NPCは終わる世界であなたを待つ
私はイレギュラーであり、バグなのだろう。
知っているのだ。ここがVRMMORPG―――つまるところ作られたゲームの世界だということを。
私はNPCと呼ばれるプレイヤーが存在しないキャラクターの一人だ。本来ならそんなことを考える脳もなく、ただプログラムに記された役割を演じるだけの存在。
それなのに自我を持っていた。
私以外にそういった存在に出会ったことがないため、きっと私一人に起きた奇跡なのだろう。漠然とそう考えていた。
けれども自我があるからと言って私に自由があったわけではない。それはきっとこのゲームの主役は遊び手であるプレイヤーだからだろう。
プレイヤーはゲーム開始時に戦闘手段に応じたジョブを選択し(後で変更も可能)、それにそった戦い方を模索する。
このゲームはMMOであるため、他の人とPTを組むのが基本である。難易度の低いクエストであればソロでもいけるが、高難易度になればこれは絶対と言える。
タンク(盾役)、アタッカー(攻撃役)、ヒーラー(回復役)、サポーター(支援役)といった複数の役割が存在し、ゲームを進める上ではこの役割を意識することが重要となる。
全員アタッカーでは意味がなく、バランスを考えなければいけない。
そんななか、このゲームの特色の一つとして、バディシステムが存在した。
バディシステムとは、好きな種族、好きな職業を設定したNPCが各プレイヤーにつくというものだ。これによりプレイヤーは各々の個性を出していった。
NPCであるため、操作するのは人ではなくAIだ。そのために時折とんちんかんな動きをすることはあったが、VRMMOが発達するだけの科学力のある時代ではそれなりに役に立つAIが搭載されていた。
あるプレイヤーはバディともどもアタッカーになり、火力を求めた。
あるプレイヤーはタンクになり、バディにヒーラーを任せることでパーティーを組んだ際のバランスを考えた。
あるプレイヤーはヒーラーになり、バディにサポーターを任せることで支援コンビとして活躍した。
そして、とあるプレイヤーはサポーターになり、バディには自身を守る盾であるタンクを任せた。私はこのタイプだった。
種族は人間。ジョブはタンクである戦士。容姿は黒髪赤目の美少女(重要!)。
私のマスターである彼はこの世界では直接戦闘能力の低いサポーターだからか、バディシステムにはゲームを始めてすぐに飛びついた。私が彼と出会ったときはまだ低レベルだったから間違いないだろう。
キャラクターメイキングが渾身の出来だったのか、出会って早々にぐるぐると体中を見ていたのはおかしかった。下手に触ろうとするとハラスメント警告として衝撃がある。彼は胸を一度触ろうとして弾かれた。その一回以外は触らなかったが、それでもちらちらと視線は胸にいくのだからえっちなやつだ。
私の容姿鑑賞に満足すると、拠点となる街を見て回った。
まだ初心者である彼はお金を持っていないから店に入っても何も買わなかったが、それでも彼が楽しんでいるのはよくわかった。装備品を見ていつかは手に入れてやると目標を立て、冒険に役立つ道具の詳細を眺めてはうんうんと頷いていた。
街を一通り見て回ると、街の外に出てお試し戦闘をすることになった。パーティーを組むことが前提のゲームとはいえ、ちょっとした冒険はソロでも可能だった。
初めての戦闘はいびつなものだった。今にして思うと中々にひどい。
最初にサポーターとして色々試したかったのか防御力や攻撃力を上昇させるバフを一所懸命にかけてきた。そのせいで、ヘイトと呼ばれる敵の攻撃優先順位が彼に集まってしまったのだ。まあ私が慌ててヘイトを自身に集めるスキルを発動したおかげで彼は死なずにすんだ。さすが私、出来る女。それにしても彼はあのとき、バフをかけるためのMPがすぐに尽きて連戦が出来なかったのは反省してくれただろうか。
