崩される仮面
前にツイートした時のネタを肉付けしたらこうなった
···まさか自分がこんなやつに···
「···なんで···なんであんたはあたしを見てくんないのよっ!!!」
「···」
初めてだった、男にこんなに泣かされたのは···
所詮恋愛なんてみんな自分のことを周りよりよく見せるだけ、本当の恋愛を知らず歪んだ恋愛観を持ったあたしは青春のど真ん中にいてもその恋愛観は変わらなった、自分磨きでしかなかったのにいつの間にか色んな男から告られ、それを全て受け入れてきた、あたしの事を見ているようで見ていないその目に、自分の株を上げるための道具としか考えてない男を自分の思い通りに動かすのは容易かった、そうして散々使い倒した男は捨てまた新しい道具としてしか考えていない男を受け入れる、···いつしかあたしの周りに集ってた女子は嫉妬で誰一人寄らなくなった未だにあたしの所には自分の株を上げるためにモノにしたい男が群がってくる、もうこの学校の男はほぼ全員あたしに群がる猿と化した
「···」
「···お、飛行機雲」
···ただ一人隣に座るこいつを除いて
隣に座るこいつは別に人に嫌われてるとかぼっちとかそういう人種の人間ではない、ただ窓際一番隅っこに座ってるだけの人間だ、休み時間になればこいつの友人が集まって話したり授業中は寝てるか真面目に受けてるか、そんなような人間だ
「···」
「···」
こいつはよく放課後に残って外を眺めているのが日課になっている、その理由はよくわからずこいつの友達もそれを了承して先に帰っている
「···」
「···おぉ、飛行船なんて初めて見た」
時折開いていたノートに何かを書き込んでは消してまた何か書き込んでは消して···それを何度も繰り返している、一度こっそりそのノートを見た事はあるが一切何書いているかはわからない
「···ねぇあんたさぁ」
「···ん?あ、俺?」
「今この状況であんた以外誰がいんのよ」
「いやぁー、君なら彼氏とかに連絡してんじゃないかなって思って」
「···」
···こいつはあたしには屈しないくせにあたしの事をよく見てる、現に今もこんな答えができるのはあたしの事を知っているからだ
「···あんたさ、あたしに話しかけられといてなんもないの?」
「なにが?」
「なにがって···あんたもしかして···」
「···あー俺ノーマルだよ」
「じゃあなんで···」
「なんでって言われても···お、俺そろそろ帰るわ」
「あ、ちょっと!!!まだ話は···」
···普通の男ならあたしに対しての反応はこんなに素っ気ないものじゃない、むしろあたしにぐいぐい来る
「···っとになんなのよあいつ···!!!」
ここまで反応の無い男は高校に入ってから初めてだった、それがあたしのなにを傷つけたのか、あいつを攻略してやろうと思ってしまった
作戦は翌日からすぐに決行、もちろんすぐに協力してくれる男もゲットしていたため案外容易く···
···と、最初の内は思っていた
「···」
「···アレ!?あんたなんで···」
「ん?どしたの?」
「いや、別に···」
あたしの忠実な駒にこいつをどうにかしてと頼んだのは早朝のこと、こいつが来る前に色々と手を回してくれていたはずだが何事も無く普通に教室へとやってきた
「···ねぇあんたさ、朝なんか無かったの?」
「朝?···あー、そういやなんか男の先輩達に囲まれたかな」
「え、大丈夫だったの?」
···もちろんあたしが指示したものだけど心配する振りをする
「別になんも無かったよ、話し合いですんだし」
「話し合い···?」
「おー」
···あの男共失敗したのか、使えないわね
それから何日も隣のこいつに対する作戦を決行した(させた)けど何一つ上手くはいかなかった
男共にやらせるから失敗するのだろうか、そうなったらもうあたし自身がこいつに当たるしかない、何がなんでもあたしに屈させてやると決めた
「···」
「···」
相変わらずこいつは窓の外を眺めては開いていたノートに何かを書き込んでは消している
「···ねぇ寒くない?」
「···」
「ちょっと聞いてんの?」
「···あ、俺に言ってたの今の」
「あんた以外誰がいんのよ」
「あー···で?」
「だから今日寒くない?」
「そうでもないけど、エアコン着いてんじゃん」
「だからそれでも寒いっつってんのよ」
「···えー、だったらその薄着やめろよ」
「···あぁもう!!!」
「えっ···!?どわっ!?」
···胸元ちょっと開けても反応無し,ちょっと誘っても反応無し、···だったら直接押し倒す、こいつ以外やったこと無いけどこれで少しはあたしの事意識すんでしょ
「···てて、どうしたんだよ急に」
「決まってんでしょ、寒いからあんたので暖まろうとしてんのよ」
「···ったく、しょうがないな」
「っ!!」
よし!!これでこいつも落ち···
「···ほい」
「···は?何よコレ」
「何って、寒いんだったら羽織ってろよ、俺そこまで寒くないからいらないし」
「···」
···こいつ、女子高生に押し倒されといて自分の着ていた上着を渡すか普通!?
