出会い
君に出会う何日か前、僕は何にも分かってなかった。
何にも・・・
「レイ!!とっとと食べな!このあたしの料理が食べられないってのかい!」
「・・・・・。」
レイと呼ばれた少年は、施設の女主人に散々言われてようやく止まっている手を動かした。
レイは生まれた頃からこの施設にいて、それが普通なのだと思っていた。
しかし、最近ようやく外の世界があるということを知った。
施設には窓こそあるものの、無駄に高い塀のおかげで日光がやっと入るだけ。レイは外の世界を一度も見たことがない。
なぜ最近そんなことが分かった?
そういわれると、レイも悩む。
声が、聞こえたのだ。
レイの心に響く、その声が。
「 施設を出よ 」
たった一言のその言葉を聞いただけなのに、すべての霧が晴れたようで、うれしかった。
「・・・僕は施設を出る。」
言葉に出すと、よりその気持ちが強くなる。
「僕はこんなところとはオサラバだ・・・!!」
その日、町はずれの施設から子供が一人、逃げ出したことは人々からあまり知られずに終わった。
「・・はあ、はあ、・・・」
レイは久しぶりに走る喜びと、施設をでたことの感動で、息切れも気にならなかった。
「これが、施設の外・・・?これが、外の世界・・・!」
レイは町はずれの景色を眺め、驚きを隠せずに居た。
「こんな景色が僕の目に映ったなんて、初めてだ・・・」
そのとき、またあの声。
「 森へ 」
「森?」
レイはとりあえず人気の無さそうな道を歩き始めると、深い、深い森へとたどりついた。
「ここの森、だよね。きっと」
レイはかってにこの森と決め付け道なき道をさらに歩いた。
そして、一時間ほど歩いた頃。
レイは岩陰で泉の水を飲んで休んでいた。
「・・・動くな」
「・・・?」
急に槍のような刃物を突きつけられ、レイは振り向いた。
「動くな!!」
声の主はレイと同じくらいの少女だった。
深緑の瞳に紅い腰までの髪。
すっきりとした顔には皮と麻で作られた服がよく似合う。
「き、君は?だれ?」
レイは刃物にびびりながら少女に尋ねた。
しかし、少女はその言葉を聞き流した。
「なぜここに来た」
「え?だって声が、森へ、って」
レイが声という言葉を口にした瞬間、少女の顔つきが変わった。
「お前、声が聞けるのか?」
「うん。僕、声を聞いてここまで来たんだ。」
「・・・・私の家へきてくれ」
その後、更に奥へいった先の丸太小屋に案内されたレイは木の椅子に座った。
先に切り出したのはレイの方。
「君の名前は?」
「・・・ユナ。」
「ユナ?なんか、リボンの結び目みたいだね。」
「どこが」
「え、えー・・・全部、かな」
「・・・別にどーでもいいが」
「え!?そう?」
ユナはため息をつく半分、久しぶりに微笑んだ。
ユナは今まで人と話をしたことがなかった。
ある一人を除いて。
どんな形であれ、この会話がユナにとって二人目の会話なのだった。
「なんでこんな所に住んでるの?」
レイはユナを見つめていった。
ユナは立ち上がってお茶を淹れながら答えた。
「それは私がこの森の守護神の一人に選ばれたからだ。」
「守護神・・・?」
木のテーブルに置かれた竹の湯のみをとり一口、茶を口にいれた途端、レイの体は真っ赤になり、きゅうに力が漲った。
「な、なにこれ!?苦いけど体が変に強くなったような」
「このお茶には唐辛子を煎じたものが入っている。体の抵抗力が高まる作用がある。
そしてさっきの話だが、森には一人や二人、守護神がついている。
守護神とはその名の通り、森を護るものであり、管理もする。
その役を司るのは人間だが、森にとってその存在は神といえるので守護神という名前らしい。」
ユナはあのお茶を普通に飲んで言った。ちなみにユナの体は何ともなっていなかった。
レイはお茶を一口ずつ口に運びながらユナのほうを向いた。
「守護神って、特別に選ばれるの?」
ユナは頷く。
「森の声を聞ける者だけが選ばれる。つまり、お前もだ。」
「へ?」
「お前が聞いた声というのはこの森の、もう一人の守護神を探す声。
お前は今日この時をもってこの嵐の森の守護神となるのだ。」
・・・・・。
・・・・・。
「ええ〜〜〜〜!?」
ここからが、僕とユナとの守護神生活の始まりだったんだよね、ユナ・・・
皆様のご意見、お待ちしております!!




