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捨てられた令嬢は、いつの間にかに拾われる  作者: 吉高 花 (Hana)
第三部

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30/44

30.王太子2

 この指輪、ディックからもらったものだから大切にしていたのに。なんでそんな重大な指輪になっているの?


 きっと私の顔は困惑していたに違いない。するとアナライア姫が顔を近づけて、声を潜めて言った。


「……王太子が三年前に毒で倒れたのはご存知ですね?」

 そうね、今の私みたいな状態ね? 素直に頷く。


「実はあの暗殺未遂は、アルストラが毒に慣れていたのと、すぐに気が付いて少量しか含まなかったことで軽症で済みました。でもその時には生き残ってもまたすぐ次の暗殺が行われるだろう、そう危惧した王陛下が、当面の危機が去るまで王太子を隠すことにしたのです。表向きは病気で寝込んでいることにして。そうすれば、スローデル公爵には毒で倒れて回復が遅れていると思わせられます。そしてその間に王家がしたのは」


 アナライア姫がちょっと逡巡してから、意を決したように言った。


「王太子の影武者探しです。王太子に似ている若者を極秘に教育して、暗殺未遂から約二年後、病気から回復した王太子として表に出しました。そして警護を何倍にもしてあまり人を寄せ付けないようにする。そうすれば多少前と容姿が変わったように見えても二年の歳月と病気のせいで変わったのだろうと周りが納得します。そして影武者になった若者の本来の身分を王太子補佐官としてとりたてて、三年前から二人は入れ替わっています。動きやすくなった本物の王太子は、公爵を失脚させるべく裏でずっと動いていました」


 は………………?


 なにそれ…………。

 入れ替わっている? え? 最初から? え? つまり、あの幼馴染のディックが? は? ……え、あっちがディック? たしかにちょっと誰かに似ているなーとは思って……は?


「実はアーニャ様の心が決まるまではとアルストラに口止めされていたのですが、さすがにこの状況ですので、知らないままでは今後何か問題が起きると思い独断でお話ししました。混乱させてしまい申し訳ありません」


 いや、それが本当なら、知らされない方が困るでしょ。なに踊らされているの私。

 一体いつからあの偽ディックの手のひらの上で転がされていたの……?

 いやそれより。


「ねえ……私が結婚する予定なのは、どっち?」

 思わず聞いてしまう。そう、一体どっち?


「それはもちろん、アルストラ・ディグルス・エル・セルトリア殿下です」


 だからそれはどっち……って、愚問か……。ということは、あっちじゃなくてこっち?

 なんかもう、結婚詐欺じゃないのそれ?


「でもDよりって……」

 思わず現実を直視することから逃げてみた。


「ミドルネームのディグルスのDですね。王のご家族はアルストラ殿下のことをディグと呼んでいますし」

 でも現実は容赦なかった。


 はい、そうですか。たしかにディックが贈るなら本名のリチャードのRかグレンのGだろうとは思ったこともありました。でも私がディックって呼んでいるからDなのかと……。なるほど人は都合の良いことしか見ないというのは、こういうことなのですね。


 は……はは……。

 もはや驚くべきなのか喜ぶべきなのか、はたまた騙されていたことに怒るべきなのか、よくわからなくなった。


 そうですか。ああそうですか。

 なんですか、じゃああれ、実質プロポーズですか。


 ──ところでアーニャ、君は王太子妃になることはどう思う?

 あれが。


 ──君なら出来る。そう思っている。

 あれが?


「いやあ、なにやら真剣に相談があると言うから何事かと聞いてみれば、とある令嬢を連れ出してデートしたいとか言い出してびっくり仰天したんですよ。あのどんなに綺麗な女性に言い寄られても逃げ回っていた堅物アルストラが、自分から近づいて仲良くなりたいとか、それはもう驚いて私、絶対にその令嬢を見なければ! そして見物、いや手助けをしなければ! って、つい協力を申し出てしまいました!」


 思い出してはやたらと嬉しそうなんですが、ちょっと、それは一体いつの話?


「帰国が決まった時の落ち込み具合とか、それはもう見もので! しかもそのご令嬢がいつ他の人と結婚してしまうかとそれはそれは本気で心配していて!」


 妙にボルテージが上がっていますが、本当にそれいつの話……。


「帰国前は仕事をほっぽり出して無理やり時間を作ってはいそいそと会いに行っているし、帰国したらしたでその足で王陛下に結婚の直談判をしに行って」


 その足? 直後ってこと!?


「王陛下も王陛下で彼がその気になったのをとても喜ばれて、すぐにアーニャ様の調査をお命じになられたようですね。でもさすがアーニャ様、調査はすごく早く終わったようですよ。でもアルストラが相手の了承も得ないで即刻『龍環』を作った時は、さすがに私もどうかと思ったんですよね」


 え……つまり……私がもらった本を読み漁っていた、あの時期よね? は?