「···お、今日はいい夕暮れだな」
「···」
「ん?どした?寒いか?」
「···なんでもないわよ」
「あっそう」
···なんでこいつはここまであたしに興味ないんだ···!!!
それから明くる日も明くる日も隣のこいつを落とす為に色々な手を尽くしてきた、もちろん他の男も利用して何とかしてこいつを落とそうとした、···でも必ずそれは失敗に終わりあたしの事も軽く流された
「···どうして···どうしてなのよ···!!!」
「···なにが?」
「あんたには関係ない!!!」
「あっそう、お、今日購買新商品出るんだった」
「···」
ここでもあいつはあたしに気もくれず購買に向かう、それだけでも腹が立つのに···
「···えっ、ちょっとどういう事よ!!?」
「だから、お前あの男に構ってばっかで面白くねぇんだよ、いくらお前の頼みでも何度も意味無い事なんか聞いてられるか」
「そんな···あんた達あたしのこと手にしたいんじゃなかったの!?」
「最初の内はそうだったが冷めたよ、じゃあなクソビッチ」
「···っ!!!」
···あたしに服従していた男が一人、また一人とあたしの元から去っていく、気づいた頃にはあたしの周りにはもう誰もいなくなっていた
「···結局あいつらもそうなんじゃない···!」
所詮男なんて自分の思い通りにならない女なんか手にしたくはない、自分の所有物にならないモノなんか手元に置きたくない、やっぱりあたしの恋愛観は間違ってなかったんだ
「···」
「···お、何やってんの?」
「···んでもないわよ」
「あっそう?」
「着いてくんじゃないわよ」
「いや教室同じだし」
「···」
「あ、そうだこれやるわ」
「何よコレ」
「購買の新商品、買ったけど甘すぎたからやるわ」
「いらないわよ、友達にやんなさいよ」
「あいつらも甘いの苦手なんだと、知ってる女子なんかお前くらいだからさ」
「···ちっ」
「え、なんで舌打ち?」
「なんでもないわよ」
···っとにこいつは自分があたしにどう思われてるかわかっててやってんの?
それからしばらくたった頃、隣のこいつをどうやって落とそうか考えている時だった
「···」
「···あのさぁ、なにをさっきから俺の事見てんの?」
「はぁっ!?見てないわよ!!自意識過剰になってんじゃ···」
「···なんかお前さ、前よりやつれてね?」
「な、何言ってんのよ急に···」
「なんか前より覇気が無いってーか、なんてーか···うん」
「···ちっ」
「お、どこ行くんだ?」
「うっさい話しかけんな!!!」
「···てぇな、どこ見て歩いてんだクソビッチ!!!」
「あんたが邪魔なとこに突っ立ってんのが悪いのよ!!!」
「んだと!?」
「っ!!」
教室から出ようとして後ろ見ながら歩いてたからそこに屯ってた男にぶつかった、ただそれだけならよかったけど相手もあたしに恨みがあったみたいで口論になった、その口論が激しくなると相手が殴りかかってきた、前まであたしに手を上げなかった男が殴りかかってくるという事がいかに自分の地位が下がっているのかがわかる、すぐその場から逃げようとせず衝撃に備えて目を瞑る
「···っ···?」
目を瞑ってもいつまで経っても痛みが来ない、疑問に思って目を開けると···
「···」
「···いくらお前がムカついたとしてもさぁ」
「···がっ···お前···!?」
「···女に手を出すのは男としてどーなん?」
「あんた···!?」
さっきまで自分の席に座ってたはずのあいつが殴りかかってくる男の拳を左手で握っていた
「···で?どーなん?」
「てめぇ···!?あぐぁっ!?」
「···どうなんだって聞いてんだよ、ない頭でもそんくらい答えられんだろ」
「っ!?」
···初めて聞いたあいつのドスの効いた声、それだけでその場にいた人間が凍り付いた、それもそうだ、普段のあいつはほぼ怒ることは無い、それが急にドスの効いた声を放てばそれはそうなる、···あたしだってなってんだもん
