきっかけが必要なのかしらねえ……。
――なーんて思っていたら!
さすがにこんなきっかけなんて、いらないんですけれど!
青い顔をして寝ているアーニャ様の顔を眺めつつ、ため息をつく私。
おかしいな、あの解毒薬、結構万能で自信作だったんだけど。
まさかこんなに影響が出るなんて。
何の毒だ?
一口でこの効き目、私の記憶にはない。
これはアルストラがこの件を解決したら、公爵の薬師を確保して締め上げてもらわなければ。
ついでに研究室か実験室かはわからないが、そこの現場保全もお願いしておかないと。
まあ彼のことだから、きっちり言わなくてもやってくれるとは思うけれど、念押しは必要ね。
そんなことを思いながらアーニャ様の口に水分を含ませた。
まさか目を覚まさないことはないわよね?
熱も下がって体調は安定しているから、大丈夫だと思うんだけど……これ、目が覚めなったら私がアルストラに永遠に眠らされてしまうかな。彼、本気だから……。
王太子という立場と整ったマスク、あと丁寧な態度でモテモテだった過去の彼を思い出す。
モテすぎて若干女嫌いになって逃げていたわよね。
頼まれて私がパートナーを務めたことも何度もあるけれど、そのたびに周りのご令嬢たちから嫉妬の目を向けられたものだ。まあ私の立場に歯向かえる人なんていないから、実害は無かったけれど、あれは確かに面倒だった。
そういう意味では最近はスローデル公爵の根回しなのか何なのか、王太子にまとわりつく令嬢はスローデル公爵令嬢のみとなっていたから静かといえば静かだったわね。
まあ彼女がまとわりついているのはリチャード様だけれど。
彼も最近はたじたじだった。結構スローデル公爵令嬢ってば積極的だから。あれは多分父親から都合の良いことを吹き込まれてすっかりその気になっているというところか。
ちょろいわね。
本当のアルストラの怖さを知ったら、きっとああいう夢見がちなお嬢ちゃんは逃げ出すだろう。
そういう意味ではこのアーニャ様は肝が据わっている。
毒を盛られたと悟っても全く顔に出さないで澄ました顔だった。
まあ、いろいろ顔に出さなさすぎて色々こじれている気はするけれど。
でも将来の王妃がいちいち動揺するような人では困るから、まあ適任なのではないかしらね?
間違っても失うわけにはいかない。アルストラを泣かせたくはないし、私も結構好きなのよこの人。アルストラに翻弄されているところとか、なかなか健気で良い人だ。
まさかの急変に備えてほとんど寝ていないから、そろそろ起きていただけると嬉しいな。
まあ、その願いがかなった時にはうっかりアルストラの事情を洗いざらい白状することになるとは思っていなかったけれど、私も寝不足できっと判断力が鈍っていたのだろう。
後から考えると私も変なテンションだった。
仕方がない。
きっと。ねえ?
「……そのあなたの”うっかり”のお陰でアニーの機嫌が良くなくて、カッコよく彼女を助けて印象を良くしようとしたアルストラ様の思惑が消し飛んだがために、また僕が愚痴を聞くはめになったんですが?」
いや半眼でそんな恨みがましく言われても、もうやっちゃったことだし?
「ああ、はい、ゴメンナサイネ。でも聞かれちゃったら答えるでしょ。状況が状況だったし」
ちょっと視線を逸らしているのは偶然ですよ?
「そこは何とか上手くやってくださいよ。普段は口八丁手八丁なのに、何でそんな時だけ馬鹿正直に言っちゃうんですか」
「いやあ、ちょっと私も焦っていたみたいねえ。下手するとあの公爵に殺されちゃうかもー、なんて?」
まあ助けに来るとは思っていたけどね。けれど、今この目の前で私を睨んでいる男にそれを言ってはいけないだろう。
なんで私お説教されているの?
ねえ、身分身分。私、一応王族よね?
でもこの男、何故か前から私への態度が偉そうじゃないかな?
ああ、あれか、ちょっと最初のダイエットの時に、多めに薬を盛り過ぎて三日ほど寝込んじゃった時くらいから?
いい機会なのでそう聞いてみたら、あっさりと、
「そうですね。僕はあの時学んだんですよ。あなたの言いなりになってはいけないと。言いたいことを言わないで、大人しく従った方が僕の寿命が縮まりそうだと感じたので」
と、ジト目で言われた。
あらあ、失礼な。ちゃんと次からは調整したじゃないのー。
そう思いつつ、でも彼の言うことはいつもいつも決して間違っているわけではないし、まあ、王太子補佐官の皆様とは交流も多くて苦言なんて言ってくれるのは彼らか家族くらいしかいないのも事実で。
それに王太子のお気に入りの人たちを、たとえ王族であろうとも私の好きに出来るわけではない。
仕方がない。言われておこう。
不本意だが!
「心の声が表情に漏れていますよ。しかし無事でよかったです。心配したんですよ一応」
「あら、ありがとう。どうやらアルストラは私の事なんて眼中に無いみたいだから、私を心配してくれた人がいたと知って嬉しいわ」
なにしろあれからアルストラはアーニャ様にべったりだ。
どうやらアーニャ様もアルストラの事が好きだと知って、多分舞い上がっている。アーニャ様もわかりやすく赤面するからアルストラの喜びようったらない。
アルストラがうっとりと「アニー」と呼ぶようになって私は驚愕した。
恋って怖いわね……ここまで人を変えるとは。これなら難なく入れ替われそうね。あのリチャード様の熱愛演技がまさか足りなかったとは。
「目がすわっていますよ。もちろん心配はします。あなたも一応若い華奢な女性なんですから。まあ実際に襲うなんて返り討ちが怖くて僕にはできませんけどね。でも相手は知らないわけですし、万が一ということもあります」
「まあ、ありがとう。確かにあの人数だとちょっと手こずったかもしれないわね。持ち物検査は拒否したから、いろいろ手段はあったけどね! いやあ『龍環』嵌めていてよかったわ。アルストラも、もうちょっと入ってくるのを待ってくれれば気持ちよく暴れられたんだけど!」
あらなんでまた目がジトーっとなっているのかしら?
正当防衛ですもの、仕方がないわよねえ?
ああもう、私の秘蔵の火薬玉や毒煙玉の出番はいつになったら来るのかしら!?




