転生悪役令嬢と百合王女
シャルロット•ド•オルレアンは悪役令嬢である。彼女はここではない、別の世界のゲームの中の人物のはずだった。彼女はこの国の王子と婚約をしており、たとえそれが政略的なものであったとしても、彼女は王子のことを愛していた。
しかしこの国にある学園にて王子は別の令嬢と恋に落ちてしまい、それを知ったシャルロットが王子の愛した令嬢に数々の嫌がらせを行う。その行為はだんだんと過激になっていき、ついにシャルロットはその令嬢を暗殺するという行動に出てしまう。だが、暗殺は王子が令嬢につけていた護衛によって排除されてしまう。そして暗殺をしようとしたことが発覚したシャルロットは婚約を破棄され牢に入れられてしまう。
悪役令嬢であるシャルロットを排除した後、王子とその令嬢は結婚をし、幸せに暮らしました、というのがこのゲームの筋書きだった。
まあよくある悪役令嬢を倒して主人公が幸せになるという、ゲームだった。ただそれはゲームの物語だから良かったのであって現実にして欲しいなんて思ったことはなかった、はず……。いや、少しあったのかも知れません。だが、これだけは言わせてください。
何故、主人公ではないのでしょうか!
自己紹介をしましょう。今の私の名前はシャルロット•ド•オルレアンといいます。私には前世の記憶というものがあります。その中にとあるゲームの記憶があり、そのゲームでは私の役割は悪役令嬢であるというものでした。
最初、記憶が浮かんできたときには、これは夢か現か、とも考えました。しかしこれは紛れも無い現実です。そして、同時にシャルロット•ド•オルレアンとしての記憶から気づいてしまったのです。
もう一度言いますがこの世界はゲームではありません。現実で、王権に近づくほどの大貴族がいたらどうなるのか、なぜわざわざ王都にある学園にまで各貴族の子息、令嬢を集めるのか、そして、何故王子がシャルロット•ド•オルレアンと婚約破棄ができたのか。
今までの私なら気づかなかったでしょうが、シャルロット•ド•オルレアンとしての記憶と、前世のゲームの知識などを集めれば分かることでした。
ただ一つ言えるのはシャルロット•ド•オルレアンと王子との婚約破棄は計画されたものだったということでしょう。私の生まれる前にどこかで既に取引があったことは明白でした。
第三王子と、大貴族の次女、どちらも家の存続にはあまり必要ありません。それに家にいてもほとんど家族にあわなかったのですから。家族としての食卓にすら、特別な儀式的なもの以外招かれませんでした。私はオルレアン家の次女としての身分のはずなのに、長女はもちろんのこと、妹である三女や、三男の方が明らかに家の中では優遇されていました。
それに気づいたときは絶望しました。私は婚約破棄され、幽閉されるために生きているのかと、ですが、王家と大貴族であるオルレアン家、そして婚約破棄に賛同したであろう、主人公の家を含むであろう各貴族家など、これらの決定を覆すだけの政治力を私はもっていませんでした。
学園においても王子以外喋ることのできる人物はほとんどおらず、ほぼ孤立していました。だから、記憶に気づいて若干の行動の変化があったのに気づいた人はたった一人だけでした。
家を出るというのも考えましたが、この世界は平民にも女性にも優しくはありません。この世界で貴族を貴族たらしめる魔法があっても、家を出て一人で生きていくなど不可能に近いです。安全に寝る場所などありませんし、お金を稼ぐ手段も持っていません。既得権益は貴族とギルドが全てを握っています。そして貴族は平民を人として見ていません。シャルロット•ド•オルレアンも同じでした。