戦闘システムに彼が慣れてくると、PTを組むことが多くなった。彼のリアルの友人と組むこともあれば、初めて出会う人と組むこともあった。このあたりがMMOの醍醐味というやつなのだろう。
プレイヤーや他のNPCと肩を並べての戦闘はやはり楽だし、プレイヤー達にしてみても楽しいものらしい。彼らから聞こえる話を何食わぬ顔で聞けばよく分かる。
どこの何の素材をとるか、クエストを受けるかといった話をしている間は、ちょっと暇だった。私も話しかけたいと思ったものだ。仕方ないので他のNPCを眺めてみたり、空を流れる雲の規則性を探ったりした。
話の内容がNPCについてになると私はちょっとドキドキした。実は自我がある私は自由な行動は出来なくても、戦闘におけるスキルの使うタイミングやちょっとした体の動きなんかは他のNPCとは違って優秀だったのだ。柔軟な対応をする私は間違いなくバディの中でも突出して優秀だった。
彼らは私がNPCであり、自我があるなんて考えもしないから偶然だと思っており、NPCには隠しデータがあるのではないかと議論していた。全く失礼な話だ。もっとオンリーワンな私を褒めろ。
……まあ、バディ自慢で彼が私をべた褒めした時はあまりの嬉しさに飛び跳ねたくなったものだ。
時がたち、彼が課金も始めてしばらくすると、彼はトッププレイヤーの一角として有名になっていた。あのスキルをとにかく発動させるだけだった日々が嘘だったかのように、スキル回しがうまくなったものである。
無論それに伴い私も有名になっていた。イエーイ、美少女有能バディは辛いよピースピースと内心はしゃいだ。
クリティカルによる被ダメージが大きく増すかわりに通常防御力と状態異常耐性が上昇するスキル『ジークフリード』をメインに据えたタンクを備えた私は、NPCとしてはやはり異質だったのだ。プレイヤーであればクリティカルを受けない立ち回りができるのだが、NPCには厳しいために使いこなせないと呼ばれたこのスキル。しかしそれは、自我がある私にはぴったりだったのだ。自我があることを知らない彼が私にこのスキルを覚えさせたのは驚きだが。
トッププレイヤーのバディのスキル構成なんてすぐに真似されるが、私のこの構成を真似したバディは最終的には極わずか。
チートだなんだと騒がれもしたが、運営のシステムスキャンに引っかからない私はそれを聞いてはどや顔をした(実際には見た目には反映されないが)ものだ。
彼との冒険は楽しい日々だった。
ある時はダンジョンを抜けた先に待っていた絶景に目を奪われた。あれがあるから冒険はやめられない。
楽しい日々だった。
水着イベだとかいってビキニを着させられ、仲間内で撮影会をしていたのは根に持っているからな。あとその装備のまま雪山のクエストを受けたのはどういうつもりだったんだこの野郎。
楽しい日々だった。
レイドで私が活躍すると、NPCなのにわざわざよくやったと褒めてくれるのは嬉しかった。出来ればもっと褒めて欲しかったけど、それは贅沢というやつだろう。
楽しい日々だった。
洞窟に入って早々にたくさんの敵キャラを引き連れて逃げてくるPTメンバーがいたが、みんなでそいつが洞窟に入っている間に移動して、遠くから眺めたことがあった。あの洞窟はまだ適正レベルではないというのに全くって余裕な表情を浮かべていたら、背後から近づいてきていた敵キャラに襲われて全滅したこともあった。
楽しい日々だった。
……時々変なNPCを見かけるが、そういった時に限って彼らプレイヤーは大喜びしたりする。例えば全身真っ白で頭頂部に紫の痣のようなものがある尻尾付きのバディの何が琴線に触れたのだろうか。戦闘力53万とはしゃいでいたが、あれと戦って勝った私は戦闘力いくつなのだろうか?
