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嵐の森  作者: 暁 瑚都羅
13/15

最後のひと時

「ユナ、ここに入って。早く!!」


「え、ええ・・・」



ユナは先に穴に入り、灯りをともした。



レイは穴の入り口を堅く閉め、ユナの向かいに座った。




「じゃあ、詳しく聞かせてもらっていい?ユナ」


レイは穴に保管されていた食料の棚を見ながらいった。


ユナは、釜に水を汲みいれると、ふうっと息を吐いた。



「・・・私は、小さいころから此処にいたわけじゃない。貴方と同じように、声を聞いてやって来たの。ここは、知ってるでしょ?」


レイは頷いた。いつか浜辺で聞いたことがある。


「じゃあ、あの使いは、君の過去が関係しているんだね?」


「そう。」


ユナはまたゆっくり呼吸した。そして、レイが首に下げているペンダントを見た。


「そのペンダントに、クシュナとクラスペディアの名前があったでしょう。・・・実はね、私、名前を変えてるの」


「名前を、変える・・・?」


レイは初めてそんなことを聞いた。


ユナは苦笑した。


「元は、クシュナって名前だったわ。でも、クシュナのままだと使いに見つかると思って変えていた。」


レイは目を細めた。


ユナは、小さな声で言った。今にも涙を零しそうに。





「だってね、私、本当はこの国の・・・王妃に、なるはずだったんだから。」




レイは、息を呑んだ。


「え・・・・・・・・・・?」


「元々、私は下級貴族でね。クシュナ・カッチコム・ルーファス・サビアナーレって名前だったんだけれど。ある日、王が私を許嫁にすると言い出したのよ。

 でも・・・私の従姉だった上流貴族のメーダは怒り狂ってしまった・・・・・何しろ、メーダには王との婚約話が舞い込んできていたから。」


ユナは、また泣きそうに小さく笑った。


「その時、私は森の声を聞いて、ここまで逃げてきた。

 今までの生活や、許嫁のことや、メーダのこともすべて投げだして。」


レイは、何も言えなかった。やっと出てきた言葉は、「それで・・・クラスペディアは?」だった。


ユナは俯いたまま答えた。


「クラスペディアは、この森の前守護神で、凄く偉大な人だった・・・何もかもから逃げてきた私に、新しい道を照らしてくれた・・・まさに女神だった。

 私はそこから守護神の跡取りとして育ったの。そして・・・」


「そして?」


「クラスペディアは、いつからかこの森を永遠に去ったわ。行く処があったんだって・・・役目を終えた守護神はいつかそうなるんだって・・・」




レイは、なにも返す言葉が見つからなかった。


その代わりに、手を動かして釜の中の沸騰した湯に茶葉をたっぷり入れて、蓋を閉じた。






ユナは堪えきれずに一筋の涙を零した。


ユナはその事にも気づかないくらい、悲しみで顔をゆがめていた。







ユナは、レイの方に体を動かして、レイにしがみついた。


「ねえレイ・・・どうして私の周りでは、皆離れてゆくの?どうして皆・・・悲しい思いをするの?

 メーダだって、王だって、私の父や母だって、クラスペディアだって、それにレイだって。

 どうして・・・・・・・・どうして・・・・」



すすり泣くユナを見つめていたレイは、苦痛で顔を曇らせた。





どうして僕は・・・僕はユナを慰めてやれないんだ?


なんで、僕はこんなことしてるんだ・・・・・




レイは立ち上がってユナを岩壁に凭れさせると、蒸しあがった茶を湯のみに注ぎ、ユナに渡した。


「ああ・・・ありがとう、レイ。」


ユナは口元に湯のみを持っていき、一口啜った。そして暫くして、目尻に溜まった涙の雫を手で乱暴にふき取った。


「ふふ・・・私らしくないわね。・・・・決めた。私、行くわ!」


「行くと、どうなるの?」


「・・・村で聞いたけど、今の王妃はメーダなの。きっとメーダは昔の事がまだ忘れられなくて、私を追うように命じたのよ。

 しかも、王の知らない間に水面下で出された命令に違いないわ。王は私のことを好いていた。ということは、きっと王妃のメーダのみが関連していると考えられるわね。

 だったら辻褄があう。メーダは私のことを簡単に殺せるわ。私は・・・殺されるに違いない。」


ユナは訝しげに口を動かした。


「こ、殺す・・・」


レイは目を見開いた。


「ええ、きっとあの使いも私を殺す・あるいは処刑するため連行しにやって来たのね。だから、私がここから出さえすれば、私は殺されて、一件落着〜って訳。」


「そんな!駄目だよユナ!君まで死ななくても良いじゃないか!?何故自ら―――」


レイがユナの方を振り返った。


「私が決めたからよ、レイ!!」


ユナはレイを睨みつけた。


「私が決めたことなの。だから、私は此処をでるのよ!」


レイの目はどんどん涙で霞んだ。


「ユ・・・ナ・・・」





なんて、ことだ・・・・・・


こんなことになるのなら、いっその事僕が死にたい。




でも、言えなかった。


レイは、ただ涙を流しそうになって、止めた。


もしかしたら、ユナが『嘘だよ〜レイったらもう!』なんていってくれると思ったのかもしれない。


レイはユナを抱きしめた。




ユナはまた微笑んで、レイを強く抱きしめ返した。



「ありがとう、レイ。私、今とっても・・・幸せよ。」








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