しかし、いくら現代日本人としての記憶があり、平民と暮らすことを許容しても、平民の不衛生さ、食生活の貧しさ、そして義務教育も無いので、あまりに考え方が違いすぎて話も通じません。そのことを考えると絶対に平民となり生活することは不可能でしょう。
私は諦めました。
そこで、思っいきり主人公に悪意をぶつけることにしたので、原作よりも過激になったのは仕方のないとこでしょう。たとえば、原作では物がなくなるだけのだったのが、使用人がいなくなったり、魔法の授業で意地悪をされる程度だったのが、全治2ヶ月のケガにかわったり、家に火がつきすぐに消し止められるボヤ程度の予定だったのが、王都を巻き込み多数の貴族家と平民街4分の1を燃やすことになったのも全て仕方のないことでした。
ええ、そうです。どう考えても立派に悪役令嬢をしていました。
しかし、これらの行動が原作には登場しなかった、ある人物に影響を与えたとは思いもよらなかったのです。
そして、私は原作通りに主人公を暗殺することになりました。まず、私に接触してきた暗殺者に依頼しました。自分から暗殺の押し売りに来るなんてとても面白い暗殺者でした。
どう考えても真面目に暗殺を行ってくれるわけがないので、ちゃんとした襲撃者たちも用意しました。お金さえあれば傭兵崩れを雇うことは可能です。それらに魔法の込めた武器を与え、しっかりと襲撃を行いました、が失敗してしまいました。
襲撃の結果としては主人公を殺すには至りませんでしたが、王子と主人公の護衛についていた王家の騎士、オルレアン家の騎士の大部分を殺すことに成功しました。
あと、オルレアン家の長男さんと第三王子も死んでしまったようでした。ほとんど話をしたことがないので、どうでもいいですが。
ともあれ、私は婚約破棄される予定だったのが、王族の殺害に変わり、結局は牢に入れられました。
婚約破棄からの幽閉は予定調和だと思っていたので、いまさら特に何も感じませんでしたが、まさかこんな平民の重犯罪者用の頑丈で地下にあり、外と一切を遮断された牢に入れられるとは思ってもみませんでした。
「居心地はいかがでしょうか? お姉様」
何もない牢の中でぼんやりと過ごしていると、不意に声をかけられました。気がおかしくなって幻聴を聞いたのかと思ったのですがどうやら、違うようです。再び声をかけられました。
「お姉様? 聞こえていらっしゃるでしょう?」
知り合いの少なかった私のことをお姉様と呼ぶ人物には一人しかいません。
「ええ、もちろん聞こえていますよ。セシリア第一王女殿下! 殿下はこんな素晴らしい私の寝室にまで来られるほどお時間があるのですね。」
「そうですよ。大好きなお姉様に逢いに来るためにわざわざ時間をつくったんですよ。あまり邪険に扱うと泣いてしまいますわよ?」
セシリア第一王女殿下は学園にいた時から、なにかと私にかまってくる。そしてずっと私のことをお姉様と呼んでいる。
突然抱きついて来ることもあった。殿下は太陽のように輝く金髪を持ち、肌は少し日に焼けた健康的な白を保っており女性でも嫉妬してしまうようなプロポーションでなおかつ、私の2歳年下だった。
私も顔の造形では負けていないと思うが、身長が175cmはあろうかという殿下と比べて20cmは身長が低く、平均身長が170近くあるこの世界ではかなり小柄で、外にほとんど出してもらえなかった不健康な白い肌で、魔法に頼りきって筋肉のほとんどない体で、胸の小さい私からすると羨ましかった。
悪役令嬢を貧乳ロリにして、主人公を正統派お嬢様にしたあたり、開発者たちの中にロリコンがいたとしか思えない。
「それでなんのごようでしょうか? 王女様?」
王女殿下の考えはよくわからない。平民用の牢に入れられたということは、もう貴族として見なされていないも同然だ。
はっきりいうと死んでも構わないと思われている。そんな私にわざわざ逢いにくる理由がない。
「さっきも言ったじゃないですか?