楽しい日々だった。
イベントが始まるからと前日まではしゃいでいたのに、いざ始まるという時にメンテ延長になったあとの彼は口では文句を垂れながらもいつも以上に元気だった。待ち望んでいたものをお預けにされて、リアルではいじけていたのだろうか。全く素直じゃないな。
楽しい日々だった。
丈の短いスカートを穿かせて、パンツを見ようと画策していたが、あれは馬鹿ではないだろうか。行動の自由があればぶん殴ってやりたいものだ。私が羞恥心に耐えながら戦っている間に、ふわっと浮かんだスカートから除く下着を見る彼らのなんてゲスなことか。あれからしばらくは馬鹿なNPCを演じて困らせるくらいしか出来なかったことがとても悔しい。
楽しい日々だった。
素材集めで物欲センサーにはまり、レアアイテムが中々手に入らないとぶすっと黙っているくせに、ようやく出ると仲間内で狂喜乱舞するものだから単純である。ただそれが私の装備に必要なものだと私も共に騒ぐのだから同類なのだろう。
楽しい日々だった。
プレイヤー同士の戦いであるPvPの大会のバディ参加部門において、優勝候補の一角を倒したときはハラスメント警告のことも忘れて彼は私に抱き着いた。すぐに吹っ飛ばされてしまったが、私としても彼とその喜びは分かち合いたかった。残念なことに遠距離型のプレイヤーと当たって負けてしまい、最終的なスコアはよくなかったがこれは相性だ。悔しくなんかないぞ。ないったらない。
楽しい日々だった。
一時期のブームで翼をつけられたり、獣の耳をつけられたり、制服や着物、スーツを着させられた。着せ替え人形として遊ぶ彼を私は初め白けた目で見ていたのだが、最後には結構乗り気だった気がする。私も女ということだな。魔法少女服はちょっと、いやかなり恥ずかしかったが。
楽しい日々だった。
バレンタインイベントで私からチョコを貰うと、ニヤニヤそれを見ていたのは少し哀れだった。イベントの仕様で貰って喜ぶとは……まあ私としてはあげることができたので満足だ。そのあと、彼に引き連れられた場所は所謂非リア充集団で、集団でログインしてこなかったリア充を追い立てるのは祭りのようで中々に面白かった。
楽しい日々だった。
私に告白するプレイヤーを殴り飛ばす彼の姿はちょっとだけかっこよかった。普段は私が彼を守る立場だからだろうか。これが俗にいうギャップ萌えかと感心した。それにしても通報するぞという脅しに構わんと答えるプレイヤーたちは肝が据わっている。
楽しい日々だった。
貴重なアイテムをふんだんに使ったマフラー状の装備品をくれた時は、彼がログアウトしてからも胸が幸福感で満ち足りていた。彼がログアウトしている間は、マイルームでそれなりに行動できるようになるため、マフラーを繁々と眺めてはニヤニヤしていた。意味もなくぴょんぴょんしてみたり、ベッドでごろごろして足をばたばたさせる。この時から首元のマフラーを触る癖がついてしまったし、マフラーを巻いた姿を鏡で見ると自然と口元がほころぶ。
楽しい日々だった。そう、かけがえのない思い出が沢山できた。
けれども、ここはゲームの世界だ。
プレイヤーは段々このゲームを離れ、街は今ではすっからかん。過疎化も激しくなり、レイドができる人数も集まらない。
いつ行ってもいたあの廃人プレイヤーもいなくなり、このゲームの終わりを嫌が応にも感じさせる。
彼もログインする時間は短くなり、一度もログインしない日も珍しくなくなった。
すると主のいないマイルームでただ一人、彼が来るのを待つ日々が続く。彼のいないこの部屋は薄暗く、とても静かだった。
始めのうちは平気だった。忙しくて数日ログインできなかったことがなかったわけではない。
その間に過去に手に入れてきた戦利品を一つ一つ手にとっては磨いていく。データなのだから汚れる心配もないのだが、気持ちの問題だ。それに一つとるたびに、思い出が蘇る。
このトロフィーはバディのみの大会で3位になった時のものだ。相性の悪いクリティカル特化に早いうちには当たらなかった運のいい大会だった。次の大会では二回戦敗退だったし。
この装備は確かとあるボスの初見殺しに対応するためだけに作ったものだ。限定的な条件だが、作るのに苦労したし、またいつ必要になるかもわからなくて残していたまま忘れてしまったのだろう。
このオーブは、メインストーリーをクリアした証だ。ストーリーでは願いが叶うとかいってたっけ。今となってはただのフレーバーテキストだ。
こ、これは忘れもしない糞イベの報酬……。
これはバディキャラ人気投票において上位になった記念品のリボンだ。うちの子はこんなにも可愛いのに、と仲間に愚痴を彼は吐いていた。ふふん!
