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【消えた作品】  作者: 風花
第5章【霧の中の妖魔城】
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第62話【それぞれの思い】

「こちらで御座います」


 メイドに案内された涼太達が訪れたのは、地下へと続く終わりが見えない階段だった。

 紫の炎で照らされた無機質な石造りの階段は怪しげな雰囲気を纏っており、本来ならば通ろうとも思わないだろう。


「ここを降りれば、その……魔女の花園って所に付くのか?」

「はい。私が案内出来るのはここまでで御座いますので、失礼致します」


 メイドはそう言い、一礼すると元来た道を戻っていってしまい、涼太達はポツンとその場に取り残されてしまった。


「なんつーか。あのメイド、今までの奴と比べて冷てぇ奴だったな」


 小声で呟くその声は、少しだけ不満気だ。


「きっと忙しいんだよ。それより、皆の事もあるから早く降りよう」

「……それもそうだな」


 涼太の急かしもあってか2人は階段の様子を確認することなく、手早く降りていく。

 一段、また一段と足を進めても闇が消える気配はなく、一向に階段の終わりが見えてこない。

 妙な不安感を涼太が覚え始めた頃、ふと、レーゲンが話しかけてきた。


「……大丈夫か? 涼太」

「うん、今のところは」


 正直な所、妖魔と遭遇してから涼太の身に色々と問題が起こり過ぎていた。


 霧の中で妖魔に襲われ、この城に来てからは妖魔の王に弄ばれ、そして今は自分の何かを知るアクイラに図書室へと誘われている。

 そんな不安は夜霧の様に心に闇を作り出すが、涼太は必死にその思いを隠そうとした。仲間を悪戯に心配させたくなかったからだ。


 だが、そんな努力をしたところで彼には全てお見通しらしい。彼はため息をつくと「少し待て」と宣言した。


「どうしたの?レー……」


 立ち止まった涼太の言葉は最後まで紡がれることは無かった。不意に頭を撫でられたからだ。


「涼太、いいか? お前はまだ子どもだ。色んな事があって、広い世界を知って、それでもまだ子どもなんだ。お前なりに気を使ってるのかも知れぇけど……俺らは大丈夫だから無理だけはするな」

「……でも」

「それとも、俺の言葉は信用できないか?」


レーゲンが手を離して悪戯にそう言うので、涼太は必死に首を横に振る。


「ま、今のはちょーっとだけ()()()だったな。悪い」

「……レーゲン」

「どうした?」


 振り絞るように声を出せば、レーゲンは優しく受け入れてくれる。


 ここまでずっと頼りっぱなしだった彼らにまた頼るのか、また心配させるのかと脳が叫んだが、涼太はそれらの言葉を無視し、アクイラと会話した内容について話す。


 最後まで話した後、レーゲンは真顔で何かを考えるかのように両腕を腕を組んだ。


「超能力の事を知ってる奴、か。んー……アクイラってただの執事じゃねぇって事か?何か怪しいよなぁ」

「……でも、僕は」

「知りたいから一人でも聞きに行く、だろ?一人で大丈夫か?」


 力強く頷けば、レーゲンは笑ってくれた。


「なら行って来い!ただ何言われても、もう何も抱え込むなよ?俺達はお前の味方だからな」

「うん!」

「よし、じゃあスピカ達の所に戻るか」


 こくんと頷き、階段を降りるがすぐに違和感に気がつく。辺りを見渡せば、レーゲンがまだ立ち止まったままだということに気がついた。


「どうしたの? レーゲン」

「ん? 何でもねぇよ」


 そう言い、肩をすくめたレーゲンは地下へと続く階段をようやく降り始める。涼太はそんな様子を不思議に思いながらもその後を追うように階段を降りていった。






 とても長い階段をようやく降りきった2人の前に広がったのは青白の光に晒され、太陽の光を浴びずとも美しく咲き誇る、一面真っ白な薔薇の花畑だった。


「……これが、魔女の花園?」

「すげぇなこりゃ……ここ、本当にお城の地下か?」

「キレーイ」

「スゴーイ」


 勝手にうろつかぬよう、肩に乗せられるシュヴェ達の姿を横目で見ながら、涼太は花園に居ると聞いていたスピカ達の姿を探す。


 これだけ白いのだから黒の服を身に纏うスピカはすぐに見つかるはずだと考えるも、見える範囲にそれらしい黒は居ない。少しだけ移動しようと花園の中にある道を歩き出した次の瞬間、花が激しく揺れる音が聞こえた。


「誰!?」


 音がする方へ慌てて振り向くも、真っ白な薔薇が自己主張するからのように一面に咲き誇るだけで他の誰かの姿を見つけることは出来ない。


「ん?どうした涼太」


 シュヴェ達の相手になっていたレーゲンは気がつかなかったらしく、不思議そうにこちらを見つめている。


「それが……誰かにつけられてる気がして」

「メイドじゃね? それかスピカ達か」

「そう、なのかな」


 それにしては動きが不自然なような、涼太がそんな事を思いながら歩き出そうとした次の瞬間。


「がおー!」

「……へ?」


 突然、目の前にナナが現れたかと思えば次の瞬間には体に衝撃が走り、涼太はその場に倒れてしまった。ずしんとナナが乗る重みと、尻餅をついた痛みが体に響く。


「いてて……」

「つーかまえた!」


 ちらりとナナを見る。涼太の上に乗り捕まえたと宣言するナナはとても楽しそうで誇らしげだ。


「つけられてるってナナの事だったのか。……しかしまぁ派手にやったな」


 幸いにも道に倒れたので薔薇に切り裂かれるという事態は避けることが出来た。

 それでもナナに凄まじい力で倒され、その上乗られた涼太のダメージは相当なものだろう。


「ナナ……どうしてこんな事を?」

「スピカちゃん、ずーっとローゼちゃんとお話ししてるから暇だったの」


 涼太達が帰ってきたのが余程嬉しかったのだろう。ナナの目は爛々と輝き、尻尾は千切れんばかりに激しく振られている。

 それは、涼太なら遊んでくれるという期待が込められた物だと気がついたのだが、涼太にはまだやるべき事があった。


「……ごめんね、ナナ。僕まだやらなきゃいけないことがあるんだ」


 ナナの尾が、ぴたりと止まる。


「だから、スピカさんの所に案内してほしいんだ。終わったら一緒に遊ぼう、ね?」

「……わかった。その、やらなきゃいけない事が終わったら絶対遊んでね」


 そう不本意そうに呟き、涼太の上からどいてくれたナナに申し訳なく思いつつ涼太は立ち上がると、ナナの案内に従ってスピカの元を目指すのであった。

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