大好きなお姉様に逢いに来ただけです!」
何らかの刑が決まりそれを伝えに来たのかと思ったということを伝えると、
「そんなこと言いにくるわけないじゃないですか。わたくしの大切なお姉様に! それにわたくしのことは名前で呼んでくださいって何度言ったらわかるんですか?」
「今の私は王女殿下のことを名前で呼ぶことが許される身分ではありません」
というと、セシリア王女は牢の鍵を開けて入ってきた。牢の中だが、私は両手に手枷を嵌められ、右足には鉄球付きの鎖で繋がれて、さらに首輪をつけられ立ち上がることさえ出来なくなっている。
自然と牢の中に入ってきたセシリア王女を見上げる形になる。突然、セシリア王女はしゃがみこみ、私の顎を摘み上げ、上を向かせ唇を重ねた。
「んぅ〜…………はぁぁ」
セシリア王女が唇を離した後、あまりのことに私は惚けた顔を呆然と晒していたに違いない。そして、キスをされたと気づいて顔が熱くなった。きっと真っ赤な顔になっているだろう。
「な、何を、ど、どう、して?」
私は真っ赤な顔で、どもりながら尋ねた。セシリア王女は妖艶さを醸し出しており、恍惚とした表情で、自身の唇を舌で舐めていった。
「そんなの決まってるじゃないですか。こんなに可愛らしいお姉様のことが欲しかったからに決まってるじゃないですか」
私はそのことを聞いて、また呆然としてしまった。
「そ、そんなこと無理です!」
「無理? それはわたくしのことが無理なのですか? 出来ればお姉様に痛い思いをさせたくなかったんですが、仕方がありませんね」
「ち、違います。私がここから出るのが無理なだけで……」
私の言葉を遮りセシリア王女が言った。
「そのことなら何の問題もなくしましたわ。国王は退位し、第2王子に、オルレアン家は三男が継ぐことになりますわ。彼らのことを支援する見返りにお姉様のことを貰うことになりましたので」
「いつの間にそんなことに……」
「もちろんお姉様が捕まってからに決まってますわ。ということで、お姉様はわたくしのものです。地方に領地を得たのでそこに2人で暮らしましょう。」
「で、でも、なんでそこまで私のことを?」
私は当然の疑問を聞いた。セシリア王女はすごくいい笑みを浮かべていった。
「シャルロットお姉様がかわいすぎるからに決まってるからに決まってます。スケープゴートにするので変なことをしないよう見張っていたのに、突然性格が変わってあのバカに興味が無くなって、無表情になったと思えば、あの令嬢をケガさせたり、王都を燃やしたりしたあとしばらくはずっとビクビクしていて、話をしているときも虐めたくなるような怯えた表情をしてたからじゃないですか」
「え……」
私は普段あまり表情を変えないように意識していたのにそんな顔をしていたとは思っていなかった。また、セシリア王女は動けない私に顔を近づけて耳のそばでささやいた。
「そうです。今のその怯えている目がとてもかわいいですよ。あとでたっぷり虐めてあげるので期待しておいて下さいね」
私は何とかしてここで反論をしなければならないと、思いついたことを言った。
「でも、王女殿下も結婚をしないとダメでしょうし」
「この前偶然なんだけど、女の子同士で子供を作る事が出来るようになる魔法を見つけたの。これで何も悩むことはないわ」
私は唖然とした。そんな魔法が偶然見つかるわけがない。そんなことを考えているとセシリア王女が私の顔をじっと見つめて言った。
「それに今また王女殿下って言ったでしょう。お仕置き決定ですわね。」
何か言おうとしたが、言葉が出てこなかった。
「鎖を外すのでおとなしくしていて下さいね」
そう言ってセシリア王女は私の足枷と、手枷、首輪と順番に外していった。そして、全てを外し終わった後、どこに隠し持っていたのか分からないが、素早い動きで私に首輪をつけた。付けられた首輪は本物ではなく、外見は厳ついが、内側にクッション材があり首を痛めないように作られていた。
「やっぱり、首輪をつけているかっこが一番似合いますね」
セシリア王女はそういった後、私の膝の下に左手をいれ、右手で背中を支え、抱き抱えた。一言で表すとお姫様抱っこだった。貴族は魔法を使い身体能力を上げることができるので、人間1人ぐらいだったら、簡単に持ち上げることができる。
抱きかかえられている状況に、私は顔が熱くなり、心臓がバクバクと音を立てている。セシリア王女に間違いなく音が聞こえているに違いない。
「ひょっとしてわたくしに首輪を嵌められて、抱っこされるのが嬉しいんですか?」
「く、首輪ではありません。こんな風に誰かに抱っこしてもらうのが初めてだからです」
私は正直に告白した。目の前にはセシリアの顔がある。それに気づいてさらに顔に血が上り、熱くなってくる。
「さあ、それではこのまま、わたしくしたちの屋敷に行きましょう」
Happy End
思いつくままに書いてみました。
設定が甘かったなと思います。なぜ?となる部分もあったかもしれません。そうなっていたら申し訳ないです。
感想をいただければ幸いです。
追記
どうみてもこれはハッピーエンドですよね