ユナの願いは、湖へと消えて
「王妃様」
「・・・知らせは、ありましたか」
王妃の部屋にひっそりと佇む闇人は、王妃・メーダの言葉を聞いて懐から古い羊皮紙を取り出し、王妃に渡した。
王妃は差し出されたものを引っ手繰るようにして自分の下に引き寄せ、夢中に書かれていることを目で追った。
「・・・よい、ようやった!これで、これで私は潔白の存在となる・・・これで、あの小賢しいヤツを忘れられる!!!
さあ、受け取るが良い!これを、さあ。早く!侍女がやってきます!」
王妃は羊皮紙をくるくると不器用に丸めて書斎机の引き出しの奥に突っ込むと、闇人に金貨がチャラチャラとなる袋を押し付けて出て行けというように顎で窓の方をさした。
闇人は、深い礼をすると、窓枠に手を掛けて勢いよく飛び降りた。
王妃は、満足感と復讐を終えたことの達成感で、ニンマリと笑みを零した。
羊皮紙の一番左にはっきりと記されていた、ある事実に気づくことなく―――
10日前――――――
「居たぞ!あそこだ!!」
「とらえるっぺ!行くっぞ〜・・・」
二人の放つ弓を避けながら、ユナとレイは走った。
『私、まだあの人に、伝えていないことがあったわ。それを伝えてから・・・逝くわ』
ユナの言葉の中には、何処か昔を懐かしむ様子が感じ取れたことを、レイは今でも覚えている。
『まだ・・・メーダに、【ありがとう】を言ってないもの』
レイは、その時思わず「なんでそんなコト言うんだ?」と聞いてしまった。
『なんでって言われても、私には分からないわ。でも、言っておかなきゃ、いけない気がする。せめて、文字であっても』
ユナはそのあとなにやら二つの紙に走り書きをし、封をした。
「ユナ!この上へ・・・!」
レイはユナを引っ張って湖の辺にずっしりと構える大岩の上にユナを上らせた。
ここでも、矢は放たれることは誰から見ても明白だった。
「あの子だっぺっか?」
「んだ。間違いねえ!」
使いが矢を弓にあわせようとした。
「待ってください!!」
ユナだった。
ユナは、あの紙をひとつ取り出すと、使いの方にふわりとその紙を投げたのだ。
「ん?なんだあこれ・・・」
使いは手を伸ばしてその紙を取った。
「その紙には、メーダの・・・王妃様への最後の言葉が記されています!あなた方に、それを王妃様のもとへ届けて欲しいのです!」
「んだー・・・どうすっぺ?」
「うんむ・・・じゃあ、お前さんはここで事切れるんかあ?」
一人の問いに、ユナは胸をはって答えた。
「はい。私はずっと、逃げてきました。見つかった以上、生きている理由など見つかりません!」
ユナ・・・・
君は・・・・・・・!!
レイは、瞳を赤くして、隣に居る使いに怒鳴った。
「君達は、何を考えているんだ!ユナが今命を差し出しているのに、その態度は何なんだ!?王妃に手紙を届けるだけじゃないか!!ユナがどんな思いで今ここにいるのか、そんなコトも分からないのか!!!」
レイは使い二人をはやわざで殴り倒した。
使いは一気にびびった。
「ひえ〜〜〜〜!おっかねえな!」
「ここはひとまず退散だっぺ〜!」
使いは馬の様に速く逃げていった。
「ユナ・・・ごめん」
「いいのよ―――私だって本当は・・・」
『ドスッッッ』
「わあ、やったなあお頭!見事にお嬢さんの腹を貫いたぜ!」
「ふっこんなもんお手のもんさ!おいらにかかれば♪」
使いは、ひっそりと近づき、ユナを射たのだ。
レイは、今この瞬間が、飲み込めなかった。
ただ、ユナのほうへと駆け出したことだけは覚えている。
ユナは、矢が刺さった瞬間目を見開いて涙を零し、目を閉じた。
そして、今にも命の光が失われそうな口元から、わずかな・・・声にならない声が、レイの耳に飛び込んできた。
『ありがとう、レイ・・・・・・私・・・もっと、生きたかった・・・』
ユナの遺体は、波紋を描いて広がる静かな湖へと消えた。
う、そ・・・だろう?
ユナ・・・また戻ってくる・・・よね?
ねえ・・・ユナ・・・
「ユナァァァァァァァァーーーー!!!!!!」
只でさえ主要人物は二人しかいないのに・・・
どんどん暗ーい世界へまっしぐらです。
もうすぐ完結の予定なので・・・評価がいただけたら幸いです。