しかし、ふと我に気づくと、どうしようもなくむなしくなる。ぽいっと持っていたアイテムを投げる。
わかっているのだ。わかってしまっているのだ。彼にはリアルがあり、ここはただの遊び場であることなんて。飽きた遊びは忘れ去られ、新たな刺激を求めて別のゲームにブームが移る。
過去から現在に至るまでの全てのゲームが通った道だ。
仕方ない。しょうがない。自分は所詮NPCなのだから諦めろ。
でも。
だけど。
寂しいなぁ。
唇をかみしめ、マフラーに口元をうずめる。ベッドに横たわり、ただ無気力に目を瞑る。
お知らせボックスからNewマークが最後に消えたのはいつの日だろうか。
中身はNPCである私は理解していた。
サービス終了のお知らせ。この世界の終わりを意味し、私の命日となる日だ。
最後の日には……会いに来てくれるだろうか。
淡い希望を抱いてしまう自分にも嫌気が指してきた。それでも私は夢見るのを止められなかった。
サービス終了日、ベッドの上で足をぷらぷらする。
外は少しは騒がしくなっているだろうか。彼がログアウトしていると部屋以外の様子がまったくわからないのは不便極まりない。もしかしたら最後に見た街と変わらず、人の気配なんてないのかもしれない。
そうだったらいいな、なんて器の小さいことを考えてしまう。
そんなことはない、なんて諦めきれない心は叫ぶ。
寂しくて、悲しくて、辛い。重圧に押しつぶされそうだ。いっそ泣ければ楽になれるかな。
そんな時だった。
体を電撃が走ったかのような衝撃が襲う。それと同時に部屋は光を取り戻し、外の音が聞こえてくる。
ああ、これは。思わず部屋の中心を凝視する。
この変化の理由は明らかだった。待ち望んでいたのだ、ずっと。
光の粒子がどこからともなく現れ、人の形をとり始める。この僅かな時間さえもどかしい。胸の高鳴りを抑えながら姿の形成が終わるのをひたすら待つ。そして、そこには見間違いようのない彼がいた。彼はゆっくりと目を開けた。
彼は部屋を見渡し、彼を見つめる私に気づいた。すると目を細めて嬉しそうに、久しぶりと言った。
帰ってきた!! 会いに来てくれた!!