「アーニャ様がまたあちらの王宮に行くと知った時の彼の反応は見せて差し上げたかったです。本当は『龍環』を持って会いに行くつもりだったのかもしれないけれど、大慌てで送りましたからね。『すぐ着けさせなければ』って。ちなみに王族が贈る宝石入りの『龍環』は婚約指輪の意味ですから、それを身に着けるということは、婚約を承諾したことになるのはご存知……ではないですよね。もちろん知らせてなんていないですよねえ? もう最初っから逃がす気なんて全然無かったってことですねえ……アルストラらしいというかなんというか」


 そしてやんごとなき姫は、たっぷり同情の視線を私に送ったまままたニヤニヤと笑ったのでした。

 いやもうそれ、ほんと何の話……? 妙に覚えがあるのが怖いデスネ。

 だって、着けろって、書いてあったから……。


「……ちなみにそれを身に着けている女性は正当なセルトリア王家の婚約者としてセルトリア王家の庇護を受けます。この状態でアーニャ様に何か一大事があったら、アルストラが正面から潰しに来ます。つまり今、その一大事なのできっと今頃彼は全力で動いているでしょう」


 もう何も言えないで、ただ聞いています私。あらまあ……。


「まあ、必死な彼の気持ちも少しは考えてあげてくださると、従姉妹として私は嬉しいです。今まで女の子を口説いたことなんてなかったから、きっとどうしていいかわからないんですね。影武者のリチャード様のことを本当に好きになってしまったらどうしようと心配する割には、身分を明かしたら王太子妃なんてそんな重責は嫌だと逃げられそうだとか言って正体も言い出せず、結局先に外堀埋めちゃうとか。私はやめろって言ったんですが」


「ええ……? でも、それならいつもあなたがお茶を淹れにくると彼が真っ赤になっていたのは? 私はてっきり彼はあなたのことが好きなのかと」


「はあ? いや私にそんな感情は無いですよ。あれは私が裏で散々口説きの成果が出ていないのをからかっていたので、恥ずかしかったんですね。今まさに頑張って口説こうとしているところに毎回私が乱入するものだから、すごい嫌がられていました! ふふっ、楽しかったわ~彼の目が『来るな! 邪魔するな! 笑うんじゃない』って必死に言っていて!」


 ええ、本当に?


 いやでも私には普通に和やかに、事務的に話をしているようにしか見えなかったわよ。口説きとか、何ですかそれ。まあ私も経験はないのでよく知っているわけではありませんが。



「いやあ今回、彼は相当怒っているでしょうね。なにしろアーニャ様に害が及んだ上に結果的に奪われてしまいましたから、もうカンカンでしょう。それに名実ともに復帰するには障害を排除しないといけません。そうでないと結婚式であなたの隣に立つのが影武者のリチャード様のままです。まあ許せないでしょうね。あなたをうっかり愛称で呼んでしまっただけで、あのリチャードさまがあとからこってり怒られていましたからね。ほんと男の嫉妬って嫌ですね」


 ん? ああ……アニーって呼んだやつ? たしかにアニーって、昔のディックが私につけた愛称だから、本物のディックしか知らない呼び名ではあった。ではあれはうっかり出てしまった感じなのかな。彼が私を覚えていてくれてちょっと嬉しい。しかし私に幼馴染と言えなかった彼もかわいそうに。髪の色が違うだけで、随分印象が変わるものなのね。そして彼も随分美形に育ってしまって。え? 思い込みが激しい? あらなんのことかしら?


 まあ大国の王太子サマに私たち小国の一貴族の子弟なんて逆らえるわけがない。しかも王族の影武者をしているならちょっとの油断や隙も命にかかわるだろう。うっかり容姿が似ていただけで、彼も異国で苦労しているのね……かわいそうに……。


「まあーしかしアーニャ様も普段は一見クールですからねえ、アルストラが自信を無くすのもお芝居に動揺するのもまあわからなくはないですが、実はよく見ていると結構バレバレなんですよねえ。なんで彼にはわからないんでしょうねえ? これだから初恋同士の観察は楽し……おっと微笑ましいですねえ。ふふふっ」


 と、私を見ながら凄く良い笑顔なのですが。

 アナライア姫、結構自由な人だったのですね……知らなかったです……。


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このお話がフレックスコミックスさんから

コミカライズされました!

捨てられた令嬢は、いつの間にかに拾われる 表紙
構成は 兎原シイタ先生、作画は 采池たく也先生です!
とっても素敵に描いてくださっているので、ぜひこちらも見てみてくださいね!
どうぞよろしくお願いします!
― 新着の感想 ―
それあだ名なんだ…Dより、に、笑ってしまいました。それすら下ネタかと… なんてひどいあだ名をつけたんだよ…おち…ち…やめてやれよ…
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