少女と少年は
あれから、何年が過ぎたことだろう。
僕は、ユナと共にこの嵐の森で月日を過ごした。
「ユナ、朝ごはんだよ」
レイは屋根裏の窓際で寝ているユナを起こした。
いつしか、レイが早起きして家事をするようになったのでユナはいつもレイの分まで寝ていた。
ユナはウーンと伸びをすると、レイの頬にキスをした。いつからか習慣となっていた。
「おはよう、レイ。今日は洗濯日和だね」
レイは微笑みながらため息をついた。
「ユナが洗濯やってくれれば、楽なのにねえ」
「う・・・!ひどいわレイ!なんて親不孝者なの。親のためにもちょっとは家事をやりなさい」
「君親じゃないでしょ。それに家事はみーんな僕がやってるんだよ、そっちこそだね」
「なんだとー。レイこそ朝起こしてくれないじゃないか!私は毎日起こして、って頼んでるのに」
「僕は起してるよ、ユナが起きないだけだよ」
「・・・朝ごはん」
今日の口喧嘩もレイの圧勝である。ユナは終わりという意味でお腹すいたと下に降りて行った。
レイは朝日で明るく照らされた窓を見つめた。
レイはいつも過ぎてゆくごく普通の毎日が、偶に嬉しく思えた。
そして、ユナと出会わせてくれた森に毎日答えるように仕事をした。
だから、森の事も、ユナの事も、レイにとっては一番大切なものになった。
孤児院に居たときには、そんなの一つだってなかったのに。
レイは決めたのだ、何年も前に。
ユナに、森のことを約束された時からずっと。
レイはこの手で、大切なものを守り抜くと。
「おーいレイ、今日は買出し行くんでしょ。早く準備準備ー!」
ユナが一階から声を張り上げた。
レイはふと声に気づくと慌てて籠に財布を放り投げた。
「今日だっけ?」
レイは上着を羽織りながら言った。
あれ?確か、明日だったような・・・今日だったような。
しかしユナは頑として決めつける。
「今日だよ!私ちゃんと暦に書いたもの」
「そっか、じゃあ行く?」
レイは素直に納得。そしてまだ準備が出来ていないユナを待った。
ユナは珍しく手提げを持ち、村に住んでいそうな格好をしていた。
「あれーそんな服あったんだ」
レイが物珍しそうに見ながら感心していると、ユナは得意げに胸を張った。
こういう仕草だけは変わってない。
「ふふふふふー!私この服つくったの、村のやつ真似て!」
「え!?あのめんどくさがり屋のユナが!?」
でも守護神の仕事だけは忘れたことないユナが!!とレイは心の中で付け加えた。
「ふっ・・・私の手に掛かればコンナモンちょろいものさっ!」
ユナは笑って答えた。
レイは空を見上げながら聞いていたので、その時ユナの顔に赤みがさしたことに気付かなかった。
「久しぶりだね、村に来るのも。でさ、今日は何を買うの?」
特に買うものがなかったレイはユナのほうを振り向いた。
「え!?えっと私は雑貨屋に行ってくる!」
「そっか。じゃあ僕は・・・牧場のほうにいるから、買い物終わったら来て」
「うん」
ユナは足早にその場を去った。
レイははて?と首を傾げると、馬や牛がいる牧場のほうに足を向けた。
「はあ、はあ、はあ・・・」
ユナはやけに走って雑貨屋まで来た。
―――レイに、買うものを見られたくない!!
なぜかそう思うと走り出していた。
「いらっしゃいー」
朗らかなおばさんが編み物をしながらカウンターに座っていた。
前にも来たことのあるここは、いつもと同じだった。
花の種、野菜の種、ブラシ、石鹸、パンに、石炭まで何でもそろっている。
ユナは手芸の展示のところまで行き、悩んだ末に茶色の艶がある革紐と美しい金色の刺繍糸を手に取った。
前話から何年か経ちました。
ユナもレイもなんだかんだで成長しまして・・・
なんだかお互い新たな気持ちが生まれているようです。嬉しいような、切ないような。
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