嵐明けの、幸せのエピローグ
レイは、長らくユナの死を受け止めていられなかった。
『ユナ・・・ユナ・・・ユナ・・・ユナ・・・!』
レイは湖にもぐり、無我夢中でユナの体を探した。
すると、ユナの体が湖深くにあり、なんとその周りが光で溢れている!
レイは口から銀の泡をだしながら、ユナのほうへと必死で泳いだ。
『ユナ!ユナ!』
レイは心の中で叫んだが、口から出てくるのは泡のみだった。
レイはユナを抱きかかえ、頬を叩いた。
もう目覚めないことは、分かっている。それでも、少しばかりの、期待を込めて・・・。
すると、ユナを取り巻く黄金の光が、レイに一つだけの言葉を投げかけた。
【・・・・・穴・・・・・】
そう伝えると、光は飛ぶような速さでユナを駆け抜け、水面へと消えた。
あ、な・・・・?
レイは、そう考えながら、ユナの遺体を引き上げた。
「・・・・・・」
レイは、ユナの体を綺麗に拭いていた。
こう見てみると、ユナの腕や足には生傷が沢山あった。
レイは、ユナに気に入っていた服を着せて、静かに埋めた。
小鳥の囀りや、生い茂る花に囲まれたユナは、微笑んでいた。
「ユナ・・・何で・・・何で僕は、ユナが死んだことが受け入れられないんだろう」
レイは、ポツリと呟いた。ユナの馬が悲しげに鼻を啜った。
「どうして僕は、君を・・・守れなかったのだろう」
「君の事、絶対に守るって、決めたのに」
レイは、いつの日か心に誓った、あの約束を思い出して、瞳を閉じた。
「何でだ!!」
レイは叫んだ。
「僕ってヤツは!何でユナのことを守れなかったんだ!何でだよ!!」
岩に拳を思いっきり叩きつけた。
「僕は・・・なんて、情けない・・・・」
レイは、へなへなとしゃがみ込んで、頭を抱えた。降り始めた小雨が肩にかかる。
嵐が、訪れようとしていた。
「・・・・小屋に、行かなきゃ」
レイはそれから何十分か後に、我に返って小屋に戻った。
「嵐・・・」
レイが目を向けた窓のそとは、荒れていた。
雨は強くなり、木の葉や枝がそこらじゅうに飛び交っていた。
いつか、ユナが言っていた。
この森は、よく嵐が来るのだと。それが、この森の名の由来なのだと。
レイも過去に嵐を体験したことがあった。しかし、今日のはいつにも増して大きかった。
ユナのことを、悲しんでいるかのように。ユナのことを、振り返っているように。
レイは、口を真一門に結ぶと、窓のカーテンを閉めて、ベッドに入った。
レイには、嵐がまるで自分のことを攻めているように、思えたのだ。
朝、起きてみると、嵐は無かったかのように快晴だった。
レイは、顔をムッツリとさせたまま、着替えて守護神の仕事に向かった。
「・・・・・」
しかし、仕事をする気になれず、気ままに森を歩いて時間を費やした。
いつしか、あの湖の向こう側―――岩穴にまで来ていた。
「・・・岩穴・・・穴?」
レイは、湖の中でのあの光の言葉を思い出して、顔を顰めた。
「もしかして、此処のこと?」
レイは、隠し戸をおして、中へ入った。
中は、二日前と同じように整っていた。
レイは、暖炉の前に座って火を焚いた。
籠に詰めてある薪を取ろうとしたとき、ふと床に無造作に置かれた手紙を見つけた。
「何だ・・・?」
レイがそれを手で引き寄せて見ると、見覚えのある字で『レイへ』と書かれていた。
レイは喉を詰まらせた。
「ユ、ナ・・・!」
レイは震える手で封を切り、走り書きを読んだ。
『レイへ
貴方には、本当に申し訳ないと思っているわ。
まだ、後代の守護神も見つけていないし、それに・・・まだ貴方に言っていない事があったから。
・・・私は、貴方のこと大好きだったわ!
私、貴方を愛してたから、本当に、心から。
私、貴方に会えて良かった。
貴方に出会えたから、毎日が楽しくなったの。
それから、後代の守護神のことだけど、小屋の私の机の引き出しに詳しいことが書かれているわ。
それを参考にして、後代を探してください。
もう、行かなくちゃ――――
じゃあ、もう行くねレイ。
さようなら。
ユナ』
レイは口を開けたまま、すくんだ。
ユナは、レイのことまで考えて、悩みぬいて、この結論にたどり着いたのだ。
なのに、自分はユナのことを悲しみ続けて。
自分を責め続けて。
レイは外に出た。真直ぐに、あの海が見える岬に行った。
堪えきれずに、涙を流して、呟いた。
「ああ。何を考えてたんだ?僕は―――」
レイは空に手を伸ばした。涙で顔がぬれても構わなかった。
「僕は、ユナのことを大好きだったのに!」
「大好きだったんだから、死んでも愛し続ければよかったんだ!」
レイは蒼い、あの空を見つめた。
「ありがとう、ユナ。僕幸せだよ。今までも、これからも。」
レイが見つめる空は、まるでレイの心を映しているかのように、快晴だった。
完
完結しました!!!
遂に、遂にこの日が!
何だか・・・嬉しいような、寂しいような。
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