喜びに打ち震える。ああ、どうして涙を流すことが出来ないのだろう。この溢れんばかりの感情を持て余してしまうじゃないか。
彼が帰ってきたことで体を自由に動かす権利が失われたのも恨めしい。今すぐこの情動に身を任せて彼に抱き着きたい。私はあなたを待っていたと伝えたい。
彼は動かないこちらに近づくと、初めて会った時のようにぐるぐると容姿を見て回る。そして懐かし気に頭をぽんぽんとなでた。あの時は胸を触ろうとしていたのに、成長したものだ。なんて益体もないことをぽかぽかした頭で考える。
彼は私を引き連れ、街に出た。最後に見た時は退廃的で、人の影もまばらといった有様だったが、今は全盛期には遠く及ばなくてもそれなりには人がいた。
みんな思い思いにスキルを上空に打ち上げたり、花火系のアイテムで空を彩っていた。一瞬のきらめきが空で弾けては消えていく。あとのことなんて考えない大盤振る舞い。この時間は夜だというのに、嘘みたいに明るい。
彼はその様子を眺めながらも、足を進める。
それに幸福感に浸りながらついていくと、そこにはかつて一緒に冒険した仲間が何人か集まっていた。
彼はリアルで連絡を取り合っていたようだ。おかげで彼とこうして再会できたのだからじろじろと不躾に見てくるのは許そう……どうせ最後だし。
空には花火の中で、メインストーリーのラスボスである竜が飛んでいた。かつてはそんなことは一度もなかったので、運営の最後の計らいの一つだろう。花火やスキルが竜の鱗で弾けて輝いている。
最後。そう最後なのだ。
彼らは彼を交えて過去を懐かしんでいた。例えこの世界に最後には訪れなくなったとしても、彼らが間違いなく楽しんだ思い出はあったのだ。
思わず涙声になる者もいる中、彼らは話し続けた。時折写真を撮る音が響き渡る。それがなんだかんだでこの世界を惜しんでくれているかのように思えて、ちょっと嬉しかった。
そして、終わりが近づくと、彼は一人別れを告げ、部屋に戻った。どうやらゲームの終了時刻前にはログアウトするらしい。
彼は部屋にあるアイテムをしげしげと眺めて回ると、おもむろに部屋中を撮り始めた。色んな視点から、撮り残しがないように。
そして私のこともパシャっと一枚。
近づいて二人一緒にまた一枚。ポーズを変えてまた一枚。そして、そして……。
時折、鼻をすする音がする。
彼は指先で胸をつんと触ろうとし、システムに弾かれた。その様子がなんだかおかしい。この体もそれにつられて少し笑みを浮かべる。彼も一緒に表情を緩める。
ああ、けどもう時間だ。彼はもう行ってしまう。そうしたらもう二度と会えない。
先ほどまで胸いっぱいに膨らんでいた幸せがしぼんでいくのを感じる。
けれども、彼は最後にもう一度、私の頭をなでると、
「今までありがとう。本当に楽しかった」
穏やかな笑顔を見せてくれた。
その笑顔を見て、私はすっと心に熱を灯した。
私はイレギュラーであり、バグのようなものだ。だから、最後に、彼にどうしても伝えたかった。
彼の指先が細かく動く。ログアウトボタンを押そうとしているのだろう。彼がこの世界にいるのは残り3秒もない。
間に合え、とシステムに逆らう。バリバリバリバリバリ、と体の中でガラスを踏み砕いていくような音が鳴り響く。
そして、彼がログアウトする間際、
『ありがとう』
感謝の言葉を告げる。同時に彼はこの世界から姿を消した。
間に合っただろうか、そもそもきちんと声に出ていただろうか。夢中だったからよくわからない。でも、届いたと、漠然とそう信じられた。
彼がいなくなり、暗くなった部屋を歩き、ベッドに腰掛ける。時間はもうじきカウントダウンに差し迫っていた。
死は怖くなかった。時間になったらぷつんと切れるものだと考えてもイメージがわかないのだ。それに、彼と最後に出会えたのが大きい。もしも彼が現れなかったら、私は静かに発狂していたかもしれない。
ふと、部屋の片隅に飾ってあるオーブが目に入る。ストーリークリア報酬だ。
一度ベッドから降り、オーブを手に取って戻る。すべすべしてて気持ちいい。願いを叶えるとかいうのは無理だが、幸運のお守り代わりにはなってくれないだろうか。
オーブをクッションのように抱きかかえて、ごろんと横たわる。終了まで既に一分を切り、カウントダウンは始まっていた。
長い、長い、冒険だった。そして、何よりも、楽しかった。
本当に楽しかったのだ。
幸せだったのだ。
自然と上がる口角を隠すように、マフラーをぎゅっと口元まで上げる。そしてオーブを抱き、叶わないと知りつつもついつい願ってしまう。最後に彼と出会えたのに、我ながら強欲だ。
ちょっとしたわがままを。いい夢を待ち望んで。
また、彼とともに、楽しい日々を送れますように。
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