「···いい加減答えろよ、どうなんだって」
「ぐっ···チッ、覚えてろよ」
「やなこった」
「···あんた」
「···ほれ、どっか行くんだろ?道空いたぞ」
「あ、うん···」
···最初の内はあたしを助けてくれたんだと思ってたけど、教室を出た瞬間にあいつはただ女に手をあげる男を許せなかっただけと察した、それもそうだ、だってあいつはあたしなんかに興味が無いんだもの、誰があの状況になってもあぁやったんだ
「···」
···一瞬だけ胸の奥が痛くなったのは多分気のせいだ
それから何度も何度もあいつを落とすために作戦を決行するけどやっぱりあいつは落ちずとうとう同じクラスとして最後の日を迎えた、その日を迎えるまでにあたしへの嫌がらせもあったけどいつの間にかそれも無くなってた
「···」
「···おぉ···春だな」
誰もいなくなった放課後の教室、相変わらずこいつは窓の外を眺めては開いていたノートに何かを書き込んでは消している
「···結局落とせなかった···」
「ん?なんか言ったか?」
「なんでもないわよバカ」
「俺お前よりは頭いいんだけど」
「うっさい」
「···っし、帰るか」
「!!」
「一年間ありがとな、割と楽しかったぜ」
「···」
···そう言って頭を軽く叩くのはどこを探してもこいつだけだ
「···でよ···」
「ん?」
「···なんであんたはあたしに屈しないのよ」
「はい?」
ここまで自分の思い通りにならない男にプライドを崩された悔しさと今まで持っていた地位を失った消失感、···それと何も出来ず何も残らなかった自分に腹が立ち抱え込んでいた感情が今ので決壊し始めた
「···あたしに寄ってくる男なんて···みんな自分の株を上げたいやつばっかりなのに···だから反対に利用しまくってやってたのに···全部あんたが悪いのよ···!!!」
「···えぇーと?···俺が何したの?」
「あんたが···すぐあたしに屈していればあたしは何も失わずに···男から嫌がらせを受けずにすんだのよ···!!あたしは特別な人間なのよ···!?それなのにあんたは他の女子と同じように扱って···他の男は全員あたしに夢中だったのにあんただけがあたしの事を眼中に入れてなかったのよ···!!」
「···」
「あたしのなにがダメだったのよ···あたしになにが足りなかったのよ···他の男はすぐ落とせたのになんであんたは落とせなかったのよ···!!なんで···なんであんたはあたしを見てくんないのよ···!!!」
「···」
気がついたら泣きながらこいつに訴えてた、人前で···しかも男の目の前で泣くなんて生まれてこの方初めての事でどうすればいいのかわからなかった、それでもこいつはあたしを一人にせずずっとそこにいてあたしの訴えを聞いていた
「···なにが···あたしのなにがダメだったの···恋愛なんてものを歪んだもので見てるからダメなの···?なんでなのよ···なんで···!?」
「···あー、とりあえず泣きやめって、俺が泣かしたみたいになってるから」
「あんたが泣かせてんのよバカ!!!」
「えぇー···」
「···バーカバーカ····あんたなんかあの時先輩にボコボコにされれば良かったのに···」
「···あ、あれお前の差し金なの!?なんで酷くね!?」
「···」
「···まぁいいや、にしてもさ、やっとお前年相応の顔になったな」
「···ぇ···?」
「いや最初の頃さ、なんか同い年なのにつまんなそうな表情してんなって思っててさ、やっとお前の顔が見れた気がするわ」
「···」
「来月からそういう風に過ごせばお前にも女子が群がってくるんじゃね?お前は人気者になる素質があるし」
「···もうそんなの無理よ、もうあたしにはそこまで成り上がる事なんてできないわ、そのうちあたしも···」
「···だからこそお前は人気者にならないとダメなんだ、汚名がある過去の事引きずんなよ、やり直せないなんて誰が決めたんだ、勝手に自分で決めるなよ」
