少女は悲しき未来へと向かう
「ちょっとレイ、何処に行くの?」
ユナは馬に乗って進みながらレイに向かって尋ねた。
レイは振り返り、ニカっと笑うと、「僕たちの思い出の場所さっ!」とだけ言い、馬を進めた。
「ここだよユナ。僕たちの、出会いの場所だよ」
「え――――ココって」
そこはレイが三年前、初めてこの森に来て休んでいた泉だった。
「ユナはここで僕に槍を突きつけて、僕に誰だ!って聞いてきたんだ」
「あ・・・なんかごめんね。私、レイ以外にあの頃人とあまり話をしたことなくて―――」
「あ、大丈夫。昔は僕もあんまり会話なんてしてなかったし」
「・・・うん」
ユナは何処か思いつめるように泉を見つめ、かつてレイが休んでいた木陰に腰を下ろした。
「私は、守護神の・・・声を出すことができるわ。レイにも、それは同じ。目的をハッキリと思い浮かべ、口を開けば声が出るの。」
ユナは泉の水面で跳ねる魚を眺めながらポツリと呟いた。
レイは驚いた。そんなもんだったのか!?あのユナのスイッチオンは何だったんだ!
「ふうん、じゃあユナ声出してみてよ、試しに」
「んーと、じゃあ、耳を澄ましておいてね」
ユナはすうっと息を吸うと、ゆっくり口を開いた。
普通の人ならばただ動かしているだけのように見えるその口からは、守護神にしか聞こえない声が溢れていた。
『レイ、えっとーこれが声ね。やってみよ。』
レイは三年前の失態を跳ね除けておもむろに口を開いた。
『ユ、ユナ?・・・あれ、通じてる?』
『うん、聞こえてるわ。凄いじゃないレイ!貴方三年前は出来なかったのに』
『そうだ・・・僕昔は出来なかったのに今はどうして』
『多分・・・レイの心が森と通じてきたからじゃない?声は、森の守護神にしかだせないから、森と心を通じることができる人物に限られるもの』
『そっかあ・・・僕森と通じてるのか。じゃあ、森ともお話できるの??』
『うん』
ユナはレイの目を見て頷いた。
『でも、気力・体力共にすっごく消費するから、気をつけたほうがいいわ』
『うん。あ、でね。僕お昼ご飯作ってきたから、食べながら話さないかい?』
レイは大きなバスケットを掲げた。
ユナはお腹をおさえて激しく頷いた。
「ウーン!美味しいわ、レイの作るサンドイッチ。私が作ると、なぜかヘニャヘニャになってしまうのに」
ユナは野菜サンドを口に運びながら普通の言葉で感激の一言を放った。あの声はあんまりやると疲れるのだ。
レイは卵サンドに手を伸ばす。そしてユナに指摘する。
「ユナのはパンにバターが塗られていないんだよ。だからパンが中の水分を吸ってしまってるんだ。」
「あ、そうなんだ。・・・でも、バター高くない?あんなのしょっちゅう買えないよ?」
「今は牛飼ってるからそのうちミルク絞れるようになって、そこからバターやヨーグルトが作れるようになるよ」
「!!!」
ユナは驚きと尊敬の目つきでレイを見上げる。レイはいつの間にか背がグンと伸びていたので。
「レ、レイ・・・!凄いわ、凄すぎるわ!あなた、節約術なんて何処で覚えたの?ねえ、今度私にも教えて!」
「ん?節約術なんて簡単簡単。今から教えてあげるよ」
「おおおーーーー!さすがレイ!神様仏様レイ様ー!」
ユナはサンドイッチを口でモゴモゴさせたまま、手を合わせて拝んだ。
「えっと、まずは野菜を調理するときは、なるべくぜーんぶ使い切ること!葉っぱも、茎も」
レイはユナに身振り手振りで教えた。
ユナは首をかしげた。
「私、野菜料理作れないんだけど・・・どーすればいいのかしら」
「・・・・・・は!?」
レイはまず、基本的な家事の仕方を教えることなった。
―――ねえ、レイ。
―――いつまでも、この嵐の森に居たいと思う?
―――私は、出来るなら・・・・・ずっと居たい。
―――でも、もう叶わない。その願いだけはこの先永遠に。
―――だから、今だけ・・・せめて最後の時だけは・・・
―――ずっと、一緒に居てね。レイ―――
ユナは三日月が曇る夜にたった一筋だけの泪を流して、深い眠りについているレイに小さく笑いかけた。
なんと・・・連載が十回を超えた・・・!!
奇跡としか言いようがないです!