声が聞こえる
僕は信じられない
森の守護神なんて、
それが僕だなんて・・・
レイは屋根裏のベッドで目が覚めた。
なんだ、あの夢。
現実・・・じゃ、ないよな。僕は森の守護神じゃないし、あの少女とも・・・出会ってないんだから。
レイがそう覚えこもうとしていると、梯子をつたってユナが上ってきた。
「あ、おはよう。」
「ん?あ、おはようって、あーーーーーーー!!」
「なんだ?変なやつだな」
ぼ、僕、出会ってた。やっぱり・・・
ユナ・・・だっけ。
森の守護神なんだよな。
僕、も・・・
レイはブルブルと頭を振った。
「口にあうか?ここの食べ物は」
「うん・・・」
二人は朝ごはんを食べていた。
ユナは話し出した。
「それで、お前の名は?」
レイはまだ教えてなかった事に今気づいた。
「レイ。レイ・ドミニクだよ。今まで施設に預けられてた。」
「施設か。ということは、声を聞いて抜け出してきたのか?」
「あー・・・そうだね。」
レイはど真ん中を突かれて内心慌てた。
ユナはしばらくレイを見つめると、柔らかい笑みを零した。
「レイはすごいな。声が聞こえたってだけでここまで来たんだから」
レイはなぜか顔を赤くした。
「別に・・・ユナだって聞こえたら来ただろ?」
な、なんで僕、赤くなってるんだ???
レイは赤い顔を隠しながら頭をかいた。
「ん?なんかあたったか?確かに私もよく食事のなかに紛れて入っているイモムシを見つけたりするが・・・」
いや、そういうことなのだろうか。あたると見つけるのは少し違う気もするが。
レイは立ち上がって空になった皿を洗い桶に持ってゆくと、なぜか皿洗いを始めた。
「どうしたんだ?レイ。なんか変だが」
「んーん。別に。僕、ちょっと頭冷やしてみるよ」
「いや、皿洗いだと手を冷やすんじゃないか?まあ、いっか。じゃ私のも頼む。」
「うん」
レイは手を冷水に浸しながら皿を受け取った。
ユナは屋根裏から掃除を始めた。
「カチャン、カチャ、」
「さっさっ」
それぞれが思い思いに皿を洗い、あるいは箒を動かした。
僕、守護神になるのかな・・・
守護神になって、此処で暮らすのかな・・・
レイは結局どうするのだろう・・・
っていうか、皿洗いできるのか・・・
そして、ユナは徐に口を開いた。
声が出そうなその口からは、何も出ていないように見えた。
しかし、レイの耳に飛び込んできた声は、たしかに声だった。
『レイ、聞こえるな?』
「ん!?」
レイは突然の声に驚いた。
僕、声を聞いた・・・?
森の声のような、あの耳に響く音。
とその時、レイはユナの視線を感じ、屋根裏の方を振り返った。
ユナはレイを見下ろして笑った。
「レイ、聞こえた?」
「・・・声?」
レイは皿を乾いた布巾で拭き始めながら言った。
「聞こえたよ。あれは、ユナ?」
「ああ。そうだ。」
レイは静かに頭の中の情報を巡らせた。
「ってことは、ユナも声を使えるの?」
『ああ。』
ユナは答えた。
「僕も?」
ユナは頷いた。
ふうん・・・
レイは腕組した。
試しに、少しだけ、口を開いた。
「・・・んんん。んんん。・・・んん!?」
で、でない。
というか、やり方知らなかった。
レイはユナの方を見た。
ユナは今にも噴出しそうだった。
「ぷ、ぷぷ・・・ははは!ははははは!!」
噴出した。
「な、なんだよ。」
「だだだって、んんんー!だよ!?ちょーうける!!!」
「・・・・・・・・・・・・・。」
レイは決めた。
もう守護神になんか絶対なってやるか!