「···なんであんたのせいでここまで堕ちたのにそのあんたに慰められてんのよあたし」
「え、ダメなのか!?」
「···」
「···まぁとりあえずさ、今は溜まってるもの全部吐き出せよ」
「···っ···!!!」
···落とされた本人に慰められるなんて屈辱だけど今は何故かその言葉が一番響く、結局あたしはこいつに最後まで勝てなかった
「···落ち着いたか?」
「···」
「ならあとは大丈夫だな、じゃあ俺帰るな」
「···待ちなさいよ」
「んぉ?」
「···あんたあたしをここまで落としたんだから責任取りなさいよ」
「え、なんの?」
「···あんたってほんといつか女に刺されるわよ?」
「なんで?」
「もういいや、なんかあんた相手にしてると今までの自分がバカみたいだもの」
「あっそう···で、なんでお前俺にそこまで執着してんの?」
「はぁっ!?急に何よあんた!!!」
「だって俺を落とすために色々やってきたんだろ?だからなんで俺なのかなって、他に色んな男いたのに」
「···それは···あんただけがあたしに屈しなかったから···」
「···」
「···何よ」
「いや、お前も乙女なんだなって」
「はぁっ!?どこがよ!!!」
「いや、一人の男を振り向かすために一生懸命やってんじゃん、昔その手のマンガ読んだことあってさ、今のお前にそっくりだよ」
「···」
てことはあたしはこいつに気にしてほしいから···?
「···いや、待って···それは···」
「今度は赤くなった、忙しいなお前」
「うっさい!!!誰のせいだと思ってんのよ!!!はぁーもう最悪、なんであんたとつるむとこんな狂うんだあたし···」
「うまく言い表せないけどそれが恋ってやつじゃね?」
···これが恋?あたしがこいつに振り回される事が恋なの?恋って自分の事をよく見せようとするものじゃないの?
「···じゃああんたがあたしに恋を教えなさいよ」
「なんで俺?」
「あんたがあたしをここまで狂わせたんだから、恋愛観が歪んだあたしにゼロから教えてみなさいよ」
「えぇー···それは他の男でもいいだろ」
「あたしにはもうあんたしかいないのよ」
「いるだろ他にも···」
「いないわよ、あたしに服従してた男はあんたのせいで誰もいなくなったんだから、その責任取ってよね」
「えぇー···」
・
・
・
・
・
・
「···」
「お、何見てんの?」
「うわっ!?あんたいつからいたの!?」
「いつって、お前がアルバム捲り始めたあたりから」
「もう···黙って後ろに立たないでよ」
「まーまー、それより荷解き終わったぞ」
「あ、ほんと?ありがと」
「···」
「···なによ急に黙って」
「いや、お前昔と変わったなーって思って」
「誰のせいだと思ってんのよ」
「俺なの?」
「あんたしかいないでしょ」
「···まぁそっか、そんで他にやることねーの?」
「ないわよ」
「じゃあ俺ご近所挨拶行ってくるわー」
「···え!?ちょっと待ちなさいよ!!!あんたその格好で行くの!?」
「え、ダメなのか?」
「やめてよバカ!!」
「えー···じゃあお前が選んでくれよ」
「もう···しっかりしなさいよ」
「いやいや、お前がしっかりしてるから俺も過ごせるんだよ」
「···はいはい、だったら早く汗流してきなさい」
「一緒に入るか」
「バカ言ってんじゃないわよ!!早く行け!!」
「そこまで怒るか?」
「ったく···あの時のあんたはどこに行ったのよ」
「ここにいるぞー」
「···」
「···どした?」
「···やっぱあたしも入る」
「お?どうした珍しい」
「うっさい、先行け」
「えぇー···」
···あんたがあたしに服従しなかったからあたしは本当の恋愛を知ることが出来たなんて絶対に言ってやんないわよ、···でも、あたしはもうあんたしか、···いや、あなたしか興味無いんだからね
これが自分にできる甘酸っぱさ