第63話【図書室へ】
ナナの案内で涼太達は魔女の花園の奥を目指す。
そこそこの広さがある花園には白い石で作られた道が整備されており、花を踏みつけること無くすんなりと奥へとたどり着くことができる作りだ。
そんな真っ白な世界に咲くように2色、黒と赤の影が見えた。間違いなく2人だ。
「スピカさん!」
「……戻ったか。涼太」
「おかえりなさい、涼太さん、レーゲンさん」
声で気がついてくれた2人は、優しく迎え入れてくれる。早く話がしたいと、涼太が慌ててスピカの元に駆け寄れば、不意にスピカに抱き締められてしまった。
レーゲンが何やら短く避けんだのが聞こえた気がしたが、突然の事なので涼太の頭はどうにも働かない。
「ス、スピカさん!?」
「……すまなかったな、涼太。私がシエルの思惑に気がつけなかったばかりに苦労を掛けてしまった」
涼太から離れ、そう呟くスピカの言葉からは余程悔しかったのか、隠しきれない後悔が滲み出ている。
しかし、涼太にはそんな事より気になることがひとつだけあった。
「……スピカさん、どうして僕達がシエルさんに会ったってわかったの?」
「それは、この子達が教えてくれたからですよ」
スピカの代わりに答えるローゼは、優雅に手を添えながらクスクスと笑う。
彼女のもう片方の手は地下を支える白い柱に巻き付いた1輪の白薔薇を撫でていた。
「この屋敷に咲き誇る薔薇達は皆繋がっているのです。この子達の誰かが見たり、聞いたりした事は他の薔薇達にも伝えられ……そして私は、そんな薔薇達の声を聞くことが出来るんですよ」
「本当はすぐに向かうつもりだったのだが……下手に騒げばこの城に居る他の妖魔達に目をつけられてしまうから、とローゼに止められてしまった」
「最悪、アクイラが止めてくれると信じてましたからね。結果としては正解でした」
どうやらローゼは、執事の動きまで予想して動いたらしい。
スピカや月の魔女と比べて、ローゼは魔女にしては大人しく優雅な印象を涼太は持っていたのだが、その認識が改まりそうだと思った。
「……そうだ。涼太、怪我はしてないか?」
「うん、大丈夫だから」
「見せてみろ」
心配させないために、早く切り上げようとしたがスピカがそれを許さない。スピカはそのまま手を伸ばして涼太の後頭部に触れ、手を離した。
「……無事そうだな。本当にすまないな、涼太。やはり私が……」
「スピカさん?」
「はいはい。スピカ、それ以上は駄目ですよ。さ、こちらに」
あの薔薇の茎のような細い腕のどこにそんな力ががあるのだろうか。
ローゼの予想以上に強い力で、スピカはそのまま後ろに下げられてしまう。
「ところで涼太さん。何か用事があったのでは?」
「あ、そうだった……ローゼさん、僕この城の図書室に行きたいんです」
真っ直ぐに見つめれば、ローゼは少しだけ驚いたような仕草を見せる。
「あらあら、どうしてそんな所に……」
「アクイラさんに用事があって、それで……場所はメイドの人に聞けば、わかるって聞きました」
「アクイラ、何のつもりかしら」
そう呟き悩むような仕草をした後、ローゼはこくんと頷いた。
「わかりました。メイドに案内させましょう」
そう言い、ローゼがその手に持つ杖を一度降れば、ふわりと影が盛り上がりその場所からメイドが姿を表した。
「御呼びでしょうか」
主の呼び掛けに答える彼女は、やはり今まで有ってきたメイド達の顔と全く同じだが纏う雰囲気は違う。
「彼を図書室へ案内してあげて下さいな」
「私も同行しよう。聞きたいことがある」
「スピカちゃんも行くの? なら私も一緒に行く!」
「……この2人も追加でお願いします」
どうやら、2人もついてくるらしい。どうせなら皆で行こうと涼太がレーゲンの方を見れば、レーゲンも同じ事を思っていたのかこくんと頷く。
「じゃ、俺もついて……」
「ああ、待ってください。貴方には話があります」
そのままついていこうとしたレーゲンの腕を、ローゼが慌てて掴んだ。
「何かしたのか、お前」
スピカの冷たい目線が、レーゲンに深く突き刺さる。
濡れ衣だと言わんばかりにレーゲンは身ぶり手振りで説明を始めた。
「いやいや!壺割ったぐらいで後は何も……」
「……壺の件も詳しくお聞きしたいですが……それだけではありません。詳しくは2人きりの時にお話ししますので、皆さんは先に図書室に行ってきてくださいな」
「らしいわ、何かごめんな」
レーゲンは少しだけ不満そうだが、文句は言わずに素直に従っている。少し可哀想だが涼太にはどうすることも出来ない。
「用はお済みでしょうか?」
「はい、図書室までの案内をお願いします」
「かしこまりました、此方へどうぞ」
彼女の手招きで3人は、図書室を目指して歩き出した。
地下から地上へ。
元来た階段をどうにか登りメイドの後ろを歩く3人は法則性がありそうで複雑な作りをした廊下を歩き、図書室までたどり着いた。
「では、私はここで」
「ありがとう」
メイドは忙しいのだろうか、彼女は案内を終えるとそそくさと逃げるように居なくなってしまう。
図書室の対した飾り気もない扉を、涼太がノックすれば、ぎぃと音を立てて扉が開く。
そのまま3人が中に入れば図書室の中央に立つアクイラの姿が目に飛び込んで来る。
「皆様。ようこそ御出下さいました」
「……アクイラさん。僕、聞きたいことがたくさんあって」
「はい。このアクイラの時間が許す限り、貴方様の疑問にお答え致しましょう」
そう言うや否や彼はその手に持つタイトルすら存在しない、古びた茶色の本を開く。
辺りが何とも言えない重苦しい雰囲気に包まれる中、アクイラは優しく微笑んでいた。




