誓い
僕、これでも大分森の事を受け入れ始めたんだ。
この時くらいから、ね。
ユナ、僕、あの時の言葉がようやく・・・今分かったかもしれない。
今になって気づくだなんて、遅すぎるって君は言うかもしれない。
でも―――
僕は、今気づいてよかったと、心から思う。
「今日は獣道の草取りをするぞ。あそこはよく茂るからな」
ユナは朝食の後の洗い終わった皿を布巾で拭きながらレイに宣言した。
レイはもう守護神の仕事というものに慣れ始めていた。
いや、本人はまだ守護神を認めてないが。
「ふうん。獣道なんてあるんだ」
「当たり前だ!この森には熊や狼がちょろちょろうろついてるからな」
「・・・・・・・・・・・。へっ!?」
「ん?なんだ。熊食べたいのか?生憎だがそれは出来ん・・・確かに熊はうまいが」
「いやいやいやー。そういう事でわなく!!断じて!」
「ふっ、そうか。まあ熊はいろいろと面倒だしな。」
レイはただ現実を受け止めるのに必死だった。
いやー・・・ココ考えてみたらすっごいトコじゃないか。
っていうか、僕の命いつまでもつか心配だ。
「じゃあこれが終わったら行くぞ。―――よし、終わったな。ツベコベ言ってないでほら、行くぞ」
レイは覚悟した。
この後絶対ユナはスイッチが入る―――レイはそんなことまで分かるようになってしまった。なんだか、なんというか。恐ろしいというべきだろうか。
ユナはレイの酷く青ざめた様子に首を傾げたが、なんか変なもんでも食ったんだろうと思い直した。
「行くぞ、レイ」
レイはこれから乗り越えなければならないであろう地獄予想図を思い浮かべながら、ユナに引っ張られて歩き始めた。
「うー・・・@:「¥、¥「−:*・>」
「・・・?変なヤツだな」
「うー・・・」
レイは恐怖の余り、ろれつを忘れた。
あー・・・入ったなスイッチ・・・。
レイはもう諦めた。
ユナの場合守護神の仕事はとんでもなく大袈裟というか、熱いというか。まあレイとは比較にならないくらいの仕事をしているということだ。
守護神の主な仕事は、草むしりや湖の魚の世話など、限りなく要らない仕事といえた。
しかし、年に一度森の社を清掃するときは無茶苦茶大変だとユナが苦い顔をしていった。
「レイ・・・!そこをもっと力入れるんだ」
「はーいはい。草抜きも大変だねーえ」
「早くしろレイ!もうすぐそこまで社清掃が近づいているんだぞ!!」
「うんうん、そうだねえ。わかった、やればいいんだよね」
「おー!?分かってるじゃないかレイ」
「まかしといて。ユナの心が読めるようになったし」
「!!」
レイはユナの驚いた顔を見つめてクスッと笑った。
レイは確かにユナの心――ユナの言いたいことが何となく分かるような気がした。
施設にいたときにはそんなコト露ほども思わなかったのに。
これも守護神のチカラ?
・・・数日後・・・
「ねえ」
レイは喘ぎながら辛うじて声をだした。
ユナは相変わらず涼しい顔であるが。
只今、森の社へと赴き、ばかっぴろいタテモノを拭いている最中。
なんだよ〜!ユナ無茶苦茶大変だとか言ってたくせに自分は普通にやってるじゃねえか!!
ああ・・・。レイは今こそあの鍾乳洞に行きたいと心から願った。
ユナはレイの声を聞き取ると、ニヤッと笑った。
「何だ?もうリタイアか?ふっ・・・レイはナメクジみたいだな」
かっちーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん!!!
パララッパッパッパーン!!
【レイはこの暑苦しくて死にそうなところからある意味奇跡のスイッチオンを果たした!】
って、これ凄いの?え!?
「パン、パン!」
「パン、パン!」
レイとユナは綺麗になった社の奥に眠る神棚で手を合わせた。
「それにしても、綺麗になったね。朝は見てられないくらいだったのに」
「・・・そうだな」
「・・・?」
レイは違和感を覚えた。なんでユナの口数減ってるんだ?
ユナたちは社の裏に回り、海を眺められる岩陰に腰を下ろした。
おもむろにユナが口を開いた。
「・・・レイ、約束してくれるか」
レイはユナの様子に驚きながらも聞き返した。
「何を?」
ユナは大きく息を吸った。
レイの方を見つめ、哀しげな微笑を浮かべた。
「もし、どちらかが死んでも、一方は守護神を続けると。
そして、この森がいつまでも残るように守護神としての仕事を永遠に続けると」
ユナの眼差しにレイはユナの気持ちを察した。
何か、あるんだ。危険な、何かが―――
「分かった。約束する」
レイは決めたのだ、あのときから―――
僕が全力でユナを守ると―――
何故か約束を伝えるのに一話分つかってしまいました。