泉に集う者たち
レイは、ベッドに無造作に置かれたペンダントを手ですくい上げた。
「・・・ユナ・・・君が、作ったんだね」
レイは苦笑した。
ペンダントをよく見ると、モチーフの石の裏には彫刻刀で彫られた文字が連なっていた。
『ユナ・クシュナ・クラスペディアの祈り 最後の愛をこめて―――ユナ』
「・・・クシュナ・・・クラスペディア?この名前、聞いたことがないけど―――誰??」
レイは顔をしかめながら、ユナの最後の言葉を見つめ、そして口をきゅっと結んだ。
「―――ユナ」
やがて駆け出すと、勢いよく小屋を飛び出した。
レイは決心したのだった。
ユナを、また見つけるということを。
ユナは、獣道を駆けていた。
「はあ、はあ、はあ・・・、もうすぐ・・・」
もうすぐ、森を抜ける。
そして、ユナはもうすぐ、守護神の力を失う。
実は、ユナは前守護神との契約を結んでいた。
前守護神は、『守護神の力は森にのみ伝わるものなり』の言葉と共にユナを守護神に任命するとき、契約を結ばせたのだ―――ユナと、森とに。
「レイにも、会えなくなるのね・・・」
ユナは、泣きたくなる気持ちを抑えて大きく息を吸った。
「・・・行かなきゃ、堅苦しくて暗い王都に。・・・行かなくちゃ、レイまで巻き込むことになるもの」
それに、ぺディとも、約束したもの。
これから訪れるであろう、現実を受け止めることを。
ユナは、喉を潤すために奥に見えた泉へと向かった。
「ユナーーーーーーーー!!!ユナーーーーーー・・・」
レイは声の出る限り叫び続けた。
しかし、レイの木霊した声しか返っては来ない。
「ユナーーー!ユナ・・・何処にいったんだよユナ―――」
あの洞窟にも、透き通ったあの海も、社も、手当たり次第にいろいろまわってみた。でも、ユナの気配さえない。
「・・・・・もしかして、もう森には居ないのかな」
レイはポツンと呟いた。―――ユナを探している最中、ずっと思っていた事。
「いざ口に出してみると、何だか本当みたいじゃないか。ユナはまだ、絶対ここに居るはずなんだからっ!」
レイは、また意気込んでユナの捜索にはいった。
レイは、やがてあの思い出の泉へとやってきた。
泉は、森の中でも町はずれに近いので、レイはまだ来ていなかった。
ざっと泉を見渡すと、遠くに、人影が見えた。
「・・・ユナ?」
レイは目を凝らした。
「・・・・・ユナじゃない。・・・訪れ人だ。なんで嵐の森に来てるんだ?」
訪れ人―――それは、森に訪れる守護神以外の人間。
レイはユナの話でしか聞いたことがなかった。
その訪れ人は、二人組みの武官のようで、なにやらヒソヒソと話し込んでいた。
(・・・何で姫さんはいないんだ?女王様はココに居るっていったけどよう・・・)
(知らねえよンなもん!ってか、こんなトコあったっぺなあ)
(ホントだ・・・)
(で、どうするっぺ?またぐるっと一回りしてみっか?)
(そうだな。そうすっか)
レイは木の陰に回りこんでその会話を聞いていた。
姫さん?誰のこと?
レイはずっと耳を凝らしていた。
ユナは、泉を遠回りして行き着いた。
「・・・・・・」
無言のまま泉の水をすくって口に流し込んだ。泉の水はひんやりと冷たくて、ユナの喉を潤した。
ふと、泉の端の方で声を聞き取った。
何かしら、あの訪れ人・・・もしかして、もう来てしまったの?使いが―――
ユナは背筋がゾクッとするのを感じ取った。
今、来てしまってはレイが危険になる。そんな事、出来ない。
ユナは岩陰に隠れて二人の様子を伺いながら、ジリジリ迫った。
手には、短刀を握り締め、額には緊張の汗がはしる。
木の陰まで来たとき、ユナは何かに体ごと突っ込んだ。
(・・・ん!?何―――)
なんと、それはずっと聞き耳をたてていたレイだった。
お互い緊張しすぎていたせいか、お互いの存在に気づかなかった。
(え―――ユナ!?)
レイは目を擦って確かめた。
ユナのほうも慌てた。
(あ!!レイ、あー・・・あのね、レイ。私・・・えっと・・・)
ユナは、言葉を捜すのに苦労した。何しろ、一回レイから離れているからだ。
レイはユナの慌て様を察すると、ユナを突いてあの訪れ人を指差した。
(あいつ等、さっきからずっと居るんだよ。姫さんとか、女王様とか言ってさ)
(!!・・・)
ユナは思わず口を抑えた。急に吐き気と目眩がした。
レイは咄嗟にユナの背中を摩り、急に動きを見せた訪れ人を見ながらユナに薬方を飲ませる。
(じゃ、行くか。俺はコッチ行くだな)
(んじゃ、おらはアッチだべ)
訪れ人は、立ち上がって別れると、見回りを始めたのた。これではレイとユナが見つかるのも時間の問題だ。
(ユナ、とりあえずあの二人から離れよう。見つかったら何かと面倒だと思う。)
(私・・・あの人達に捕まったら・・・行かなくちゃならないわ。
でも、行きたくない・・・ぺディとの約束もあるのに・・・・)
(分かった。・・・じゃあ、とりあえず事情を聞かせてもらうよ。僕にはその権利がある)
ユナは、レイの真直ぐな眼差しに思わず目を背けた。
(でも、貴方まで巻き込むことになるのよ?・・・・)
(そんな事いい。さあ、立てるかい?)
レイは、辺りを見回しながら、緊急用の岩穴の隠された入り口を探した。
遅くなってすみません。
何回書き直しても暗くなってしまい・・・結論が出るまで時間がかかったんです!
〜結論〜
この回はどうしても暗くなるー!!!